中野彩愛 GALERIE hu:(名古屋)で7月23日-8月12日

GALERIE hu:(名古屋) 2020年7月23日〜8月12日

中野彩愛

 中野彩愛さんは1989年、愛知県生まれ。名古屋市在住。

 2012年、名古屋芸術大学美術学部美術学科版画コース卒業、2014年、同大学大学院同時代表現研究領域修了。

 GALERIE hu: などで個展を開催。2021年、愛知・清須市第10回はるひ絵画トリエンナーレに入選した。そのほか、グループ展に参加している。

I like you so much,You will know it

 中野彩愛さんは、もともと大学で版画を学んでいた。制作していたのは、エッチング、ドライポイント、アクアチントなどによるモノクロームの銅版画である。

中野彩愛

 作品を発表しはじめた当初から、試し刷りをした紙に、ドローイングやコラージュを加え、彩色したものをアートブックとして展示していた。

 そうしたイメージを大型の平面作品へと発展させたのが、今回のシリーズである。

 これまで取り組んできた制作を基にしながらも、方向性を変えた今回は、節目といっていい個展である。 

 画面は、さまざまな形、色で埋め尽くされ、その1つ1つがキュートである。

 多様な要素が所狭しと配置され、一部は重なり合っている。俯瞰的なイメージとして見ると、上空から見た街のようにも見える。

中野彩愛

 身の周りにある服の切れ端、紙、ひも、糸、クリップ、セロハンなどがコラージュされ、描かれた形、形象とともに全体が充溢した雰囲気になっている。

 アクリル、水彩、鉛筆、ペンなどさまざまな画材が使われている。

 全体に、各要素が過剰なほどに密集していて、余白は少なめ。以前のモノクロームの版画作品と比べ、色彩も華やかである。

 同時に、各要素を貼っていくように制作するスタイルは、間接性によって制作するという点において、版画的でもある。 

 統一感がなくなりそうでありながら、丁寧につくっているせいか、落ち着いて見える。洗練した世界にセンスの良さがうかがえる。

中野彩愛

 おのおののイメージの断片は、日々の出来事、気になること、好きなこと、気持ちなどを、自分の内面を見つめるように、すくいとっているようだが、いずれも具体的なものではない。

 さまざまな日常の記憶とつながった断片の形が記号化され、加えられるのである。

 ユニークなのは、展示作品を横断して、同じ形象、素材のパターンが、スタンプのように繰り返し登場している点だ。こういうところも版画的である。

 例えば、中野さんが精神的に落ち込んだときに現れる形として、上に尖った二等辺三角形があるのだが、それが、あちこちに見えるのである。

 あるいは、ボウルの断面図のような形は、空っぽな容器のイメージで、虚無感を表しているらしい。これも頻出する。

中野彩愛

 そうした記号化された形象、イメージ、コラージュした破片が反復して現れ、全体ができている。

 さまざまな形象とコラージュを星々にたとえるなら、画面は、あたかも日常の記憶と感情の厚みを持った星雲のようである。

 中野さんは「半径5メートル以内を描く」という言い方をしている。

 自分という人間から離れた、触れられない遠い世界ではなく、日常的な生の実感、感触を描いているということだろう。

中野彩愛

 同時に、日記のように、どろどろした内面をそのままにさらけだしている感じではない。

 冷静に自分の内面を見ている感覚があって、多分、そうしたコントロールの意識が、洗練した形やその配置につながっているのだろう。

 中野さんは、生きている瞬間に、人が選んでいる感情の違いが、その人らしさになるのではないかと考え、そうした感情の形を感覚的にイメージしている。

 二等辺三角形やボウルなど、画面に繰り返し現れる形を、中野さんは「感情の形の存在感」と言う。

 それがスタンプのように集まり、1つの大きな画面になる。単なる感情の表出や、日々の気持ちの日記的な刻印ではない。

中野彩愛

 どこか心理的なアプローチと言ってもいいような、分析的な視線を内面に向けながらも、それを超えた大きなものを意識している。

 星々のような感情の形を集めながら、それらを超えた遥かに大きなイメージへと高めているのである。 

 自身の内なる空間に漂っている感情の存在感としての形を、1つの宇宙のように集めているのであって、単に自分の感じたことをつづったものではない。  

 そのバリエーションの展開がイメージの宇宙になっているのが、中野さんの世界である。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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