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坂田健一写真展 invisible river 堀川ギャラリー(名古屋)で2023年9月5-24日に開催

  • 2023年9月16日
  • 2023年9月15日
  • 美術

堀川ギャラリー(名古屋) 2023年月9日5日〜24日

坂田健一

  坂田健一さんは1977年、名古屋市生まれ。大須で育ち、現在は、同市中川区の運河沿いに住んでいる。写真は独学。2015年頃から、カラーフィルムで撮影し、自宅暗室で手焼きプリントの写真作品を制作している。

 坂田さんは現在、「バケペン」といわれる中判フィルムカメラ、ペンタックス67を使用している。

 2023年の6-7月、中川運河ギャラリー(名古屋市中川区西日置2)で、個展「流れない河」を開いた。テーマは、名古屋の中川運河である。

 物流インフラの役目を終え、下流が閘門こうもんで仕切られた中川運河は、潮の干満の影響がなく、流れのない静かな水面をたたえている。そんな時間が止まったような運河のかすかな「声」に耳を傾けたという写真である。

 これらの作品では、中川運河周辺の風景を撮影。運河から汲んできた水の中に印画紙を沈めて露光するという、実験的なアプローチをしている。

 運河の水の中で揺らめく印画紙が光を受け、過去の記憶を積層させた運河や地域のささやくような「声」を受けとめる。坂田さんは、この作品で、2023年IMA nextショートリストを受賞した。

invisible river 2023年

坂田健一
坂田健一

 ストレート写真を発表していた坂田さんがこうした作品に取り組むようになったのは2023年に入った頃。現在は、さまざまな手法を試しながら、作品を仕上げている。

 今回は、中川運河から堀川へと撮影場所を変え、伏見から名古屋港までの川沿いの風景などを撮影。ほとんどは、写真映えのする対象ではなく、誰も目をとめないような何げない風景である。

 展示したのは、それらのストレート写真と、6-7月の個展と同様、堀川から汲んだ水に印画紙を沈めて露光した作品である。

坂田健一

 写真に、光の戯れのような白い筋の揺らぎがあるのは、露光するときの印画紙用バットの水に、堀川周辺から摘み取ってきた雑草の葉や、金屑屑を浮かべた効果である。

 水面を漂うそれらによって、フィルムを通して投射される光がさえぎられ、光の戯れのような揺らぎがイメージに重ねられるのだ。

 ストレート写真も興味深いが、それ以上にこれらの作品がユニークなのは、堀川をめぐる幾つものレイヤーが多重露光とは違う方法で重ねられているからだ。

坂田健一



 イメージは、堀川沿いの風景だが、印画紙を堀川の水に沈めて露光することで、川の現在そのものである、水の濁り、揺らめきの感覚が印画紙に定着され、雑草の葉や金物屑の物質などの存在も重ねられる。

 1枚の写真に、堀川をめぐる重層的なイメージ、すなわち、街の風景や周辺の姿、水の揺らめきや表情が刻印される。

 それは、ストレート写真が指し示すような明確なイメージではないが、そのことが逆説的に、あたかかも、見過ごしてしまいそうな、隠れた堀川の繊細な「声」を感受しているように思える。

坂田健一

 薄暮のような、あるいは、もやのかかったような、おぼろげで、揺らぐようなイメージ。そこに表出されている風景がはらんだ光と影に堀川の囁きが潜んでいる。

 バットに汲んだ堀川の水の揺らぎや、そこを漂う雑草や金物屑らによって、予期せぬ影響を受けたこれらの作品は、すべては1点ものの作品である。同じ作品は、坂田さん自身も決して再現できないのである。

坂田健一

 つまり、複製芸術といわれる写真に、堀川の水や採取した物をもちこむことで、その偶然性、不確実性によって、唯一無二の存在感が付与されている。

 それは、人間が中心であるような虚構で覆われたこの世界の、不可視のイメージを開示すること、喧騒とともにある都会の片隅で、消え入りそうな「声」を救い出すことなのである。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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