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はざまもの OZ—尾頭—山口佳祐個展

AIN SOPH DISPATCH(名古屋) 2019年6月15〜29日
CHOCOLATERIE TAKASU(名古屋) 2019年6月14〜30日

 名古屋市内の2カ所で、長野県在住の山口佳祐さんの個展が開かれた。AIN SOPH DISPATCHの会場に並ぶのは、アクリル絵の具に土を混ぜ、支持体に塗りこめるなどした重厚な抽象絵画。一方、CHOCOLATERIE TAKASUでは、カフェスペースの壁などにアクリルで繊細に描いた浮世絵風の作品を展示した。いずれもアクリルで器用に描き分けられているものの、テイストは全く異なる。こうした自在さの背後にあるのは、幼少期から体に染み付いた鷹揚な創作意欲や、美術大学で学ぶことなく独学で枠にはまらず描くことに没入していた自由な姿勢があるのではないか。自らが引き寄せられる日本の伝統絵画、古美術の美しさ、土着性を咀嚼しつつ、現代的な画質の中に忍び込ませているところも魅力だ。
 「はざまもの」と題されたのは、AIN SOPH DISPATCHの展示。「はざま」=「間」とすると、それは日本の文化、生活、環境と建築などの間にある空隙、ある時間と別の時間を結ぶ静寂の間合いのことだといえる。様々な領域で無の充溢のような余白、沈黙としての小休止など、空間と時間を一つのものとして捉えた「間」を良しとする美意識が、日本にはある。それは具体的な物質、形、色、行為と対極にある静寂、何もない空間なのだが、空虚ではなく、人間の意識を向かわせる気配、予兆を感じさせる境界の美学でもある。

山口さんが原画を描いたパッケージ

 AIN SOPH DISPATCHの会場には、「はざまもの」として今年制作された最新作や、昨年12月、「シンビズム2」展の一環で長野県安曇野市豊科近代美術館で展示された作品などが紹介さてた。土や粘土をアクリル絵の具と混ぜて調合する試みから、大地への強い思い入れを持っていることが分かる。円のモチーフがしばしば登場。全体に黒、灰、焦茶など深く沈んだ色彩に黄土色や、くぐもった金色っぽい色彩などが加わり、円や不定形、線などシンプルな図というべきか、前衛書というべきかという形象が描かれ、一部は板で支持体を加工するなど変化をつけている。
 山口さんは1986年生まれ。独学で絵を描き、十代中頃にはライブペインティングを開始。全国をライブペインティングをして回るようになったという異色の経歴の持ち主だ。2011年、長野市の武井神社へ奉納した大絵馬「御柱大祭行列図」をきっかけに、絵馬の仕事にも力を注ぐ一方、16年には、「パークホテル東京」でアーティストが客室全体を装飾する「Artist in Hotel」にも歌舞伎の部屋を制作した。店舗の内外装の仕事をする一方、米ニューヨークの画廊など、海外にも自ら道を切り開いて進出するなど活躍は幅広く、バイタリティーたっぷりである。OZは、ライブペインティング時のアーティスト名。日本の神社に大絵馬を奉納するのにこれはまずいだろうと、「尾頭」の雅号が付いた。
 両極端を両極端と思わずウイングを広げて描く。幼時の描く純粋な喜びをそのままに、発注者の求めに応じて支持体や描く場所、描法を変えつつ、センスとユーモア、作品のクオリティーを担保する活力と貪欲さ、繊細さとしなやかさ、探究心とアイデアはなかなかのものである。即興的なペインティングや、繊細な筆による葛飾北斎など日本美術の引用があるかと思えば、土着性を感じさせる抽象作品も展開。浴室壁画や神社の天井画、奉納絵馬、あるいは、ロゴのような商業的デザインの仕事など、一般には純粋芸術とは異なるものまで、包み隠さず同列で描いているのは、描く喜びあってのものという他ない。

山口佳祐さんの絵画

 さて、「はざま」である。山口さんは、これをカミのようにあらゆる場所に存在する不可視の欠如と捉えている。この欠如は欠如ゆえの豊かさを内包させるが、同時に定義づけされた明瞭な枠をするりとかわしていくる山口さん自身のアイデンティティーに重ねることもできそうである。

山口佳祐さんの絵画
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