名古屋のカルチャーWEBマガジン「アウターモーストナゴヤ」では、レビュー、リポート、トピックスなどを掲載します

杉尾信子〜ドローイング〜ギャラリーA・C・S

ギャラリーA・C・S(名古屋) 2020年2月8〜22日

このギャラリーでの3回目、5年ぶりの個展。杉尾さんの作品を見るのは今回が初めてである。滋賀県立大を卒業した後、京都造形芸術大通信教育部を卒業し、滋賀県彦根市を拠点に繊細なドローイング作品を発表している。子育てをしながら制作している作家と聞いた。ほとんどは、キャンバスにアクリル絵の具で黒い細密な線を引き、中間色を中心とした柔らかな色を付ける。気をてらわない素朴な画風だが、静かにしみいるような優しさ、そう見えて凛とした強さが心地よい作品である。一部は、紙に透明水彩絵の具を使ったものもある。

杉尾信子
杉尾信子

とても繊細できれいな線を引ける人だ。性格なのだろうか、感性によって自在に線が動くように見えて抑えが効いている。黒線の肥痩、緩急、屈曲、所々に連なるドット、線が織りなす粗密のセンスが良く、その上から薄く溶いてのせていったと思われる淡い色彩も、優しく透明感がある。細部の線の動き、ためらいがちに進みながら、行きつ戻りつ、曲がって、少しスピードを上げる。筆が休憩するように絵の具がそこに溜まって、また動き出す。ジグザグ道をゆっくり進みながら、今度は、飛び石のようにリズミカルにドットが刻まれる。かと思えば、さっと、勢いよく軽やかに流れていく——。そんな線とそれと響きあう色彩がとても気持ちいい。

杉尾信子

音楽を聴いて制作した作品もあるとのことで、「ピアノ五重奏 Op.44(I)」「狂詩曲」などのタイトルがついている。他には、「山笑う」「円と四角」「山の秋」「雪が来る」「とりとめもない今日」などと、風景や天候、日常のひととき、自然、出来事に関わるタイトルがつく。そうした生活感のあるタイトルから、察せられるのは、制作が生活の中に溶け込むような一部ながら、作家にとってなくてはならない重要な時間だということである。

杉尾信子

 横に2作品が並んだ「優しい雨」「激しい雨」では、その言葉にふさわしい心象風景が見事に表出されている。「粧う山」などは、紅葉に染まる山のようなイメージ。各作品とも、タイトルと画面の雰囲気が見事に合っているので、タイトルを決めてから描くのかと思いきや、逆で、タイトルは後からつけるそうだ。ということは、何かをイメージして線を引いているのか、それとも、自動筆記に近いかたちで線を無心に引くのか、線に即興性や瞬間性はなく、むしろコントロールされている感じがある。それでいて、作品はどれもナイーブ、純真な感じでまろやかある。

杉尾信子

細密と言っても、空気が吹き抜けるような爽やかさがある。今回展示された一番の大作「満ちて行く時」(130.3×130.3センチ)では、余白が多く、星雲のようなイメージが空間に漂い、スペインの「アストゥリアス」では、黒く網目のようなアンフォルムな形象が浮かんでいる。小品でも、そうした作品の傾向は変わらない。ただ、余白が小さくなって、稠密感が増すので、どちらかというとイメージが強く出る。生活の中から生まれた、ささやかな作品ではあるが、見る人にそっと寄り添ってくれそうである。

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