ナオ・カワノ・フジイ ギャラリーハム(名古屋)で2月19日まで

Gallery HAM(名古屋) 2022年1月15日〜2月19日

Nao Kawano Fujii

 ナオ・カワノ・フジイさんは1983年、兵庫県生まれ。幼少時から父親の仕事の関係で、カナダ、タイ、ドイツなどに滞在。ミュンヘン美術アカデミーでファインアートを学んだ。富山ガラス造形研究所でガラス造形も修得している。

 ドローイング、絵画を中心に制作。10年ほど前から日本に拠点を移し、現在は富山市在住である。

 ギャラリーハムでは、2017年、2018年に続いて、3回目の個展。筆者は初めて見る作家である。

ナオ・カワノ・フジイ

 ギャラリーハムではこれまでに、絵画を中心に、ガラスを使ったインスタレーションも発表している。

 絵画は、単純に絵筆で描くというより、気泡緩衝材(いわゆるプチプチ)をスタンプのように使って色の痕跡をキャンバスや段ボールなどの支持体に押し当てた作品などを出品した。

 インスタレーションでは、ラッカースプレーで着色した廃品のガラス瓶をハンマーで割った破片をちりばめるなど、かなり独特である。

ナオ・カワノ・フジイ

 つまり、慎重に時間をかけて制作するというより、塗る、押し当てる、割る、切る、貼る、編む、潰す、結合させるなど、どちらかというと瞬発力のある行為が重要な要素になっている。

 作品は次々と変貌しているが、その特徴はといえば、創作が、「描く」「組み立てる」という作用と、「解体する」「壊す」という反作用的な行為を内在させることで、調和を避け、むしろ撹乱を志向しているところである。

 17歳のとき、ドイツのハンブルクで絵を始めたときも、構想をベースに描くというより、無意識的に手を動かし、偶発的に吐き出されるものを描きとめていた。

ナオ・カワノ・フジイ

2022年 Gallery HAM Deformation

 いわば、意識と無意識、構築と破壊が同時進行しながら、形が整然と完成形に向かうというより、ゆがむように制作は進む。

 今回は、描いた後のキャンバスや紙をストライプ状に切断している行為が随所に見られるが、それも、意識的に幅をそろえて裁断する部分と、ランダムに切り進んでいく部分の両方が、ぶつかり合っている印象である。

 そうした規格性と無秩序性のせめぎあいは、アクリル絵具を幾層にも塗り重ねたキャンバスをストライプに裁断し、その帯状のものをグリッドに再構築した作品にも顕著に表れている。

ナオ・カワノ・フジイ

 顔をモチーフとした連作では、顔の絵の上に、顔を描いた別の作品を切断した紙をストライプ状に貼っている。変形と揺らぎが際立っている。

 ダンサー、パティシエ、僧侶など職業を表すタイトルが付けられているが、それも、描いた後に付けられたもので、あらかじめモチーフを意識して描いたわけではない。

 抽象的なイメージを描いたキャンバスと、何も描いていないキャンバスをそれぞれにストライプに切断し、それらをグリッド状に編み込んだ作品も。

ナオ・カワノ・フジイ

 あるいは、天井からは、モチーフも紙のサイズも異なる数十枚もの絵をぐしゃぐしゃにくっつけた立体が吊るされていた。

 パステル、油絵具、アクリル、鉛筆など、多様な画材が使われている。

 1点1点描いた絵が無造作に結合され、およそ描くという行為からかけ離れた力技によって、もはや絵ではない、予想だにしない異様な紙の塊となっている。

ナオ・カワノ・フジイ

 ナオ・カワノ・フジイさんの作品は、多重人格的な要素、いくつもの他者が結合している奇形とさえいえる。

 自身の内なる暗い海をまさぐるように、手の動きがパーソナルな多様な記憶とフィクション、理路と感覚、意識と無意識を行き来しながら、速度を速めてイメージを生成させていく。

 鑑賞者にこびることなく、自分が楽しいことを最優先にした自己完結的な作品だとも言える。制作する目的、理由、着地点はいらない。信念も一貫性もない。

ナオ・カワノ・フジイ

 だが、決して、それだけでいいと考えているわけではない。ナオ・カワノ・フジイさんは、自分という存在の真実性の断片を拾い集めながら、それにとどまることなく、確かに、「アート」という虚構へと接近している。

 ナオ・カワノ・フジイさんの中にあるものが、アイデンティティーなきアイデンティティー、無心のままに結合された不調和なものとして、ここにはある。

 私であって私でないもの、見えているけれども同時に見えないものと言ってもいいかもしれない。

ナオ・カワノ・フジイ

 それは、無目的な遊びの時空のように、たとえようもなく自由で非日常的である。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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