中田奏花 個展 ギャラリー芽楽(名古屋)2月28日まで

Gallery 芽楽(名古屋) 2021年2月13〜28日

よく見えない

 中田奏花さんは1996年、東京都生まれ。

 ​愛知県立旭丘高校美術科を経て、​2020年、​愛知県立芸術大の油画専攻卒業。​​同大学院美術研究科博士前期課程油画・版画領域に進んだ。

 中学生の頃、レンブラントの作品を見て、絵画の道に進んだという若手である。

中田奏花

 メインの作品は、影のように描かれた家族の団欒らしい場面である。

 逆光の人物が描かれた、陰画ともいうべき影のイメージである。

 うつむいた姿勢もあるせいか、重々しい雰囲気に見える。団欒でないかもしれない。何か深刻な家族会議・・・。

中田奏花

 影の部分は、体つきや服のしわなども描かれているが、地の白色がベタ塗りのせいもあって、浮遊感がある。

 粛然とし、同時に浮いている軽やかさ、それが中田さんの絵画の印象であった。

 重々しいと言いながら、人物の表情、感情は分からず、別の作品で描かれた花やリンゴ、鉢植えなども、周囲と切り離され、無彩色であるため、情感は排除される。

中田奏花

 影を描いた絵画と言ってもいいかもしれない。

 絵画の起源は、影の輪郭とも言われるし、影といえば、プラトンのイデア論の洞窟の囚人の例えもあるから、興味深い。

 美術史の世界では、ヴィクトル・I・ストイキツァ著『影の歴史』も、よく知られている。

中田奏花

 アンディ・ウォーホル、高松次郎をはじめ、影をテーマにした作品を描いた画家は多い。中田さんが、自分が掘り下げる部分を強く意識していることが分かる。

 遠くのものが小さく見え、近くのものが大きく見える遠近法は、この世界の三次元的世界を二次元のイリュージョンで表現する絵画の基本的な方法である。

 そうした遠近法に対する、反-遠近法があるとすると、中田さんの作品は、正面から光が当たっている通常の順光に対する反-順光、すなわち、逆光の絵画である。

中田奏花

 つまり、光が当たっているから見えるという、当たり前の受動性でなく、むしろ、逆光で見えないという認識からスタートして、描いている。

 見えることから、そのまま実在を立ち上げるのではなく、見えないからこそ、能動的に見ることを鑑賞者に求めている、と言えなくもない。

 光が当たって見えるという事物の現れかたに依存することなく、私たちは、見ることができるのだろうかと。

中田奏花

 中田さんは、そんな複雑で不確かな世界を、逆光に浮かび上がる影を描くことで、見えないことを見ているようにやり過ごして生きている私たちを射抜く。

 逆光で撮影された写真のイメージをパソコンで操作した作品も展示された。

 影は、実在の分身でありながら、不気味な霊的な存在感を醸し、見えないがゆえに想像力をかきたてる。

中田奏花

 視覚芸術を目指し絵画を描きながら、見えていないことを大切にしている画家である。

 大切なことは目に見えず、心で見ないと見えない、というサン=テグジュペリ『星の王子さま 』 を思い出させる作品である。

 今後、どんな展開を見せるだろうか。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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