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「Photograph 記憶の花 藤原更 Sarah Fujiwara」ヤマザキマザック美術館(名古屋)で2024年4月26日-6月30日に開催

光で描き、記録を超えた記憶を表現

 「Photograph 記憶の花 藤原更 Sarah Fujiwara」が2024年4月26日~6月30日、ヤマザキマザック美術館(名古屋)で開催される。

 現代美術家、藤原更の作品は、写真でありながら、単なる写真ではない。以前、フランスで撮影した芥子畑の写真が、記憶に残る芥子けし畑とあまりにも違ったことから、記録写真をもとに記憶の芥子を表現したいと考えるようになった。「記憶の可視化」である。

 展覧会名に“写真”ではなく、“Photograph”を使っているのは、“Photo(光)graph(書く)”という単語が持つ本来の意味を踏まえ、「光で描く」思考を取りこんでいるからだ。

藤原更
《Melting petals 01》撮影:2007年 制作:2013年 101.5×150.0×2.8㎝ ヤマザキマザック美術館

 藤原は「光で描く」ことで、記録を越えた記憶の芥子を表現し、Photograph が持つ可能性を更に拡張しようと試みている。

 今回紹介する「花三部作」(蓮・薔薇・芥子/ハス・バラ・ケシ)は、コマーシャルフォトグラファーとして第一線で活躍した藤原ならではの「光と時間を駆使して瞬間を切り撮る写真」に、日本画の“ぼかし”や独自の“剥離”など、記憶のあいまいさを表現するための多様な技法が加えられている。

 藤原更の『記憶の花』には、「命の儚さ、そして存在の輝きを表現したもの」が宿っている。

開催概要

展覧会名:「Photograph 記憶の花 藤原更 Sarah Fujiwara」
会  期:2024年4月26日(金)~6月30日(日)(58 日間開催)
会  場:ヤマザキマザック美術館 461-0004 愛知県名古屋市東区葵 1-19-30
電  話:052-937-3737 FAX 052-937-3789
開館時間:平日10:00~17:30(最終入館17:00)、土日祝10:00~17:00(最終入館16:30)
休 館 日:月曜日(4月29日、5月6日は開館)、5月7日
入 館 料:一般1,300円(10名以上1,100円)、小・中・高生500円、小学生未満無料
※各種障害者手帳(ミライロID可)を提示の方とその同伴者1名は1,100円
〔音声ガイド無料サービス〕

主  催:ヤマザキマザック美術館、中日新聞社
協  力:株式会社カセットミュージアム
後  援:愛知県教育委員会、岐阜県教育委員会、三重県教育委員会、名古屋市教育委員会、公益財団法人名古屋市文化振興事業団

展覧会構成

第一章 NEUMA

藤原更
《Neuma 03》撮影/制作:2011年 ラムダプリント 100.0×80.0cm 個人蔵

 2011年の東日本大震災後まもなく、魂の救済を意味する蓮を被写体に、泥の中の枯れて折れた蓮の茎の風景に希望を見いだすことができないかと取り組んだ作品。

 NEUMA(ネウマ)は、グレゴリア聖歌など、中世の記譜において用いられた記号である。時代や国を超えた祈りを捧げる想いを持って、このシリーズ名が付けられた。

《見どころ》
 泥の中で枯れて折れた蓮の茎の風景を撮影したストレートフォトであるにもかかわらず、目の前に見える景色とはまるで違った色合いが表出されている。

藤原更
《Neuma 04》撮影/制作:2011年 ラムダプリント 100.0×80.0cm 個人蔵

 NEUMAは、東日本大震災後の3月中旬から撮影制作をスタートしたシリーズである。藤原は、目の前に広がる現状を、大判カメラとインスタントフィルムで撮影した。

 そして、その場でフィルムを手のひらで温めたり、水をかけたりするなどの温度調整や、太陽光などの強力な光の導入、現像時間の加減など、さまざまな工夫を施して、希望や癒やしを感じさせる豊かな色合いに現像/プリントした。

 藤原は、手のぬくもりや自然の力を借りることなどを通して、「光でNEUMAを描いた」のである。

第二章 LA VIE EN ROSE

藤原更
《La vie en rose 01》撮影:2013年 制作:2014年 111.2×67.8×5.0cm 個人蔵

 鮮やかに咲き誇る薔薇の花びらを至近距離で撮影した、独自の Antanagraph(アンタナグラフ)と呼ばれる作品。鑑賞者の心象、鑑賞環境、時間、光によって見え方が変化する。

 LA VIE EN ROSE(ラ・ヴィ・アン・ローズ)=「薔薇色の人生」とは一体何色なのだろうか。

《見どころ》
 鑑賞者の心を映し出すための Antanagraph と呼ばれる二層構造。薔薇の花弁が映し出されているのは透明な UVカーリングプリントで、その奥に輝く層が仕込まれている。

藤原更
《La vie en rose 03》撮影:2015年 制作:2015年 110.8×67.0×5.0cm 個人蔵

 鑑賞者の見る角度や動き、光の加減によって、薔薇の花弁の像が輝く層に乱反射して、さまざまに表情を変える。

 藤原は「色温度」を利用することで、赤い薔薇、白い薔薇、青い薔薇という、それぞれの薔薇が持つ色彩の魅力を引き出し、撮影した。

 色温度とは、光が持っているさまざまな色を示す言葉で、色温度が低いと光は赤味がかり、色温度が高くなると光は青味がかる。

藤原更
《La vie en rose 05》撮影:2014年 制作:2015年 110.8×77.3×5.0cm 個人蔵

 白い薔薇は、白をより引き立たせるために、色温度が高い朝の青い光を利用している。藤原は、早朝のテラスに4輪の白薔薇をセットして朝の光で青味を加え、さらに露出を上げることで部分的に色を飛ばし、光を透過させ、後ろの層で反射させる作品構造をつくった。

 季節や天候、時間といった、さまざまな要因によって、色温度は変化し、光の見え方はめまぐるしく変わる。

 LA VIE EN ROSE は「光で描く」藤原ならではの、色温度を巧みに利用した作品である。

第三章 MELTING PETALS

藤原更
《Melting Petals 05》撮影:2016年 制作:2019年 79.8×120.0×2.8cm 個人蔵

 MELTING PETALS(メルティング・ペタルズ)とは、溶けゆく花びらのこと。2007年にフランスで撮影した際に見た芥子畑の記憶を、時を越えて蘇らせた作品である。

 五官を通し、記憶に残された芥子の姿が、大型ストロボやプリント技術を駆使し、さらにぼかしや剥離技法を加えて、鮮やかに表出されている。

《見どころ》
 2007年に藤原がフランスで撮影した芥子畑は「赤い無数の花が風にゆれ、まるで手招きをしているようだった」という。

 そこで感じた風や空気、気温、夕陽の美しさ、そうした五官を通して記憶に残った芥子の花を数年後に再現したのが、MELTING PETALS のはじまりだ。

 藤原は、過去に撮影した“記憶とは違う”芥子の記録写真をプリントし、それにライティング技術を駆使してさまざまな光をあて(=「光で描く」)、さらに剥離やぼかしを加えることで、記憶に残る姿を目の前に 蘇らせた。

 それを再び撮影して作品化したのが MELTING PETALS。展覧会では、五官を通して鑑賞者に楽しんでもらえるよう、インスタレーションも展示される。

イベント

ガイドツアー
①藤原更さんと学芸員による案内
参加無料
※ただし要当日鑑賞券 / 予約不要 / 定員 20名(先着順)
日時:4月27日(土)、5月25日(土)、6月22日(土) 各日10:30~11:30

②学芸員による案内
参加無料
※ただし要当日鑑賞券 / 予約不要 / 定員 20名(先着順)
日時:5月11日(土)、6月8日(土) 各日 10:30~11:30

トークイベント
藤原更さんと森岡督行さんが語る『記憶の花』
日時:5月11日(土) 17:20 受付開始 / 17:40開始 / 18:40終了予定
参加無料
※要当日鑑賞券 / 事前予約制 / 定員 35名
申し込みは4月14日(日)から電話(052-937-3737)で
森岡督行氏
 「一冊の本を売る書店」をテーマに、1冊の本から派生する展覧会を行いながら、その本を販売する銀座森岡書店の店主

ナイトミュージアム
「祈りの昇華 ~音楽の父と母が遺した希望の調べ~」

日時:6月22日(土)17:45 受付開始 / 18:15 開演 / 19:15 終演予定
会場:ヤマザキマザック美術館5階展示室
出演者:中川祥治[リュート]、森川侑子[ソプラノ]、髙橋弘治[チェロ]
費用:友の会会員¥2,000(税込) 一般¥4,500(税込)
※一般申込者には本展当日券付
曲目:J.S.バッハ / レチタティーヴォ「われは満ち足れり」とアリア「疲れし瞳よ」BWV82 より他
申し込みは6月2日(日)から美術館1F受付、もしくは電話(052-937-3737)で
※未就学児は参加できない
※友の会会員先行受付

藤原 更

藤原更
作家ポートレート

 愛知県津島市生まれ。現代美術家。1999年を境にコマーシャル・フォトグラフの分野からアートの世界へと踏み出す。パリ、ブリュッセル、マドリッド、ニューヨークなど国内外で作品を発表。

 写真表現の可能性を探り、様々な写真技法とメディアを駆使して制作された作品は、平面、そしてインスタレーションと多岐にわたる。

 パリ、ニューヨーク、ロサンゼルスなどのアートフェアで注目を浴び、国内はもとより海外でも展覧会が多数開催されている。うつろう存在から、その本質をキャプチャーし、記憶の断片を可視化するかのような作品群は鑑賞者の心象風景に語りかけ、幅広い層から支持を受ける。

 1997年、清里フォトアートミュージアムにドキュメンタリー作品が永久コレクションに。2001年にフランスでの企画個展をきっかけに、写真を使ったアート作品の展覧会が国内はもとより海外でも多数開催される。

 2014 年にはフランスのフォトフェスティバルで招待作家として、3空間を担当。国内外にコレクターを持つ。

 2022年10月、造本家・町口覚氏による Art book “Melting Petals”を出版(寄稿:写真評論家・飯沢耕太郎氏、ポートランド庭園財団上席執行役員・中西玲人氏)。

 同年には出版記念展が、森岡書店(銀座)、MARGIN GALLERY(日本橋)、Gallery 176(大阪府)、2023年ジェイアール名古屋タカシマヤ美術画廊で開催される。

Art book “Melting Petals”について
 藤原更が15年にわたり撮影制作を続けるケシの花シリーズが、造本家・町口覚氏によって Art book 『Melting Petals』として集約された。大胆かつ緻密な造本設計により、藤原更の世界観を具現した仕上がりとなっている。

 第一章「Scattered Memories in the Field of Transience」は藤原従来の大胆な構図や色彩に加え、撮影からプリントまでのタイムラグにより起こる記憶の曖昧さに着目し、制作が進められた。

 第二章の「VOID; Inseparable Domains 空;不可分の領域」ではケシの花が消滅してゆく様を 2013年から始めた独自の「剥離技法」により表現、第三章の「Uncovered Present ありのままの現/在」へと続いてゆく。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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