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大野不動 エビスアートラボ(名古屋)で11 月4日-12月4日

YEBISU ART LABO(名古屋) 2022年11月4日〜12月4日

大野不動

 大野不動さんは1995年、愛知県生まれ。2022年に愛知県立芸術大学大学院美術研究科博士前期課程油画・版画領域を修了。今回が初個展となる。

 大学院1年だった2018年、黒一色の油絵で何ができるかを考えていた。その後、2019年4月から2021年3月まで2年間休学。4月に大学院に復帰し、1年後、修了した。

 今回は、修了制作の一部を取り込み、再構成した展示に、その後の新作を加えた。

大野不動

 修了制作でも黒一色での表現を目指したが、あえて油彩には戻らず、油絵具以外の画材を使った。しかも、チープな素材である。原点に帰る狙いもあったのだろう。

 具体的に言えば、子どもの頃から慣れ親しんだ「おえかきちょう」のペラペラの紙、サクラクレパス、ヤマト糊(でんぷんのり)等である。

 クレパスで薄く紙を塗りつぶして地とし、濃く塗りつぶした黒い形を貼った。そこからイメージを広げ、ぼかし、割り箸を細く削ったもので引っ掻くなど、変化をつけていった。

大野不動

 日記のようなもの、夢の話、創作話など、さまざまなイメージが展開された。小学生の頃に描いたインコ、4コマ漫画のようなものを含め、これまでの人生での出来事、遭遇したイメージ、内面に沈んだ憂鬱な感情などを描き、多様な作品が生成された。

 紙粘土で形を作ってマグネットをつけ、支持体の上を動かせるようにした作品もあった。子どもの頃に戻ったような無垢な図工、遊びの世界から再出発したと言ってもいい。

 修了制作では、こうした作品約60点を壁にずらりと展開した。

ある日とは違う日

大野不動

 今回は、その中から選んだ単位を再構成して発展させている。黒い矩形の作品が縦横に構成され、全体がグリッド構造になっている。

 1つの紙で1つの出来事が起きている。1つ1つが集まって全体がある。

 おのおのの絵画空間の中でいろいろなことが起きているが、それが空間をはみ出して、関係しあっている。それは、あたかも私たちの人間世界のようである。それぞれの人間の意識が独立しつつも出来事が関係しあっているように。

 イメージが多様な世界へと広がり、床面にもグリッドが延びている。不安、不穏さとともに、どこかユーモアを感じさせる世界である。それぞれの矩形の「部屋」で出来事が起き、それが異なる次元へと超えて、全体がカオスになっていく。

大野不動

 今回は、油絵具、アクリル絵具も使い、さまざまなマチエールを試している。また、修了制作作品を核としたメイン作品以外では、色彩も入ってきている。

 印象に残る新作の1つに、幼い頃に家族で過ごしたクリスマスの場面を描いた作品がある。写真を基に描いているが、モノクロームで描かれ、顔はぼかしている。唯一、色彩が使ってあるのは、ケーキの部分だけである。

 家族との関係、葛藤がテーマになっていることが分かる。

 十二支(子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥)の特徴を合体させた「寿ことぶき」という獣をモチーフにした作品もある。縁起がいい図像として、多くの浮世絵師に描かれた題材である。

 大野さんは、独自に十二支を組み合わせた多様な動物を1つの絵画空間にちりばめ、とてもユニークな世界にしている。

 自分を見つめ直しながら、さまざまなテーマ、方法論で描いている段階だが、大野さんは、今は、どれかを選ぶのではなく、自分の中にあるいろいろな〈自分〉を出していきたいとしている。

 大野さんの作品は、自分の内面の葛藤と直結している。今は、いろいろな〈自分〉に素直に抜き合うときである。今後、それらが交差し、ばらばらになりそうな自我がまとまっていったときに、独自の世界が生まれてくるだろう。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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