ファン・デ・ナゴヤ美術展2021 平田昌輝 おばあさんの赤い石 名古屋市民ギャラリー矢田 1月24日まで

  • 2021年1月13日
  • 2021年1月14日
  • 美術

名古屋市民ギャラリー矢田  2021年1月7〜24日

企画・出品 平田昌輝 

 平田昌輝さんは1981年、富山県の旧利賀村(南砺市)生まれ。SCOTの拠点として知られる山村で、筆者も数回、取材で訪れている。

 2007年、東京芸術大学大学院修了後、富山県を拠点に制作している。2013年から、富山大学芸術文化学部講師。

 2020年6月2日から7月5日まで、岐阜市の岐阜県美術館、岐阜県図書館で開催されたアート・アワード・イン・ザ・キューブ(ART AWARD IN THE CUBE)2020 清流の国ぎふ芸術祭に出品している。

平田昌輝

 平田さんの作品は、2室を使った石彫と音声によるインスタレーションである。作品の根底には、石素材と人間への深い観照が感じられる。

 奥の小さい部屋には、利賀村で一人暮らしをする90代の祖母の手をかたどった赤石の彫刻「おばあさんの赤い石」が1つある。

 内側に関節が折れ曲がるなど、年齢の積み重ねと苦労をしのばせる手だ。

 祖母の自宅前の池のほとりにあった赤い石で制作。平田さんが目に留め、祖母に頼んで譲ってもらった石である。

 会場には、3つのスピーカーを設置。利賀村の素掘りの側溝の水音に重ね、祖母による記憶の語りが流れている。

平田昌輝

 手前の広めの部屋には、6つの石彫と3つのスピーカーがある。スピーカーからは、やはり祖母自身による語りの音声が聞こえてくる。

 6つの石のうち、5つは利賀村で産出した石灰岩あるいは結晶質石灰岩、泥質片岩、礫岩で、1つは別の場所で採れた緑色片岩である。

 それぞれの彫刻には、「逃げる少女」「祖父の叱責」「父親との帰宅」「横たわる母親」「眠る少女」「父親の死」と、祖母の記憶に関わるタイトルがついている。

平田昌輝

 つまり、祖母の記憶に基づく人生の場面が6つの石彫のモチーフになっている。

 7歳のときに祖父からこっぴどく叱られ、山仕事から帰った父親の後ろに隠れて帰宅したエピソード、父親の死・・・。

 平田さんは、日本の彫刻の近代化の過程で直彫りが一般化する中、どちらかと言えば否定的に捉えられがちな星取り法を用いている。

平田昌輝

 すなわち、粘土で原型を作った後に、それを石素材に写しとっていく方法である。

 変成岩を素材にしているのも大きな特長だ。

 既存の岩石が、地殻の中で温度や圧力などによる化学反応に伴ってさらに組織を変化させた変成岩の本質に、平田さんは、数千万年、数億年という時間をみている。

平田昌輝

 2013年から2017年にかけては、同じ富山大学の大藤茂教授(地質学)と協力し、全国の変成岩を調査した。

 そのうえで注目すべきは、素材を全て加工するのではなく、背面や底面を剥き出しの岩石が風化した状態のままで展示していることである。

 あるいは、平田さんの作品では、変成作用による石の模様が強く印象に残る点も強調しておきたい。

 つまり、平田さんは、祖母の語りに呼応する場面をモチーフとして示しつつ、石そのもの、石の形成過程でできた模様や、風化、侵食の痕跡を見せている。

平田昌輝

 とはいえ、忘れてはいけないのは、石そのものと言っても、今、現前にある石と彫られた姿は、数千万年、数億年という変化の中の一態様にすぎないということである。

 膨大な時間の地球の活動、あるいは長年の風雪にさらされた風化、侵食の変化にさらされた岩石に内在する大きな循環の時間に、人間の歴史、反復する輪廻の時間が重ねられている、と言うこともできるだろう。

 身近な家族の記憶の挿話をモチーフとした平田さんの作品には、一つの態様を超えた大きな循環の時間と変化が現出しているのだ。

平田昌輝

 平田さんが、石という存在に見るのは、仏教などのインド哲学でいうところの「劫」(こう)である。

 つまり、遠大なる宇宙論的な循環の時間である。

 祖母の時間が、輪廻する時間、人間の歴史へとつながり、「劫」(こう)を説くのである。

平田昌輝
平田昌輝
平田昌輝
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>伝えること、文化芸術とメディアについて

伝えること、文化芸術とメディアについて

1980年代から、名古屋、東京、関西で文化芸術を見てきた。新聞文化面、専門雑誌、「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、自ら新聞文化欄を編集、美術、映画、演劇などの記事を書いてきた。2000年代に入ると芸術批評誌を立ち上げ、2019年にはWEBメディアを始めた。文化芸術とメディアの関係、その歴史的展開、メディアリテラシー、課題と可能性、レビューや伝わる文章の書き方、WEBメディアの意義、構築方法について、若い世代に伝えたいと考えています。

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