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木村友紀「桂」愛知県美術館で3月13日まで展示

愛知県美術館・10階フォーラム(名古屋) 2022年1月22日〜3月13日

 2021年度第3期コレクション展の一環で、美術館10階フォーラムに、美術家の木村友紀さんのインスタレーション作品「桂」が展示されている。

 愛知県美術館の2020年度新収蔵作品である。

 木村友紀さんは1971年、京都生まれ。1996年、京都市立芸術大学大学院修士課程修了。

 既存の写真などを他の物体と組み合わせて展示するインスタレーションによって、イメージと空間、時間、次元、物との関係を考えている作家である。

 タカ・イシイギャラリー(東京)での個展をはじめ、国内外での個展、グループ展、国際展で作品を発表。 2014年に愛知県美術館で開催された「これからの写真」展にも出品した。

木村友紀

 作品「桂」は、第30回サンパウロ・ビエンナーレ(2012年)などで展示された。

 元になった写真は、1960年代、写真が趣味だった木村さんの祖父が桂離宮を観光で訪れ、撮影したものである。

 桂離宮の風景写真をパーティションのフレームを使って三次元的に構成したインスタレーションにすることで、空間を読み直した作品と言えばいいだろうか。

 つまり、祖父が50年以上前、一介の観光客としてカメラのファインダー越しに捉えたイメージを、時を経て、コンセプチュアルに置き換えたものを私たちが鑑賞していることになる。

 展示では、パーティションがL字やT字になって、フロアの広範囲にわたって構成されているのに加え、所々に、ヤシのような南国風の大型植物の鉢植えが置かれている。

木村友紀

 また、写真作品は、間仕切り壁のないフレームに展示されている。ここでは、パーティションと額縁の矩形(グリッド構造)が強調されながら、背景が見通せるのが特徴である。

 鑑賞者は、その背後や周囲の空間、ヤシの鉢植えを視野に入れながら、あたかも桂離宮を巡るように、パーテーションや鉢植えを迂回するように空間を移動する。

 つまり、この展示では、桂離宮の空間が恣意的に遷移されている。

 美術館によると、桂離宮を見学する観光客が巡る順路は、1960年代当時と現在とで変わっている。

 また、 江戸時代の初期の朝廷文化を伝え、回遊式の日本庭園や書院など、日本文化の粋を伝えているはずの桂離宮には、 薩摩島津家から献上されたと伝えられている南国風のソテツが植えられている。

 木村さんは、こうした桂離宮の歴史的な背景や空間性をリサーチした上で、この作品で、桂離宮のさまざまなレイヤーを解きほぐすような再解釈を鑑賞者に投げかけている。

 桂離宮のイメージと、順路に沿って空間を移動する観光客の眼差しとの関係、 伝統的な日本美の集大成のように捉えられてきた中での異質なソテツの存在、あるいは、 作品を見るときに否が応でも目に入るグリッド構造、作品が展示された天井の高い現代的な空間…。

 筆者は、こうしたさまざまなことを想起した。

 ちなみに、筆者は一度だけ、サンパウロ・ビエンナーレに行ったことがある。1998年、名古屋の美術家、久野利博さんが出品したときである。

 サンパウロ・ビエンナーレの会場となるイビラプエラ公園のシッシロ・マタラッツォ・パビリオンは、 ブラジルのモダニズム建築の父、オスカー・ニーマイヤー(1907~2012年)設計の大空間。

 木村さんは、このダイナミックな展示空間に臨むにあたり、自身の作品とブラジル・モダニズム建築との“化学反応”を前提に展示したはずである。

 今回、作品が展示されたのは、愛知芸術文化センター10階の愛知県美術館前のスペースである。

 1992年にオープンした愛知芸術文化センターは、地下5階、地上12階の巨大建築で、内部は、フォーラムと呼ばれる大空間の吹き抜けになっている。

 その意味では、 今回の展示会場も、どことなく、サンパウロの大空間をも連想させるのである。

 桂離宮の空間と眼差しの移動、モダニズムのグリッド構造、ある種のノイズと言ってもいい植物、そして、吹き抜けの大空間など、複数の空間、時間を巡るさまざまなレイヤーが、過去と現在を行き来しながら重なり、あるいは、ねじれるように、鑑賞者に働きかけてくるわけである。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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