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桑迫伽奈 FLOW(名古屋)で10月8日-11月6日

PHOTO GALLERY FLOW NAGOYA(名古屋) 2022年10月8日〜11月6日

桑迫伽奈

 桑迫伽奈さんは2013年、札幌市生まれ、札幌市在住。北海道教育大学岩見沢校美術コース卒業。

 2019年、清里フォトアートミュージアム「ヤング・ポートフォリオ」入選。2019年、HOKKAIDO PHOTO FESTA2019ポートフォリオレビューグランプリ。2021年に、Case Publishingから写真集「不自然な自然」を出版した。 2022年、PITCH GRANTファイナリスト。

 札幌市を中心に作品を発表。FLOWでは、2021年に桑迫伽奈・イイダユキ写真展「夜になりすます」を開いている。

 また、masayoshi suzuki gallery(愛知県岡崎市)で2022年8月6日~9月4日にあった「3:IA/magazine創刊記念展『境界』」に出品している。

 山や森林などの自然を対象に撮影したイメージを加工する。

 プリントされた写真に刺繍をしたシリーズや、人工 / 自然の概念を問いつつ、森林のみならず、光、空気、風、木々の揺れ、植生、草花の匂いや空など、その土地で撮影したときに受け止めた全身の感覚を、ある場所の風景を何層にも重ね合わせて捉えた「不自然な自然」のシリーズがある。

 刺繍のシリーズは、今回のようにリアルな枝をなぞるように刺繍を施した作品のほかに、直線的な縫い目によって抽象化した作品がある。

 桑迫さんの作品は、プリントしたスチール写真に、撮影時に体験した空間的、時間的な気配、身体的な感性を回復させる試みともいえる。

2022年個展 seeing the invisible

 同じ「seeing the invisible」というタイトルを冠した個展を、2022年4月に札幌市のギャラリー創で開催。今回は、そのときの新作を再構成した。

 札幌市の自然豊かな土地で生まれ育った桑迫さんは、森林を当たり前のように被写体に選んだ。多くの森林は何らかのかたちで人の手が入っていることを知り、「自然」とは何かという問題意識が生まれた。

桑迫伽奈

 「自然」も「人工」も概念である。人間が決めた区分であって、それは相対的なものにすぎない。

 その人間が取り決めたものをできるだけ離れてみる。できるだけありのままに見るということを考える。「不自然な自然」でありながら、その森林の中に身を置いたときの自然=実感に近づきたい。それが「不自然な自然」というシリーズではないか。

 森林の風景がオーバーラップするイメージには、交差するまなざし、重層的な空間、経過する時間を通した木々や空気、光の揺らぎ、うつろいがある。

 一方、今回の 「seeing the invisible」 (見えないものを見る)は、見上げたような木々の枝の写真に刺繍をした作品である。葉が落ちた後とみられる冬の細い枝がネットのように広がっている。

 筆者は、真下から見上げた構図で樹と枝、空間と空との関係を描いた日高理恵子さんの絵画を思い出した。

桑迫伽奈

 モノクロームに近い桑迫さんの写真は、抽象絵画のようなイメージである。空を背景に具体的な木々が撮影された実景なのだが、それが黒っぽい枝(図)と白い空(地)の関係に近づいている。

 正方形のフレームできれいに切り取られているから、よけいにそう見える。個々の作品の枝の広がりに強い個性があるわけではない。

 筆者が思ったのは、この作品がとても不思議な感覚を伴うことだ。実景でありながら、どこか抽象化されたイメージだが、刺繍を施すことで、質感、生々しさが一気に呼び戻されている。

 刺繍糸の質感は、木々の枝のものとは異なる。色彩も、紫やオレンジ、黄緑などで、現実の枝の色ではない。だが、アンバランスでありながら、確かに息づき始めるのである。

 針と糸で縫うことによって、光の刻印であるイメージが活性化し、それが空間や時間、風や光の揺らぎの感覚に重なってくる。

桑迫伽奈

 それは、写真という媒体と、刺繍における針の動きや糸の性質、色彩との、ある種の不均衡、存在感や時間感覚の違いによるものだろう。

 現代美術で刺繡を使う作家は、うつろいゆくイメージを刺繡にした伊藤存さんをはじめ、佐藤香菜さん、福嶋さくらさん、宮田彩加さんなど、かなりの数に上る。

 だが、プリントした写真に直接、刺繡をする作家は珍しい。自然と人工、イメージと物質、美術と手芸、真実と虚構、抽象と具象、視覚と触覚など、さまざまなことを考えさせる。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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