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下鴨車窓が三重県文化会館で『散乱マリン』上演 11月28、29日

『散乱マリン』 脚本・演出 田辺剛

 劇作家・演出家の田辺剛さんが主宰し、京都を拠点に活動する現代演劇ユニット「下鴨車窓」による舞台『散乱マリン』 が2020 年 11 月28、29日午後2時から、津市の三重県文化会館小ホールで上演される。

 4月の公演予定だったが、コロナ禍で延期となり、半年遅れでの上演が決まった。

  2014 年、『scattered(deeply)』というタイトルで、東京都内と埼玉県内で、島根県出雲市が拠点の「雲の劇団雨蛙」のプロデュース公演として上演。豊かな隠喩が響く舞台として、2015年度の第 22 回 OMS 戯曲賞の最終候補に選ばれた。今回は、タイトル、出演や演出を一新して臨む。

隠喩によって喚起されるイメージ

 隠喩によるイメージ、寓意による感情へと導く舞台である。

 自転車を巡る人々の思惑がぶつかり、獣たちの縄張り争いのようにも見えてくる——。

 田辺さんの脚本の中でも、不条理性が強い作品である。

 例えば、身近な人の死をどう受け入れればよいのか、受け入れることはできるのか・・・。 その一方で、相手が死んでも構わないと殺し合いもする人間。死にまつわる人間の複雑な感覚が、隠喩によって描かれる。

 その1つが、2011年の東日本大震災である。

 舞台にうずたかく積まれた自転車は、喪失のメタファー。

 津波で深く海の底にさらわれた物と人。人は喪失した大切なものにどう向き合うのか。取り戻し、復元する? 現実を受け入れ、先へ歩きだす? 

 さらには、動物の本能や暴力性は、圧倒的な喪失を体験しても変わらない人間の愚かさや残酷さを象徴する。

 田辺さんの舞台は、誰も知りえないものを演劇だからこそできる方法で見る人の心のスクリーンに映し出す。見終わった観客の想像の眼差し、思いが、この世界のどこかへ、より深く向けられるだろう。

チケット

一般 2,500 円/ペアチケット 4,300 円/ユース(25 歳以下) 1,800 円

物語

ものがたり ・・・・・・・・・・・ それは祖母の形見の自転車だった  それはある美術作家の遺作だった

 佐藤マキは「そんなことがあるの」とつぶやいた。盗られてしまった自転車は大好きだった祖母から譲り受けたものでそれが 撤去されたという。ペラペラのハガキに書いてある保管所の地図は彼女が住むところからは遙か遠い。引き取ったところでその 距離を乗って帰ってくることを考えるとウンザリするけれど、盗んだ誰かへの腹立たしさも手伝ってきっと取り戻してやると心 に誓った。昼間の仕事をなんとかやりくりして取りに行けたのは保管期限もギリギリのときだった。

 伊佐原リョウタは焦っていた。ビエンナーレ開幕も間近に迫っての担当キュレーターの交代はアーティストを不安にさせる。 後任の担当者は作品のタイトルが読めなかった。彼の作品は野外展示のインスタレーションだが天候の悪い日が続いて作業もは かどっていない。そこにきて台風が来るニュースだ。すぐに若いスタッフが作品を守るために現場に向かってくれるという。「あ りがとうありがとう」。時間をかけて準備してきた。必ずやり遂げようと彼は心に誓った。

 空にはカラスが舞い、野犬の群れが駆け抜ける。 果てしなく広がるその野原はいまでは海の底に沈んでいる。

下鴨車窓

 京都を拠点に現代演劇の創作・公演をするユニット。2004年に結成。劇作家・演出家の田辺剛が主宰する。

 作品ごとに出演者やスタッフを募り、チームを作って、ほぼすべての作品が各地でツアー上演される。2015年には香港とマカオでの海外公演も果たした。一般向けの演劇教室や戯曲を執筆する講座も開催している。

田辺剛プロフィール

 劇作家・演出家。2005 年に『その赤い点は血だ』で第 11 回劇作家協会新人戯曲賞、2007 年に『旅行者』で第 14 回 OMS 戯曲賞佳作を受賞。

 2006 年には文化庁新進芸術家海外留学制度で韓国ソウルに一年間滞在し、劇作家として研修する。児童向け作品『きみ がしらないひみつの3人』が令和元年度社会保障審議会児童福祉文化財の推薦作品に選出された。

出演者

西村貴治 福井菜月 澤村喜一郎 西マサト 北川啓太 坂井初音 岡田菜見 F.ジャパン

スタッフ

[舞台監督]山中秀一 [舞台美術]川上明子 [照明]葛西健一 [音響]森永恭代 [美術助手]下野優希 [演出助手]松藤未夏
[主催]下鴨車窓 [企画制作]mogamos/田中直樹

俳優トーク映像

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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