加藤栄三・東一記念美術館(岐阜市) 2025年8月6〜24日
1954年岐阜県関市生まれ、同市在住の画家・新海修さんと、1962年愛知県生まれ、岐阜県各務原市在住の造形作家・村上典子さんの2人展である。
新海さんは水彩、一部油彩による絵画を出品。村上さんは和紙のインスタレーションだが、モチーフやテーマに響き合うところがあるので、2人の作品の相性がとてもいい。
新海さんは樹影を中心とした自然のつながりや、ざわめき、豊かさを、村上さんは水の循環、命のつながりの主題を、共に浮遊感や揺らぎを感じさせる作品として見せている。

会場では、2人の作品のさまざまな要素、すなわち色彩や形、動きや空間性がオーバーラップし、相互に作用し合うことでポリフォニーのように響き合い、多様性ともいえる世界を織りなしていた。
深海さんは1959年に西尾一三さん、後藤昭夫さん、小本章さんらとともに関市の前衛美術家集団VAVAの結成に参加した石原ミチオさんから、10代の頃に学んでいる。
また、20代から30代にかけ、水谷勇夫さんの「なごや絵学校」に通うなど、前衛的な指導者から美術の薫陶を受けている。

高さ290センチ、幅113センチの水彩紙に樹影を描いた作品シリーズが今回のメインである。アンフィルムな薄い色面が折り重なるようにオールオーバーに描かれていて、現実的な形や色彩をそのまま写し取った感じではない。
小刻みな陽光と陰影がうつろうように覆い、重なる色彩のレイヤーの奥から、うごめく無数の生き物、さまざまな生命の脈動、いのちのつながりが伝るような画面である。
匂い立つような樹々の生命力、きらめく光と空間に立ち込める水蒸気、樹間を流れる空気の感覚、たゆたうような枝や葉の感覚も心地よい。

一方、村上さんは1983年に名古屋芸術大学絵画科を卒業。1986年以降、美濃和紙の職人から学び、美濃和紙と楮の繊維を素材に造形作品を制作している。
1991年には、福井県の現代美術今立和紙展に出品。以後、岐阜市のギャラリーいまじんや、愛知県一宮市の「UTOPIAN 珈琲ハウスゆうとぴ庵」、古民家などで精力的に作品を展示している。

手漉きの美濃和紙や極薄の典具帖紙によるインスタレーションは繊細さを極め、小さな雫のような断片をテグスでつなぐなどして、豊かな空間を作っている。
たゆまなく滴る水の流れであるとともに、それらは、ひらひらと舞い散る草木の葉のようにも見え、天空と大地の間で繰り返される生成流転のドラマによって、宇宙のような、いのちのつながりと循環が表現されている。

水切りによって、産毛のようなコウゾの繊維を毛羽立たせ、あるいは、雫とも葉とも思える断片に細密な線を入れるなど、とてもデリケートな作品である。
それら小さな水の雫が、いのちのメタファーのように紡がれ、連なり、揺らぐように、流れるように無常で、はかなく、それでいて、大きないのちとして循環する世界をかたちづくっているのだ。

中でも、「ペトリコール」と題された作品は、繊細な中にも、不均衡さ、歪み、ダイナミズムが感じられ、最も印象深かった。ペトリコールは、雨が降った時に地面から上がってくる匂いを指す言葉である。