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KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2021 AUTUMN 10月1-24日 実行委が全容を発表

目次

KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2021 AUTUMN

©︎小池アイ子
©︎小池アイ子

 京都国際舞台芸術祭実行委員会が2021年7月28日、10月1〜24日に開く「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2021 AUTUMN」の全容を発表した。チケット発売は8月10日から。

 国内外の「EXPERIMENT ( エクスペリメント) = 実験」的な 舞台芸術を創造・発信し、芸術表現と社会を新しい形の対話でつなぐことを目指すフェスティバル。

  会場は、ロームシアター京都、京都芸術センター、京都芸術劇場 春秋座、THEATRE E9 KYOTO、京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA、比叡山ドライブウェイなど。

 新型コロナウイルス感染症拡大の影響によって前景化した身体の不在、他者の声、主体のあり方などのテーマを、 声・音・語り・静寂など、多様な切り口から問い直そうと、「もしもし? ! 」をキーワードに設定。

 関西地域をアーティストとともにリサーチし、未来の創作基盤につなげる「Kansai Studies」、国内外の先鋭的なアーティストによる作品を上演する「Shows」、トークやワークショップなど鑑賞とは異なるフォーマットで、先端的な思考に触れる「Super Knowledge for the Future [SKF]」の3 つのプログラムで展開する。

Photo by Takuya Matsumi

3つのプログラム

Kansai Studies ( リサーチプログラム )

 アーティストが地域住民やプロデューサー、研究者と一緒に、京都や関西の文化を継続的にリサーチ。思考の軌跡やプロセスを特設ウェブサイトに蓄積し、誰もがアクセスできるオンライン図書館として公開する。

 1 年目の2020年度は「水」をテーマに琵琶湖をリサーチ。2年目を迎える2021年度は「お好み焼き」を調べる。

 リサーチメンバーは、 dot architects、和田ながら、今村達紀、小島寛大、 川崎陽子、塚原悠也、ジュリエット・礼子・ナップ。

Shows ( 上演プログラム )

●ホー・ツーニェン[ シンガポール| 展示]
●チェン・ティエンジュオ[ 中国| 展示・パフォーマンス]
●荒木優光[ 日本| 音楽]
●ベギュム・エルジヤス [ トルコ/ ベルギー/ ドイツ| パフォーマンス]  
●ルリー・シャバラ[ インドネシア| 音楽・パフォーマンス]
●和田ながら× やんツー [ 日本| 演劇・美術]
●フィリップ・ケーヌ[ フランス| 演劇]
●松本奈々子、西本健吾 / チーム・チープロ[ 日本| ダンス]  
●鉄割アルバトロスケット[ 日本| 演劇]
●関かおりPUNCTUMUN [ 日本| ダンス] 
●Moshimoshi City ( 岡田利規、神里雄大、中間アヤカ、ヒスロム、増田美佳、村川拓也 ) [ 日本| パフォーマンス]  

③ Super Knowledge for the Future [SKF]
(エクスチェンジプログラム)

 実験的な舞台芸術作品と社会を対話やワークショップを通してつなぎ、新たな思考や、フレッシュな問題提起など、未来への視点を獲得するプログラム。
詳細は、こちら

各上演プログラム

ホー・ツーニェン[シンガポール|展示]
ヴォイス・オブ・ヴォイド—虚無の声(YCAM とのコラボレーション)

VR映像の一部 Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

10.1 ( 金) – 10.24 ( 日) 10:00 – 20:00
* 10.1 ( 金) のみ22:00 まで
★ 10.3 ( 日) アーティスト・トーク

会場:京都芸術センター ギャラリー南、大広間、和室「明倫」、制作室4 ほか

 シンガポール出身のホー・ツーニェンは、歴史的、哲学的なテクストや素材を基に、映像作品や演劇的パフォーマンスを発表している。近年は、東南アジアの近現代史につながる、第二次世界大戦期の日本に関心を広げる。
 その新作が「京都学派」( 西田幾多郎[1870 ~ 1945] や田辺元[1885 ~ 1962] を中心に京都帝国大学で形成された知識人のグループ) をテーマにした映像/ VR インスタレーションである。山口情報芸術センター[YCAM] での展覧会に続き、今回、作品テーマと深く関わりのある京都で展示する。
 京都学派の4 人の思想家が真珠湾攻撃の直前、1941年11 月末に京都・東山の料亭で行った座談会の記録と、同時代の関連テクストや証言を読み解く。結果として、太平洋戦争を思想面で支えたと批判も受ける京都学派だが、ここで行うのは歴史の単純化でも、論理の糾弾でもない。むしろ、3Dアニメーション、日本のアニメの美学を融合させたVRによって、 鑑賞者をアニメーションの登場人物へと同一化させながら、「歴史の再演」を目撃させるのである。
 会場は明治初期に開校し、1931年に改築された旧小学校。「過去からの声」を蘇らせるための格好の舞台装置となるに違いない。

チェン・ティエンジュオ[中国|展示・パフォーマンス]
牧羊人(新作)

Photo by Ren Xingxing

[展示]
10.1 ( 金) 16:00 – 22:00 ニュイ・ブランシュ特別プレビュー
10.5 ( 火) – 10.31 ( 日) 11:00 – 19:00 ( 月曜休館)
[ライブパフォーマンス]
10.2 ( 土) 20:00
10.3 ( 日) 20:00
上演時間:180 分 ( 予定)
* 10.2,3 はライブパフォーマンス準備のため展示は公演チケット購入者のみ入場可。
会場:京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA

 ロンドンで現代アートを学び、映像やパフォーマンスを中心に、デザイン、ファッション、電子音楽などを自由に横断しながら活動する中国ミレニアル世代の旗手、チェン・ティエンジュオ。
 今回のために、中国からリモートで新作のパフォーマティブ・インスタレーションを制作し、広々としたギャラリーに、神秘的な宗教儀式とレイブパーティが混交したような祝祭的空間を出現させる。
 エログロでキッチュ、クイアで恍惚に満ちた世界は、チベット系仏教の信者であり、ヨーロッパのクラブカルチャーにも精通するティエンジュオの精神世界の表象でもある。会期中には3 時間におよぶチェンのディレクションによる音楽ライブとDJパフォーマンスも上演。鑑賞者をさらなるトランス状態へと誘ってくれることだろう。

荒木優光[日本|音楽]
サウンドトラックフォーミッドナイト屯(新作)

アートワーク by 栗原ペダル

10.1 ( 金) 15:00 受付開始/15:50 受付終了/16:00 出発
10.2 ( 土) 15:00 受付開始/15:50 受付終了/16:00 出発

10.3 ( 日) 15:00 受付開始/15:50 受付終了/16:00 出発
会場:比叡山ドライブウェイ 山頂駐車場
受付場所:ロームシアター京都 ロームスクエア内KYOTO EXPERIMENT ミーティングポイント
*ロームシアター京都ローム・スクエアで受付・集合し、会場まで専用バスで移動
*バスが受付場所に戻るのは20:00 頃の予定。
上演時間:50 分( 予定)

 音の体験やフィールドワークを起点に、独自の音空間を構築してきた荒木優光。シアターピースやインスタレーション作品を発表するほか、記録にまつわる作業集団ARCHIVES PAY、音楽グループNEW MANUKE のメンバーとしても活動する。
 今回、新作のモチーフとして荒木が興味を持ったのが「カスタムオーディオカー」。理想のサウンドを追求し、音響システムとビジュアルに粋を尽くしたあのクルマたちだ。夕闇に染まる比叡山の駐車場を舞台に、カスタムオーディオカーによるコンサートが開かれる。
 都市の中では、実力をフルに発揮できないオーディオカーたちも、山の中なら遠慮は無用。荒木がアンダーグラウンド・カルチャーを取り込みながら作曲する組曲を、比叡の谷間に存分に鳴り響かせる。

ベギュム・エルジヤス[トルコ/ベルギー/ドイツ|パフォーマンス]
Voicing Pieces

© Begüm Erciyas

10.7 ( 木) – 10.11 ( 月) 12:00 – 19:00
* 15 分毎に1 名ずつ入場。
会場:ロームシアター京都 ノースホール
上演時間:30 分

 録音などを通して客観的に聴く自分の声を、不気味に感じた経験はないだろうか?  物理的には、普段と音の伝わり方が違うだけなのだが、そこに留まらない「得体の知れなさ」が存在し、それこそがベギュム・エルジヤスが『Voicing Pieces』を通して捉えようとするものだ。
 エルジヤスは、トルコで分子生物学と遺伝子学を、ヨーロッパでコンテンポラリーダンスを学んだ異色の経歴を持つ振付家・パフォーマー。
 本作は2014 年に京都で滞在制作をした際のリサーチが元になっている。着想は、日本のひとりカラオケ。7 年の時を経て待望の日本初演を迎える。観客は、劇場内に設置されたブースをひとりでめぐりながら、提示されるテキストを読み上げ、その「声」を外部情報として聴く。それは、観客自身がパフォーマーになると同時に、観客となる演劇体験でもある。
 ある人は、自己に内在する「他者」を初めて認識するかもしれないし、自分の声を無遠慮な「他者の声」のように感じるかもしれない。コロナ禍で会えない状況が続く今、声がコミュニケーションで果たす役割は大きい。体験者にさまざまな気づきを与えてくれることだろう。

ルリー・シャバラ[インドネシア|音楽・パフォーマンス]
ラウン・ジャガッ:極彩色に連なる声(新作)

Photo by Herlambang Jat

10.9 ( 土) 17:00
10.10 ( 日) 17:00
会場:ロームシアター京都 サウスホール
上演時間:60 分( 予定)

 インドネシアのジョグジャカルタを拠点とする実験的音楽デュオ「SENYAWA」のメンバーで、ボイス・パフォーマーとして自身のバンド「ZOO」を率いるルリー・シャバラ。
 今回、自ら開発した即興的コーラス手法「ラウン・ジャガッ」を用いたパフォーマンスの新作を、公募で集まる出演者と、他のミュージシャンとのコラボも多く手がけるバンド、テニスコーツとともに披露する。
 注目は、コロナ禍で来日できないシャバラが、リモートで出演者や演出家の筒井潤とともに作品を創作し、指揮者不在でパフォーマンスを行う自身初の展開プラン。AI を搭載した色彩システムを即興の手がかりに、演者たちは自由に言葉やリズムを変え、他者の声に共鳴させて「声」で遊びながら、セッションを繰り広げていく。音高の変化なしに長く持続される音で、民族音楽や伝統音楽で主に用いられる「ドローン音楽」的要素も今作には欠かせないものとなっている。

和田ながら×やんツー[日本|演劇・美術] 
擬娩(再創作)

したため『擬娩』(2019) 演出:和田ながら 美術:林葵衣 
Photo by Yuki Moriya

10.16 ( 土) 13:00 / 17:00 ★
10.17 ( 日) 13:00 / 17:00
★ポスト・パフォーマンス・トーク
会場:京都芸術センター 講堂
上演時間:90 分( 予定)

 妊娠・出産をめぐる日本の現状は明るくはない。少子高齢化に直面しているものの、「産み育てやすい」環境整備は遅々として進まず、他方で、「産まない自由」に対する社会的圧力も未だやむことがない。
 この閉塞的な状況に【擬娩( ぎべん) 】という、一風変わった習俗の再起動を通してアプローチをする演出家の和田ながら。今回は、和田の2019 年初演作品を、今回が舞台作品への初参加となるメディアアーティスト、やんツーをコラボレーターに迎え、リクリエーションする。
 広辞苑によれば、擬娩とは「妻の出産の前後に、夫が出産に伴う行為の模倣をする風習」。この極めて原始的かつ演劇的なフレームを借りることで、男女の出産未経験の出演者たちは、母だけが可能とされてきた妊娠・出産体験を舞台上で解放し、シミュレートしていく。
 再創作にあたり、10 代の出演者を公募でキャスティングする点も注目。次代を担う若者と、テクノロジーを基盤にしながらも常に身体的なアプローチを続けてきたやんツーの参加によって同時代的なアップデートを重ね、新しい想像力とともに「産むこと」への問いを投げかける。

フィリップ・ケーヌ[フランス|演劇]
もぐらたち & 上映会「Crash Park: The Life of an Island」

The Moles © Christian Knorr

Crash Park © Christian Knorr

10.16 ( 土) 16:00
10.17 ( 日) 16:00
会場:京都芸術劇場 春秋座
上演時間:
もぐらたち:30 分( 予定)
上映会「Crash Park: The Life of an Island」: 90 分

 フランスを代表する演出家、ビジュアルアーティストであるフィリップ・ケーヌ。
 今回は、2018 年初演の演劇作品『Crash Park: The Life of an Island』の上映及び、2016 年初演のパフォーマンス作品『もぐらたち』をcontact Gonzo と協働し、KYOTO EXPERIMENT バージョンとして発表する。
 2作品に共通するテーマは人類の本質と幸福。『Crash Park』は、墜落した飛行機の乗客がたどり着いた島での漂流記。原始的な土地、島民との多幸感あふれる生活を通して、人類のユートピアやディストピアを描き出す。『もぐらたち』では、等身大の巨大モグラたちが地上の世界で、コミカルでアクロバットなパフォーマンスを展開。モグラと観客の間で生まれるコミュニケーションを通して、改めて人間という存在を見つめ直す機会になることだろう。
 「演劇の魔術師」とも称されるケーヌ作品の独特なユーモア、クリエイティブな舞台装置にも注目を。環境問題、現代社会への鋭い風刺を含みながら放たれる独創的な世界観を存分に味わってほしい。

松本奈々子、西本健吾 / チーム・チープロ[日本|ダンス]
京都イマジナリー・ワルツ(新作)

松本奈々子、西本健吾 / チーム・チープロ
© Shuzo Hosoya

10.22 ( 金) 16:00 ★
10.23 ( 土) 14:00 / 19:00 ★
10.24 ( 日) 17:30
★ポスト・パフォーマンス・トーク
会場:THEATRE E9 KYOTO
上演時間:60 分 ( 予定)

 3 歳から20 歳までバレエを踊り、その後、自らの身体のあり方を問い直してきたパフォーマー、松本奈々子と、主にドラマトゥルクの役割を担う西本健吾。2人が共同で演出を行う「チーム・チープロ」は、綿密なリサーチを積み重ね、身体を媒介に個人の記憶と集団の記憶を再構築する。
 KYOTO EXPERIMENT初の公募プロジェクトで選出され、2021、2022 年の2 年間にわたり京都芸術センターで制作、THEATRE E9 KYOTO で上演する。
 初年度のテーマは「ワルツ」。2020年の緊急事態宣言発令後に松本が始めた、想像上のものや人、風景と踊ることを試みる「イマジナリー・ワルツ」 プロジェクトを、京都バージョンとして展開する。
 日本で明治以降に踊られるようになったワルツは、男女が身体を接触させて踊ることから、道徳的な問題が繰り返し指摘されてきた。当時とは別の意味で身体的接触が制限される現代において、触れ合うこと、手を取り合うことについて問いかける。
 上演テクストは松本の個人史、京都でのリサーチやインタビューを元に構成する。その朗読から浮かび上がる、「他者」と踊るワルツのかたち、そして2 年をかけて孵化していく、テクストと身体の新しい関係性にも注目したい。

鉄割アルバトロスケット[日本|演劇]
鉄都割京です

鉄割アルバトロスケット
Photo by Manabu Numata

10.22 ( 金) 19:00
10.23 ( 土) 14:00
10.24 ( 日) 15:00
会場:京都芸術センター フリースペース
上演時間:90 分 ( 予定)

 11年ぶりにKYOTO EXPERIMENT に帰ってくる「鉄割アルバトロスケット」は、東京・根津の寄席で結成され、劇作家・小説家の戌井昭人が脚本を手がけるパフォーマンス集団。浪花節や落語、ブルース、ビートニクなど民衆の放浪芸と、カウンターカルチャーからインスパイアされ、寸劇・歌・踊りを織り交ぜた1~5分の出し物をダダダと矢継ぎ早に繰り出すスタイルが特徴だ。
 そうして光を当てるのは、社会から「ちょっぴりズレてる人々」の日常のあれやこれや。世の不条理にあえて全力で飛び込んでいくパフォーマーたちの滑稽で痛快な姿を通して、物事の本質をグサッとえぐり出していく。
 そんなズレてる面々が躍動する世界は、とかくクリーンな現代都市では失われつつある風景でもある。パンデミックで不寛容さが倍増した時代ではなおさらだ。阿呆、無常、アウトローが炸裂する鉄割的世界は、もはやノスタルジーになってしまうのか、それとも— ?
 見世物小屋的に展開していく演目を体感し、ぜひ、あなた自身の目で見極めてほしい。

関かおり PUNCTUMUN [日本|ダンス]
むくめく む

関かおりPUNCTUMUN
Photo by Kazuyuki Matsumoto

10.22 ( 金) 19:00
10.23 ( 土) 16:30 ★
10.24 ( 日) 13:00
★ポスト・パフォーマンス・トーク
会場:ロームシアター京都 ノースホール
上演時間:65 分

 「むくめく む」とは、” うごめく” や ” 剥く” 、” 芽 “、命の始まりを表す” 産( む) す” などを意味する古語をつなげた言葉。生命がかたちを持つ以前の、神話的世界を想起させるタイトルを冠した本作は、多くの振付賞を受賞してきた注目の振付家・ダンサー 関かおりが率いる、関かおりPUNCTUMUN による最新作( 初演:2020年2 月) だ。
 「身体を無数の点の集合と捉え、丹念に感覚を探っていく」という関のアプローチは、観る側のわたしたちの知覚も呼び覚ます。ダンサーたちは一瞬一瞬に神経を注ぎ、ゆっくりと、進み、ころがり、うごめきながら、一秒という時間を拡大した世界へわたしたちを誘う。
 驚くことに、時折、遠くで微かなざわめきが聴こえる以外は、一切の音が使われていないかのようだ。観客は自ずと感覚を研ぎ澄まし、展開を見守ることとなる。いずこから漂ってくる香りも、五感を先鋭化させるための仕掛けだ。
 こうして少しずつひそやかに、踊るもの、観るものが互いに感覚を共鳴させていった先に、いのちの気配や“ 音” が立ち上り、言葉にならない感情が湧き起こることに気づくだろう。それは、「今」という奇跡の瞬間を見つめ、時間や生きることを問い直す体験なのかもしれない。

Moshimoshi City ~街を歩き、耳で聴く、架空のパフォーマンス・プログラム~

Moshimoshi City
© Yuya Tsukahara

10.8 ( 金) – 10.10 ( 日)
10.15 ( 金) – 10.17 ( 日)
各日受付:11:00 – 17:00
会場:京都市内各所
受付: ミーティングポイント
※受付で渡される地図を手に、各参加アーティストが
選定した場所を自由に回るパフォーマンス

参加アーティスト:
岡田利規 ( 演劇作家 / 小説家 / チェルフィッチュ主宰)
神里雄大 ( 作家 / 舞台演出家)
中間アヤカ ( ダンサー)
ヒスロム ( アーティストグループ)
増田美佳 ( ダンサー / 文筆家 / mimacul 主宰)
村川拓也 ( 演出家 / 映像作家)

 京都市内の各所を舞台に、さまざまなアーティストが架空のパフォーマンス作品を構想し執筆したテキストを、「声」を通して観客に共有するプログラム。
 観客がフェスティバルのミーティングポイントで渡されるマップを手に各場所を訪ね、指定された方法で音声を再生すると、実際には存在しないはずのパフォーマンスが、土地の風景と相まって脳内で立ち上がっていく。つまり、わたしたちは自らの想像力によって「観劇」を行うことができるのだ。
 この企画が生まれたきっかけは、コロナ禍で劇場に集う難しさを感じる一方、オンライン配信に限界を感じ始めていたことにもある。アーティストたちの構想は必ずしも実現可能ではないが、だからこそ刺激的だ。わたしたちの想像力を働かせることで、彼らの自由な空想やクリエーションを自らの体験にすることができるのだから。いつもの街の風景も、彼らの想像力を介することで、より新鮮な気持ちで眺めることができるだろう。
 さあ、パソコンを閉じて街へ出よう。内へと向かいがちなポスト・コロナ時代の思考や身体を、新しい演劇的装置を使って外の世界へ開いていこうではないか。

ディレクターズ・メッセージ

 KYOTO EXPERIMENT は今回で12 回目を数え、2021年は春に続けて秋の開催となる。1 年のうちに春期・秋期と開催することで、秋のフェスティバルが春期からの発展になるのみならず、春期の試みを再発見するような関係性を生み出すことを考えている。共同ディレクター体制となり、初めて迎えた春のフェスティバルで試みたことは、このフェスティバルで問うべき舞台芸術の実験とは何か、を体現する作品群の上演と、これからのフェスティバルの土壌を耕し、より開いていくためのリサーチとエクスチェンジであった。これらのプログラムを、Kansai Studies ( リサーチプログラム)、Shows ( 上演プログラム)、Super Knowledge for the Future SKF と名付け、フェスティバルを構成する3 つのプログラムとして組み合わせて実施した。そこで見出したことのひとつは、地域性と国際性、親密さとオープンであること、即興性と再現性などをこのKYOTO EXPERIMENT という実験的表現の実践空間に持ち込むことで、それらが内包するあらゆる境界線がゆるやかになっていくということだった。全てが白とも黒とも決めつけられない、ゆるやかな場所は、同時にこれから先も変化するものであり、過去、現在、未来が混在している。

 秋のKYOTO EXPERIMENT を迎えるにあたり、観客のみなさんと共に、過去、現在、未来が混在するこのフェスティバルという場所で、急激に変化する「いま」をどのようにまなざすことができるか、ということを考えたいと思った。パンデミックという危機の時代における「いま」は、どう生き抜くかという切実な問いをはらんでいるものであり、同時に聞かれないもの、見えないものをその切実さの下に覆い隠してしまうものでもある。危機的ないまをどうまなざすかということは、聞き過ごされているもの、見過ごされているものをどう感じ取るかということであり、それによりどう過去を振り返り、未来への視点を得ることができるか、ということではないだろうか。
 こうした探究を深めるキーワードとして、「もしもし?!」を置いてみた。この言葉は、日本語では電話の応対で用いるものである。「もしもし?!」という言葉が内包するのは、ある身体から発せられる声の存在そのものであり、同時に向こう側で断ち切られ、聞かれないその声でもある。あるいはこの言葉は、まだ誰にも聞かれていない声を持つ、他者への呼びかけであるかもしれない。声は、肺から口に伝達し発せられるものであるが、言葉となるものであり、あるいは叫ぶこと、泣くこと、ため息、笑いにもなるものである。人間の声は、定義によると特定の人体、つまり個人に属する。声は個人的なものであり、個人のアイデンティティの下に横たわるものである。今回のKYOTO EXPERIMENT では、聞かれなかった声、内なる声、過去と未来の声、人間 のものではない声、声と身体との関係性、あるいは集合的な声と身体の関係性に注目して、私たちがいま置かれているこの時を考える場にしたい。

 今回Shows で紹介する作品のいくつかは、個人的かつ親密な性質を持つ声を使って、観客それぞれとの関係性をパフォーマンスにより生み出す。ホー・ツーニェンによる『ヴォイス・オブ・ヴォイドー虚無の声』では、3D アニメーションとVR テクノロジーにより京都学派のテキストにアプローチする。ここでは歴史を再訪し、過去の声を現代に再現することで、現代の我々の視点における、疑いなき過去からの影響があらわになるのである。ベギュム・エルジヤスによる『Voicing Pieces』においては、観客は自分だけのサウンドブースの中でシンプルなスコアに導かれることにより、自らの声の観察者ともなる。それは、私たちの「内なる声」または自らの中に存在する「他者の声」への問いを発することでもある。野外パフォーマンス・プロジェクト「Moshimoshi City」では、京都という街における想像上のパフォーマンスを、アーティストたちが声のみによって立ち上げる。

 また、声は、話すことと同義ではなく、音を発するものでもある。いくつかの作品では、音について探求し、あるいは音と声の境界線を探っている。ここでは、集まって「聞く」体験が重要になるだろう。荒木優光による新作では、カスタムオーディオシステムを施された車たちが「出演者」となり、比叡山の頂上に集まる。ルリー・シャバラは、自身が生み出した即興コーラスシステム「ラウン・ジャガッ」により、人間の声を楽器とすること、その声が民主的かつ集合的な力を持つことを探求する。チェン・ティエンジュオによる新作展示とライブパフォーマンスでは、クラブやレイブカルチャーと儀式や宗教の間を探求する。ここで探求される集合的な身体は、ひとつの空間に同時に存在する身体がある、ということであり、それは人が集まって「聞く」体験につながるのである。

 Shows のほかの作品群では、他者の声とパフォーマーの身体の関係性を探る。和田ながらとやんツーのコラボレーションによる『擬娩』では、父親が妊娠中のパートナーの身体の徴候や妊娠にまつわる行為を模倣する「擬娩」という慣習を、パフォーマー の身体と声を通してシミュレートする。パフォーマンスユニット、チーム・チープロは「ワルツ」をテーマに関西地域で幅広いリサーチを行いながら、メンバーである松本奈々子の個人的歴史を重ね合わせて新作を発表する。ここで扱われるのは、身体の記憶を通して生み出され、発話されるテキストだ。鉄割アルバトロスケットの作品は、社会の周縁に生きるさまざまな人々を、矢継ぎ早に繰り出すショートコントのような形式を用いて描き出す。パフォーマーたちの強い身体性を通して発されるユニークな発声の声、その方言や言葉遊びは、声にひそむ雄弁な力を感じさせる。

 そうした作品群と対照的かつ異なる軸として、関かおりの作品においては知覚機能の深さと非言語のコミュニケーションが重要である。そこでは、非常に微かな動きと音が繊細に積み重ねられ、観客は自らの身体の知覚をも研ぎ澄ませながら引き伸ばされた時間を体験するとともに、人間、動物、植物の境界線の間を行き来するような感覚を味わう。フィリップ・ケーヌによるパフォーマンスでは、人間も言語も存在しない巨大なもぐらの世界での非言語コミュニケーションが描かれる。

 これらの作品をフェスティバルの参加者たる観客のみなさんと共有するためには、作品の提示のみならず、その作品が生まれてくる背景や、その素地をこのフェスティバルで体験する機会を創ることが重要だと考えている。アーティストは社会に「異なる視点」を投げ込む存在でもあるが、必ずその作品を育む社会背景や文脈と接続しているはずだ。どんな作品でも、その背景には必ず何かしらの社会や思考が存在している。それは、いまこの日常を生きているわたしたちと、そう相違がないはずなのだ。では、なぜそのような作品が生まれてくるか? それを紐解き、あるいは見るものの目線で新たな思考を生み出していくために、京都・関西というこの地域でどのような文化が育まれてきたのかをアーティストの目線でリサーチ・共有する「Kansai Studies」、そして異分野の専門家を招いて多様な思考を体験する「Super Knowledge for the Future [SKF]」を今回も実施する。これらのプログラムが、フェスティバルの思考を育む手がかりとなることを目指している。

 この1 年半の間、パンデミックにより身体が容易に移動できず、また集まれない中、身体から離れた声は移動を重ね、集まりを重ねた。今回のフェスティバルのキーワード「もしもし?!」が観客のみなさんにとって多様な声を発見し、それにより私たちのいまを見出すきっかけになることを願っている。
 

KYOTO EXPERIMENT 共同ディレクター
川崎陽子 塚原悠也 ジュリエット・礼子・ナップ

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>文化とメディア—書くこと、伝えることについて

文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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