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海と時のニーモニック Sin+Sin(高島マキコ+柳洵) 2023年1月6-15日 名古屋市民ギャラリー矢田

名古屋市民ギャラリー矢田 2023年1月6~15日

Sin+Sin(高島マキコ+柳洵)

 高島マキコさんは、小学生から20代初めまでを愛知県で過ごし、ダンサーとして活動後、20代半ばに渡英した。身体性と芸術について、深く学ぶためである。

 ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズでパフォーマンスアートを学んだ。その後、ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジで哲学を修め、ロイヤルカレッジ・オブ・アートでは、情報体験デザインコース修士を修了した。

Sin+Sin(高島マキコ+柳洵) 

 ダンサーとしての経歴から身体性への問題意識をベースに持ちながら、地球規模の自然や環境のテーマ、テクノロジーに結びつけている。現在は、東京とロンドンが拠点である。

 展示は、名古屋市市民文化振興事業積立基金(文化基金)を活用し、1999年から開催している「ファン・デ・ナゴヤ美術展2023」の一環。高島さんにとっては、名古屋で初めての作品発表となる。

 個人の記憶と集合的無意識、自然と環境、テクノロジーと身体性の融合をテーマとし、立体、インタラクティブアート、平面、映像など幅広いメディアで表現している。

海と時のニーモニック

Sin+Sin(高島マキコ+柳洵) 

 今回の作品は、映像と立体を組み合わせたインスタレーションである。過去の作品でも、高島さんの作品はかなり大掛かりなものになっている。

 本展でも、市民ギャラリー矢田・展示室1の天井高6メートル、256平方メートルの大空間をダイナミックに使っていた。

 展示会場の正面にあるメインの映像は、欧州で出会った人々に「あなたの、初めての海の記憶はどのようなものですか」と尋ねたインタビューと、美しい海のランドスケープで構成されている。

Sin+Sin(高島マキコ+柳洵) 

 人々は、オランダ、インド、ルーマニア、ナイジェリア、香港、日本などの出身者で、ほとんどの人が国境を越える移動を体験している。

 若者、高齢者、男性、女性‥‥。それぞれに初めて見た海の記憶をノスタルジーとともに語る。景色、音、光、風、匂い、砂の感触、食べ物の味覚など、人によって、記憶のたどり方はさまざまである。人間のいろいろな感覚と結びついている。

 高島さんは、このインタビュー映像で、それぞれの幼少期の記憶とつながった海についてのイメージ、感覚を鑑賞者の中に共有させる。

Sin+Sin(高島マキコ+柳洵) 

 それとは別に、天井から吊るされたスクリーンには、水をめぐる映像が投影されている。

 世界遺産であるスロベニアのシュコツィアン洞窟群(鍾乳洞)の中で滴る水をはじめ、世界各地の循環する水のイメージである。

 海の記憶に関するインタビューや、世界中の海、あるいは水の映像を見ていると、国や地域、地形、環境、自然現象、来歴など、一見バラバラな映像がつながり、地球という水の惑星をめぐる集団的記憶へと導かれるような感覚に導かれる。

Sin+Sin(高島マキコ+柳洵) 

 それは、この地球上で、太古から長い年月をかけてつくられた多様な自然環境と循環する水の壮大な世界、あたかも神話のようなものと言っていいものである。

 水をめぐる個々のシーンが連なることで、人間が認識する大いなる水の循環が、国・地域や民族、文化、時空を超えた超自然的、形而上的なものに感じられる。

 さらにユニークなのは、バルーンによる巨大な身体の一部を展示している点だ。腕、脚、そして頭部である。これらは、高島さん自身の身体を3Dスキャンして拡大したものだ。

Sin+Sin(高島マキコ+柳洵) 

 とりわけ、金色の頭部は、ふにゃりと床に潰れて置かれているが、鑑賞者が近くを通ると、インタラクティブに反応して、立ち上がる。

 さまざまな人々の海をめぐる極私的な記憶と感覚、高島さんという1人の人間の身体性と、世界の海の映像、水の循環のイメージ‥‥。

 個人と人類、イメージと記憶、感覚、過去と現在、ミクロの水の変化と地球規模の自然環境、身体性とテクノロジーが結びつき、1つの世界観が形成されている。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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