AIN SOPH DISPATCH(名古屋) 2020年10月3〜24日

出口俊一個展 アイン ソフ ディスパッチ さまよう よるべ
出口さんは1993年生まれの若手。名古屋芸大を卒業後、愛知県立芸大大学院博士課程前期を修了した。米国で生まれ、幼少時は、中国で暮らしたといい、米国、中国、日本という多国籍の背景を持つ。
床置きの大作や、壁にしつらえた広がりのある作品から、壁に留められた小型の彫刻まで、さまざまなサイズの作品をつくる。
昨年に次ぐ個展で、今回も、展示空間には、大小さまざまな作品が展示された。

工芸的な雰囲気もあり、素材や制作技法が気になる作品である。
聞くところでは、木曽ヒノキを素材に、仏像などと同じ寄せ木造りで造形し、カシュー漆で装飾するのが基本。
細部の加工や、一見、銀色に着色されるなど金属に見える部分も、木で作るなど丁寧に制作している。

作品は、光沢のある黒い曲面が特徴。メインの作品など、舟、揺り籠のイメージが多く、そこからさまざまな形態へと広がっている印象だ。
舟は、移動する、旅をするイメージである。また、舟から派生し、月や牙、風景、生き物など、別のイメージへと想像がかきたてられる。

舟、揺り籠は、いずれも人が入る(乗る)容器である。
筆者は、出口さんの作品がはらむ宗教的な雰囲気から、ジム・ジャームッシュ監督の映画「デッドマン」で、ジョニー・デップ演じるウィリアム(ウィリアム・ブレイク)が魂の故郷に帰る舟を思い出す。
1996年にインタビューしたドイツの美術家、ヴォルフガング・ライプさんは、大理石や蜜蠟で作る自身の家や舟の作品について、「 家の形を逆さにすれば、もう舟の形になっていて、突然、開かれたものになる」と語った。
ライプさんの作品は、舟や家によって、精神への旅へと誘ったのである。


出口さんの作品にも、精神世界への関心を感じる。画廊によると、出口さん自身、考古学や宗教に関心があるという。
作品は、ほとんど、つややかな表面になっていて、とても軽やかな印象。浮遊感さえ感じる。
作品の一 部は小さく、さりげなく壁に留められている。まるで生き物のようにも見える。


植物が連想される形態、体の一部が突起物のように伸びた人体の異形もあって、不気味な感じもする。

黒い部分は、全体には、カシュー漆による滑らかな質感が多いが、一部は、龍脳や、墨を使うなどして変化をつけている。
所々に取り入れた銀箔は、酸化による変化も作品に取り込んでいる。


内部の空洞に、 小さな木彫や、作品についての考えを書いた文章を収めている作品もあって、振ると、音がする。
胎内仏のようなものであろうか。
今後、作品の輪郭がもう少し明瞭になると、一層、訴求力が高まるだろう。