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猫を切り口に見る現代美術展「ねこのほそ道」豊田市美術館(愛知県)で2月25日-5月21日に開催

佐々木健 《ねこ》 2017年 油彩、カンヴァス 個人蔵 Courtesy of the artist and Gomike

泉太郎、大田黒衣美、落合多武、岸本清子、佐々木健、五月女哲平、中山英之+砂山太一

 猫ブーム到来ともいわれる中、現代美術を通して、”猫的なるもの”を見る現代美術展「ねこのほそ道」が2023年2月25日~5月21日、愛知・豊田市美術館で開催される。

 猫は、決して飼いならされることなく、独立心旺盛で人間の気持ちに無頓着な一方で、何かの役に立つわけではなく、ただ、そのかわいく優雅な振る舞いで人間を魅了する。

  展覧会には、泉太郎、大田黒衣美、落合多武、岸本清子、佐々木健、五月女哲平、中山英之+砂山太一 の6人と1組のアーティストが参加する。

 かわいさ、日常性、くつろぎ、自由、野性、ユーモアなど猫の特性をはじめ、人間と異なる空間感覚や進化の時間など、猫を媒介に多角的に世界を見ることで、人間中心の秩序やルール、社会のあり方を逆照射する。

岸本清子 《I am 空飛ぶ赤猫だあ!》 1981年 ラッカー、パステル、カンヴァス 宮城県美術館蔵

展覧会概要

会  期:2023年2月25日[土]〜5月21日[日]
開館時間:10:00-17:30(入場は17:00まで)
休 館 日:月曜日[5月1日は開館]

主  催:豊田市美術館
協  力:青山目黒、KAYOKOYUKI、小山登美夫ギャラリー、SUNAKI. Inc、TAKE NINAGAWA、中山英之建築設計事務所
協  賛:GEMINI Laboratory by TOPPAN   

観 覧 料:一般1,000円[800円]/高校・大学生800円[600円]/中学生以下無料
※[ ]内は前売券及び20名以上の団体料金
※前売券は豊田市美術館(1月29日まで)、T-FACE B館2階インフォメーション(2月24日まで)で購入できる
※障がい者手帳のある人(介添者1名)、豊田市内在住または在学の高校生及び豊田市内在住の75歳以上は無料(要証明)
※その他、観覧料の減免対象者及び割引等については同美術館ウェブサイトで確認

落合多武 《猫彫刻》 2007年 ポリウレタンプラスチック、キーボード 個人蔵 ©Tam Ochiai

見どころ

日常性

 猫は、これまで菱田春草、竹内栖鳳、藤田嗣治などの多くの画家に描かれてきた。かわいらしさと同時に野性味を併せ持つ猫は、画家たちの格好の題材だった。佐々木健は、背景のない肖像画のような構図で油絵の具による写実的な猫を描くが、同じ手法で雑巾やテーブルクロス、ブルーシートなど通常目に留められることのないものも細密に描いている。佐々木の絵画は、近代日本の油絵が構築しようとしてきた「大きな主題」を解体し、日常のささやかなものへとまなざしを向け直している。

くつろぎ

 猫の優雅な無気力さと無関心な休息ぶりは、見る人を和ませる。大田黒衣美は、人がリラックスするときに噛むガムを素材に公園で憩う人々の姿をかたどり、アトリエにふらりと立ち寄った猫の上に置いて写真を撮る。そのとき、広がる猫の毛並みは平原になり、見立てのような独特のおかしみをもった風景が現れる。

野性

 完全に飼いならされることがない猫は、時折、人間の支配欲をかき乱す。猫を愛と自由の象徴とみなした岸本清子は、「赤猫革命」と称して、社会変革を訴えるパフォーマンスをした。岸本の絵画やパフォーマンスは、日常に対するラディカルな攪乱要因となる。

ユーモア

 野性を失わない猫は、人間とともに暮らすようになると、紐や球を追いかけたり、驚いて身長の数倍高く飛び上がったりと愉快な習性を見せる。泉太郎は、動物の異質性を作品に取り込んで、人間の知覚とは異なる不条理なユーモアを生みだす。

ポエジー

 犬のように人間の指令に従うことなく、自分で触れ、嗅ぎ、見る猫は、言葉に支配されない。気ままなだけに、しばしば非論理的な存在として多くの詩に登場してきた。落合多武の作品に登場する猫は、自由な連想遊びのような豊かな余白をはらんで、独特のポエジーを生む。

ミクロとマクロ

 猫の視点を介せば、本棚は山に、絨毯は大平原になる。中山英之+砂山太一は、各部屋が岩でできた住宅模型や、紙でできた石の家具「かみのいし」を展示して、美術館の空間に変容をもたらす。

積層する時間

 猫には、人と暮らすようになるまでに進化の長い道のりがある。絵画の歴史の最先端にあって、あくまで自らの体験に根差して制作する五月女哲平の絵画やオブジェは、表面から見えない色層の時間感覚によって、展示空間をささやかに変化させる。

五月女哲平

作家略歴

泉太郎(IZUMI Taro、1976年生まれ、東京拠点)

泉太郎(IZUMI Taro、

泉太郎 《ねこ》 2005年 映像 ©Taro Izumi

 泉太郎は、映像、オブジェ、パフォーマンスを織り交ぜたインスタレーションで、ゲームのような手法を用い、身体の不自由と無意味の自由の狭間に不条理なユーモアを生みだす。

 泉の作品にはしばしば動物が現れるが、その異質性を通して人間の慣習から外れた回路を開き、知覚を宙吊りにする。

 主な展覧会は、個展「Sit Down. Sit Down Please, Sphinx」(東京オペラシティアートギャラリー、2023年)、個展「ex」(バーゼル、ティンゲリー美術館、2020年)、個展「Pan」パリ、パレ・ド・トーキョー、2017年)、個展「こねる」(神奈川県民ホールギャラリー、2010年)など。

大田黒衣美(OTAGURO Emi、1980年生まれ、愛知拠点)

大田黒衣美 《旅する猫笛小僧》 2013年 ウズラの卵、ワックスペーパー、布、包装紙  個人蔵

 大田黒衣美は、ウズラの卵の殻、ガム、猫の毛並みなど自在な素材を用いて、絵画とオブジェ、写真の中間領域にあるような作品を制作する。

 見立てに似た手法により、擬態の役割を果たすウズラ卵の模様は風景になり、気分転換のために嚙むガムは公園で休憩する人々になり、猫の毛皮は野原になって、日常に飄々とした光景を生みだす。

 主な展覧会は、個展「the reverie」(東京、KAYOKOYUKI、2022年)、個展「Mesa」(ベルリン、クンストラーハウス・ベタニエン、2020年)、個展「project N 55 大田黒衣美」(東京オペラシティアートギャラリー、2014年)など。

落合多武(OCHIAI Tam、1967年生まれ、ニューヨーク拠点)

落合多武

 落合多武は、ドローイング、絵画、オブジェ、彫刻、パフォーマンスなど、多様な表現手法をとりながら、作品にポエジーをまとわせる。

 過去の記憶や体験を自由な連想遊びのようにつないだドローイングは、容易に意味を成さない豊かな余白を生む。作品には、しばしば意味を逃れる気まぐれな脱領域的存在のように猫が登場する。

 主な展覧会は、個展「輝板膜タペータム」(東京、銀座メゾンエルメスLe Forum、2022年)、個展「旅行程、ノン?」(東京、小山登美夫ギャラリー、2019年)、個展「スパイと失敗とその登場について」(東京、ワタリウム美術館、2010年)など。 

岸本清子(KISHIMOTO Sayako、1939年生まれ、1988年没)

 岸本清子は、ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズ(ネオダダ)のメンバーとして、1960年代の前衛芸術シーンで活躍した。

 1979年に名古屋に帰郷した後は、近代文明批判としての絵巻物や歴史的人物の肖像画などを制作。愛による社会変革を呼びかけるラディカルなパフォーマンスやライブ演奏も展開した。岸本の作品に描かれる猫は、愛と自由の象徴である。

 主な展覧会は、「岸本清子遺作展」(名古屋、名古屋電気文化会館、1990年)、個展「創世記の崩壊—そして、海」(名古屋、ボックス・ギャラリー、1980年)、個展「I am 空飛ぶ赤猫だあ!」(名古屋、ギャラリー 79、1981年)、個展「最後の晩餐」(東京、明治画廊、1977年)など。

佐々木健(SASAKI Ken、1976年生まれ、東京拠点)

佐々木健

 佐々木健は、テニスボール、雑巾、テーブルクロス、音響器具など、絵画の主題になりそうもない身近な物を油絵具で写実的に描く画家である。

 それは、写実より表現を追究することで、近代の現実を凌駕することになったロマンチシズムへの批判であるとともに、すべてのものを等価に見るという態度の表明である。その姿勢は、障害のある兄を介して、社会とケア、社会と芸術及び芸術家の問題を扱う最近の活動にも通底している。

 主な展覧会は、個展「合流点」(神奈川、五味家〈The Kamakura Project〉、2021年)、「佐々木健:仮設オープンスタジオ 4,5,11,12 May 2019」(東京、青山目黒、2019年)、「不純物と免疫」(東京、トーキョーアーツアンドスペース本郷/ 沖縄、BARRAK 1、2017-18年)など。

五月女哲平(SOUTOME Teppei、1980年生まれ、東京・栃木拠点)

五月女哲平 《our time》 2020年 アクリル、木、 《You and I》 2019年 アクリル、木 ©Teppei Sotome

 五月女哲平は、対象を幾何学的な色面に変換する絵画で注目されたが、近年は、無彩色の黒やグレー、白の色面が画面を覆い、地と図が幾何学形象を成す、よりミニマルな絵画を制作している。

 一見シンプルに見える絵画の下に何層にも塗り重ねられた色彩があり、図の縁に色の微かな揺らぎが生じる。五月女の作品は純粋絵画を志向しているようで、その対象は常に自身の身近なところから選ばれている。

 主な展覧会は、「our time 私たちの時間」(東京、青山目黒、NADiff a/p/a/r/t、void+、2019年)、「絵と、」(東京、αM、2018年)、「絵画の在りか」(東京オペラシティ アートギャラリー、2014年)、「リアル・ジャパネスク」(大阪、国立国際美術館、2012年)など。

中山英之(NAKAYAMA Hideyuki、1972年生まれ、東京拠点)+砂山太一(SUNAYAMA Taichi、1980年生まれ、東京・京都拠点)

中山英之+砂山太一 《かみのいし》 2020年 紙、木 ©中山英之建築設計事務所

 建築家である中山英之は、大-小、内-外を反転あるいは入れ子状にして、それまで重視
されていなかった空間も巧みに生かす建築家である。砂山太一は、建築をはじめ、美術を含めた芸術領域全般で、制作・設計・企画・批評を手掛けている。

 二人の建築家が共同で手掛けた「かみのいし」は、文字通り紙でできた石そのものに見える家具で、生活の中に異質なユーモアを生みだす。

 主な展覧会・作品は、中山英之+砂山太一「紙のかたち展2 ふわふわ、ごろごろ、じわじわ」(東京、竹尾 見本帖本店、2017年)、中山英之/設計「石の島の石」瀬戸内国際芸術祭(香川県、小豆島、2016年-)、「中山英之展 ,and then」(東京、ギャラリー間、2019年)、 砂山太一/「第17回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展」(イタリア、日本館、2021年)など。

同時開催企画 愛知県美術館・豊田市美術館同時期開催コレクション展 徳冨満ーテーブルの上の宇宙

 名古屋市に生まれた徳冨満(1966-2001年)は、知覚と認識の間のちょっとしたズレや、物のかたちと同一性をめぐる思索を鮮やかな手つきで作品として提示するアーティストである。

 愛知県美術館と豊田市美術館では、両館が所蔵する全作品を通じて、短い期間にも関わらず多彩な作品を生みだしたアーティスト、徳冨満の全貌を紹介する。

期 間:2023年2月25日(土)-5月21日(日)
休館日:月曜日[5月1日は開館]
会 場:豊田市美術館 展示室3
観覧料:一般300円[250円]/高校・大学生200円[150円]/中学生以下無料 ※[ ]内は20名以上の団体料金

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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