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「水谷勇夫と舞踏—『蟲びらき』をひらく—」出版 愛知県美術館での展示に合わせて

 愛知県美術館で2020年9月6日まで開催されている「水谷勇夫と舞踏」展に合わせ、「水谷勇夫と舞踏—『蟲びらき』をひらく—」が出版された。発行は樹林舎、発売は人間社。1000円(税別)。

大野一雄さんの「蟲びらき」の舞台美術

水谷勇夫

 「水谷勇夫と舞踏」展は、名古屋を拠点に活動した画家、水谷勇夫さん(1922〜2005年)と、土方巽さん(1928〜1986年)、大野一雄さん(1906〜2010年)らの舞踏(暗黒舞踏)との関わりに焦点を当て、2020年4月3日に愛知県美術館でオープンした後、新型コロナウイルスの感染予防のため、いったん中断。6月25日に展示を再開し、9月6日まで開かれている 

 水谷さんが制作した大野さんの舞踏公演「蟲びらき」の舞台美術を再現。貴重な関連資料も展示している。公演は、88年、東京・池袋の西武百貨店にあった実験的スペース「スタジオ200」で初演され、90年に名古屋・七ツ寺共同スタジオで再演された。

 展示の詳細は、「小企画『水谷勇夫と舞踏』展 愛知県美術館」

「水谷勇夫と舞踏—『蟲びらき』をひらく—」出版

 「水谷勇夫と舞踏—『蟲びらき』をひらく—」は、B5判47ページ。

 巻頭の馬場駿吉さんの原稿「熱風の時代回顧 『水谷勇夫と舞踏』展によせて」は、1960年代前半頃の水谷勇夫さんとの出会い、水谷さんが舞台美術を担当した「蟲びらき」の七ツ寺共同スタジオでの再演(1990年)など、当時の雰囲気を伝え、引き込まれる。

 愛知県美術館での展示を担当した主任学芸員、越後谷卓司さんは、「『蟲びらき』の資料群から見えてくるもの」は、演劇やダンスなど、一回性の芸術公演の特質に触れつつ、1970年代の初期ビデオアートの動向の中で、ビデオアートセンターの活動が演劇、舞踏などの公演記録を志向したことを紹介している。

 大野一雄さんが独自性を確立した舞踏公演「ラ・アルヘンチーナ頌」(初演1977年)の記録映像もこの活動の一環で、手塚一郎制作によって残ったものだという。大野さんは記録映像の公開について積極的で、「ラ・アルヘンチーナ頌」のみならず、「蟲びらき」(1988、90年)に関わる映像も残されていて、それらが今回の舞台美術再現で大きな役割を果たしたという。このほか、越後谷さんは、「蟲びらき」のクライマックスで登場する大道具《かれい》などについて分析を試みている。

 ほかにも、関連する水谷さんのエスキース、チラシ、舞台美術の再現写真などを紹介。関連年表、水谷勇夫さんの文章や活動記録も掲載した。

水谷勇夫

 また、論考、エッセイも数多く収録。NPO法人舞踏創造資源代表理事、森下隆さんの「『蟲開き』と『蟲びらき』」、NPO法人ダンスアーカイヴ構想理事、溝端俊夫さんの「むしびらき蟲びらき蟲開き」、多摩美大客員教授、國吉和子さんの「大野一雄舞踏公演『蟲びらき』1988年の舞台」、七ツ寺共同スタジオ元代表、二村利之さんの「水谷さんと舞踏、七ツ寺共同スタジオとのかかわり」、アーティストで水谷勇夫さんの息子の水谷イズルさんによる「『蟲びらき』裏話1 土方巽と水谷勇夫」「同2 大野一雄舞踏公演蟲びらき」など、大変貴重な文章、資料が集められている。


 

 

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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