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一宮市三岸節子記念美術館 自画像展 3月14日まで

企画展「自画像展~ひとみの中に自分がいる~」

 愛知県一宮市の同市三岸節子記念美術館で、2021年1月30日~3月14日、企画展「自画像展~ひとみの中に自分がいる~」が開かれている。

 一宮市出身の洋画家、三岸節子(1905〜1999年)の原点となるデビュー作が20歳の『自画像』(1925年)であることから、節子と関わりのある画家を中心に、明治期から現代に至るまでの自画像59点を集めた。

 単に三岸節子の周辺を探った企画ではない。画家が自画像を描くということは、突き詰めれば、自分のそのときの心の動きを見つめる「内観」に通じるのではないかと思う。

 三岸節子を起点としつつ、画家が自己/ 内なる他者と向き合った探求の表出である自画像を堪能させる企画である。

 「自画像」の1つ1つからは、単に造形的な顔だけでなく、「見ている」画家の意識、理性と、「見られている」無意識、感情、本能との対話、格闘が感じ取れる。

 見慣れた有名作品だけでなく、むしろ、一般に知られていない作品を含め、若い時期に描いた自画像を集めたのも興味深い。

 併せて、この地域の出身で、一般にはあまり知られていない、埋もれている画家もきちんとフォローしている。

 作品のうち、9点は、学生の卒業制作として描かれ、 東京藝術大が所蔵する自画像作品である。

 展示は、画家の相貌、内面のみならず、それぞれの作品に添えられた解説によって、近代洋画の流れを押さえるとともに、近代から現代へ通じる歴史をも浮かび上がらせる。

 展示された59点(58人)のうち、男性が53人、女性が5人。圧倒的に男性が多い。現在、美大や芸大の在校生は圧倒的に女性が多いと聞くので、隔世の感がある。

 若い時の作品が多いだけに、一番近いモデルである自分を対象に果敢に描くという実験性においは、自己の洞察と絵画の研究が重なっている。

 他人と異なり、自分の顔は鏡を通して見て描くしかない。自分自身であるのと同時に、対象化された自分という意味では他者である。見る自分と見られる自分。自分のことだからと自分が分かっているわけではない。

 自画像は、画家が自らに向き合い、鏡の中の自分を支持体に定着させる作業である。そこには鏡の中の自己とそれを眺める自己、見られている自己と見ている自己、その時、その瞬間の自己の他者性と自己との関係性が表現されている。

 自分という他者を描くその営為は、「人間の本質」を探ることにも通じる。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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