ふるかはひでたか
ふるかはひでたかさんは1968年、愛知県刈谷市生まれ。1992年に東京藝術大学油画専攻を卒業。1994年、東京藝術大学大学院美術研究科壁画専攻修士課程修了。 AIN SOPH DISPATCH(名古屋市)、なうふ現代(岐阜市)で個展を開いている。
2023年のアインソフディスパッチ(名古屋市)での個展、2022年のなうふ現代(岐阜市)での個展、2021年のアインソフディスパッチでの個展、2020年のなうふ現代での個展の各レビューも参照。

現代美術の方法論と、社会学(フィールドワーク)、そして歴史学(絵図や古文書などの史料調査)を絡ませながら、足元の地域の風景や食、文化などを問い直す作品を展開している。そして、何より描写力がものすごい。
江戸(東京)については集中的に対象とし、2016年に、「パークホテル東京」の3111号室にアーティストルーム「江戸-東京」の部屋を完成。その後、現代と江戸の風景を重ね合わせた「江戸-東京」シリーズの絵画を展開した。

卓上のロンド
今回は、「食」にフォーカスした作品群である。
「パークホテル東京」の仕事の後、「江戸-東京」シリーズのため、2016年から2020年頃に調査し、タウン誌「月刊日本橋」(2017年6月号から2019年12月号まで)に連載した作品や、医薬経済社のカレンダーに使われた作品の原画である。
いずれも、江戸時代からの味を引き継ぐ食、とりわけ日本橋あたりの食べ物がモチーフで、名古屋で紹介する機会がなかった作品を中心に展示している。
ふるかはさんは、江戸時代の食文化を彷彿させる現代の料理を老舗に赴いて実際に食する。そして、写真に撮影して、江戸の食文化の風景、風俗、歴史と進化を描いている。素材は紙にアクリル絵具である。

このリアリティーは目を見張るばかりだ。
ふるかはさんは、日本文化の骨格は、西洋化として明治時代に外から来た近代化ということ以上に、むしろ、明治以降、現代に至るまで、江戸の大衆文化、街場の文化が本質で、特に江戸の食文化は今も脈々と受け継がれていると考えている。
確かに、今回展示された食べ物の多くは、私たち日本人が普通に食べているものがほとんどである。美味しそうな東京の老舗の食べ物が、色艶や表面の照り、質感まで忠実に再現するように描かれている。
鰻や蕎麦、天ぷら、にぎり寿司、刺し身、軍鶏鍋、イノシシ鍋、生牡蠣など、食べたくなるほど、リアルである。

ふるかはさんはこれらを実際に食べている。そして、写真を撮影して描くが、写真を頼りすぎず、自分がその料理を見て、食べて、味わったそのときの全感覚を思い出して、描いている。
そのことがこのリアルさを生んでいるのだろう。つまり、写真はイメージの形式的再現には役立つが、それだけでは表面の模倣に過ぎず、感覚の体験的リアリティはそこに現れない。
つまり、写真を見て、単に模写することで解釈し、抽象化するのではなく、ふるかはさんは感覚的体験のリアルな質感を呼び覚ましながら、描いている。それこそが、具体的な生々しさが生まれる、ふるかはさんの卓越した描法である。