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示崎マキ・森正響一「ペルソナの触覚」エビスアートラボ(名古屋)で 2024年2月1日-3月24日

YEBISU ART LABO(名古屋) 2024年2月1日~3月24日

YEBISU ART LABO ペルソナの触覚

 現代美術の若手作家、示崎マキさん、森正響一さんによる2人展。テーマは、ギャラリーが設定した「ペルソナと触覚」である。

示崎マキ

 示崎マキさんは愛知県在住。2023年、愛知県立芸術大学卒業。同大学院彫刻領域在学。

 自分の家族や親戚、知り合いとの古い写真や、記憶に残っている過去のイメージを基に木彫作品を制作している。素材はクスノキで、作品は素朴である。あえて、作り込み過ぎないようにしている印象だ。

示崎マキ

 つまり、モデルに似せ、再現するための木彫ではない。写真は、記憶のきっかけに過ぎず、アタマの中のおぼろげなイメージと同じである。

 雰囲気を大づかみにして、ユニークなドローイングを描いた後に、それに合うサイズの木材に彫ることもあれば、逆に、先に素材があって、クスノキのサイズの制約の中で制作する場合もある。

 木彫は、豊かな立体感のあるものからフラットなものまで、さまざまである。体の一部に着色したものもある。サイズもランダムである。

 個々の木彫をもともとのイメージの文脈から切り離し、本来の姿や場面から逸脱するように制作し、スケールも自在に変化させる。それらを組み合わせ、新たな情景として展示するのが、示崎さんの作品の最大の特徴である。

示崎マキ

 つまり、写真や記憶の中のイメージ、ドローイング、木の素材を行き来して、絶えず形や色、線や面が逸脱するように制作され、展示の際には、配置の妙によって全く異なる世界に変容させる。

 条件を揃えて設計図通りに作るのではなく、あえて、制約のなかで悩みながら脱線し、本来の姿、場面から遠ざかることを厭わず作ることで、自由とおおらかさ、面白さを追求するのだ。

 作品に、堅苦しさが微塵もないのが魅力である。材木に油性マジックでデッサンし、水性絵具で着色。その痕跡もあえて残している。樹皮が際立つ作品もあるし、製材時の面がそのまま作品になっているものもある。

示崎マキ

 この未完成な雰囲気、逸脱した存在感、仮設性、粗放さが、独特のユーモアを生んでいる。登場人物が、ありえないような別の空間を生き、それらが混在することで此岸と彼岸が混じり合うような奇妙な感覚を呼び覚ます。

森正響一

 森正響一さんは2020年、名古屋造形大を卒業。名古屋芸大、名古屋造形大、愛知県立芸大の3大学の若手が参加する2020年10月の現代美術展motion#5に参加した。筆者は、このときの大掛かりなインスタレーションを鮮明に覚えている。

 子供の頃からの憧れであったロボットアニメのイメージを陶作品として制作。それを大小さまざまなサイズで作り、空間的に展開させる。

森正響一

 作家の説明によると、手びねりで、ひも状や玉状にした粘土を積み上げ、素焼き(800℃)、本焼き(1250℃)、上絵(750℃)と、三回焼くという。

 作品は、金色や銀色でメタリック感を強調する。金色の作品は、洋食器の縁の装飾などで使われる金液を上絵で塗り、銀色の作品は、プラチナを含む釉薬で色を出している。この金、銀をまとった存在感がいかにもロボット的である。

 その一方で、興味深いのは、繊細な手つきによって粘土を造形して、入り組んだボディの精巧な形態を作りつつ、表面を釉薬で覆うことで細部の形状をぼかし、あえて曖昧さを出していること。つまり、シャープでありながら、同時に温かみがある。

森正響一

 類型化されたような均質性を持ちながら、他方で、造形にこだわったそれぞれの形態の個性は極めて多様であり、サイズも小さいものから比較的大きいものまで幅広い。

 精密さと曖昧さ、土や釉薬の味わいとメタリックな外観、ミニマルな表現による均一性と多様性、強い存在感と影のような抑制された美しさーーなど、境界的なマージナルマンである。

 なんと言っても、金属的、ロボット的な印象と、手びねりによる土の触覚性が見事に共存している姿が面白い。ロボットアニメという未来的なイメージを源泉にしながら、そちらに振り切らず、精緻に作りこんだ今風のフィギュアを目指すのでもなく、ナラティブな要素に向かうのでもない。

森正響一

 むしろ、どこか土偶のような呪術性や祭祀性をもまとって、原初的であるし、謎めいた象徴性を持っている。単なるサブカルチャーやファンタジーで終わらず、古代と未来、土着性と普遍性をブリッジする潜在力を秘めている。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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