水谷昇雅展 銅版画 ギャラリーA・C・S(名古屋)で9月18日まで

ギャラリーA・C・S(名古屋) 2021年9月4〜18日

水谷昇雅

水谷昇雅

 水谷昇雅さんは1959年、名古屋市瑞穂区生まれ。

 現在は、川崎市を拠点に制作。名古屋芸術大学の非常勤講師として、版画実技を指導している。

 中学生のころは名古屋の画家、版画家、吉岡弘昭さんの絵画教室で学び、旭丘高校美術科のころには版画家を目指していた。卒業後、創形美術学校版画課程を修了。

水谷昇雅

 現在は、版画を中心に、石粉粘土を使った立体や木彫レリーフもつくっている。モチーフは共通していて、シュールレアリスム風ともいえる奇々怪々の生き物の世界である。

 立体を含めて、鮮やかな色彩をを使ったこともあるが、今は、モノクロームの世界である。筆者は、水谷さんの世界を表現するには、この白黒がいいと思う。

 水谷さん自身、10、20代は、銅版画や木版画で白黒の世界を表現していたというので、いわば原点回帰である。

水谷昇雅

銅版画展-メゾチント、ブラストチント

 使っているのは、メゾチントと、水谷さんが「ブラストチント」と呼ぶ技法である。

 ベルソーで目立てをするのがメゾチントであるが、ブラストチントでは、サンドブラストマシンで砂を銅板に吹きつけることで傷をつける。

水谷昇雅

 この技法を取ることの最大のメリットは、マスキングができることだという。マスキングしたところは砂が当たらず、インクが入らない。

 その白色になる部分(目立てがない部分)に対して、空気圧を落として再度サンドブラストを繰り返すことでで、グレーの階調を出していく。

水谷昇雅

 水谷さんは、版をつくるとき、わざわざ銅板を不定形に切り抜いている。つまり、銅版そのものを有機的な形にしている。

 自然界には、純粋な直線は存在しないという解釈からである。水谷さんの制作の根底からは、できるかぎり、人工的な価値観、幾何学的な枠組みではない森羅万象へと沈潜していく発想が読み取れる。

 あとは基本的には雁皮刷りだが、黒色の台紙を使うことで、暗闇から、まだ見ぬ生き物がうごめくような世界を浮かび上がらせるのが特長である。

水谷昇雅

 深海、土中のミクロの世界、あるいは、潜在意識のような漆黒の幻影の空間である。

 見えない深淵をのぞきこむような作品であるが、深い闇が広がるメゾチントの作品に対して、ブラストチントでは、余白のような部分や、もやっとした階調が生じている。

 妖しく、グロテスクな闇の世界—。水谷さんが創造するのは、抽象的な生命、生命形態的なものというより、不気味な古代生物、妖怪変化のイメージに近い。

 非科学的、非人間的なイメージと言っていいかもしれない。だから、ある種、スマートさ、官能性と対極的である。

 それは、人間世界のアンチテーゼ、言い換えると、人間が見知らぬ世界、見えない闇に棲む生命、人間を超えた森羅万象と滅びゆくものへの畏敬ゆえの空想なのである。

 深い闇にかすかに浮かび上がる生命の形象と、そのよすがを照らす微光。人間が知らない外部、隠されている闇の生の姿によって、世界の深さと失われたものを暗示している。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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