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関口敦仁展-Redden Inner Sight 赤い内観- ガレリアフィナルテ

ガレリア・フィナルテ(名古屋) 2019年11月26日〜12月21日

 関口さんは現在、愛知県立芸大教授。1980年代から、絵画によるインスタレーションなどを制作して注目され、その後、メディア系のアーティストへと移行。筆者が新聞記者としてアートの取材を始めた1990年代以降は、岐阜県大垣市のIAMASで教授を務めていた。

 メディア・アートの一方で、それとつながりをもちながら並行して制作されている作品群のうち、今回は「内観」をテーマにした立体と絵画が展示された。

関口敦仁

 個展のタイトルにある「内観」とは、自分の心の内側を見ることである。

 会場には、カメラレンズの素材に使われる石英ガラスで作った後ろ向きの仏像彫刻「赤い内観」の連作が展示されている。

 素材自体は無色透明だが、正面から見ると、赤い光が素材の中に浮かび上がっているように見える。

 表面に、一定の赤の光の波長だけを透過するダイクロイック処理をした偏光成膜のコーティングがしてある。赤の光が壁に反射し、透過されるといい、角度を変えて見ると黄色が強くなるなど異なる色に見えるのが不思議だ。

 別の作品では、木材をくり抜いた仏像がやはり後ろ向きに展示され、表にはベンガラ、裏には煙炭が塗ってある。額の白毫のところには、偏光成膜のコーティングをした石英ガラスが埋め込まれ、赤い光を発している。 

関口敦仁

 この赤について、関口さんは、日本画素材でもある鎌倉朱の原初的な色に近づけたいと説明する。

 古代、日本では、朱は祭祀具や墓の内部などに塗られた。魔除けや厄除け、慶事など非日常的な場合に使われ、神社の鳥居、ちゃんちゃんこに使われるなど民間信仰として伝わる。

 関口さんは数年前から、内観について考え、自分自身を後ろから見る仏像の形をモチーフにしている。

 メディア・アーティストと仏像という組み合わせは意外に思えるが、ビデオ・アートの先駆者、ナム・ジュン・パイクにも仏教的な世界観と当時の最新テクノロジーを結びつけた《TV仏陀》という作品がある。

 関口さんは30年ほど前に、ナム・ジュン・パイクへのオマージュとして仏像の作品を制作したことがあるという。

関口敦仁

 また、鎌倉朱と内観からの展開として描かれた赤色の絵画「赤で円を描く」の連作も独特だ。

 キャンバスに油彩で円を描くという行為を反復するように制作がコントロールされている。アート・ロボティクスを研究の1つに据えている関口さんだけに、人間が、演算を組み込んだ機械風に描いたという言い方もできるかもしれない。

 内側をベタ塗りした円が一部に見られるものの、ほとんどは薄く絵の具をのばした円が連鎖的に並び、即興的にも見える。


 赤色の円という、色彩も形も極度に限定、単純化した形が連なるバリエーション。他の要素を削ぎ落としているだけに見方は人ぞれぞれだろう。

 中には、顕微鏡で見たときの生体的な蠢きのようなものを感じる人もいるかもしれない。

 内観を主題にした仏像シリーズからの連想を含め、非日常的、儀礼的なメタファーを帯びる鮮烈な赤色に覆われ、禅で仏性や真理、宇宙を表す円相が連なる画面は、強い訴求力を放つ。

関口敦仁

 同色、同形を反復させながら、ズレや、奥行きの中にコンピューターのアルゴリズムとは異なる人間に特徴的なものが現れている。

 絵画からスタートし、コンピューターによる演算的な世界を経由して、改めて手を動かして描く絵画というのも興味深い。

 単純な動きを繰り返しつつ、どこか予定調和的なバランス、空間の構成は回避しているようにも見える。関口さんの作品だけに、アート・ロボティクスによる描写との関係を考えさせる。

 仏像の作品を含め、テクノロジーと思想や世界観、宗教性、芸術、あるいはコンピューターと人間の関係を意識させるところがある。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

関口敦仁
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