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川田英二 個展 アインソフディスパッチ(名古屋)4月3日まで

AIN SOPH DISPATCH(名古屋) 2021年3月13日〜 4月3日

Theoria 2021

川田英二

 川田英二さんは1972年、高知県生まれ。1995年、名古屋芸術大学美術学部絵画科版画コース卒業、1997年、同大学大学院美術研究科造形専攻修了。高知県在住である。

3年ぶりの個展となる。

 雑草などの植物、石など自然物をモチーフにした銅版画(アクアチント)から、版の概念を拡張させる作品を展開させている。

川田英二

 モチーフとなるのは、セイタカアワダチソウ、ヤツデ、ショウブなど、ありふれた植物である。

 川田さんは、これらを山野や道端から採取して、そのままモチーフとする。自然界にある植物の形、存在のあり方に魅せられるように題材を選んでいる。

 今回、展示されている作品はおおむね2種類に分けられる。

川田英二

 1つは、銅版画(アクアチント)である。今回は、掛け軸仕立ての作品がそれにあたる。

 川田さんは、これらの植物を型紙(ステンシル)のように版の上に置き、植物の形象を写しとるので、自ら「ステンシルアクアチント」という造語で呼んでいる。

 筆者は、カメラを使わず、感光紙の上に、直接、物体を置く写真、「フォトグラム」を連想した。

川田英二

 それは影の表現ともいえるが、こうした素朴な方法に、川田さんの自然への姿勢を見ることができる。

 実体の影として、ありのままに植物の姿を捉えているところに、川田さんが、できるかぎり自然をそのまま作品にしたいという思いを感じるのである。

 逆説的だが、影ゆえに自然界の姿形によって動かされる感情がより伝わり、生気、生命力を感じさせるともいえるのである。

川田英二

 今回の個展で展示した別のタイプの作品は、耐水紙ヤスリを使った1点もののシリーズ。紙ヤスリはこれまでも使っているが、新たな展開である。

 アクアチントのときと同様の表面効果が得られるとして、版に銅板の代わりに耐水紙ヤスリを使う作家がいる。

 川田さんは、この紙ヤスリの上に、やはり植物を直接置き、アクリル・メディウムをグランドの代わりにエアブラシで吹き付けることで、植物のシルエットを浮かび上がらせる。

川田英二

 今回、新たな試みとして興味深いのは、この版から刷るのではなく、版自体(耐水紙ヤスリ)を1点ものの作品にしていることである。

 すなわち、これらは版画のテクニックを使い、版(耐水紙ヤスリ)にインクを擦り込んでは拭き取るという作業工程を経て、タブローを描くように制作しているのだ。

 レモンイエロー、ライトグリーン、サマーグリーン、ビリジアンの4色を使い、色合いに微妙な変化を出している作品と、黒一色で繊細な階調をつけている作品がある。

川田英二

 刷ってエディションがある作品と比べると、画面に強さがあり、質感もより豊かなのがわかる。

 こうした方法によって、川田さんが目指すのは、なんなのだろうか。

 それは、自然の姿形、生命力と美しさを、できるかぎり川田さんが遭遇したときのまま定着させることではないか。

川田英二

 川田さんが「版」という方法を選んでいる理由も、そこにあるだろう。

 細密な表現であれば、線を増やせば、色を追加すれば、人間がそのものに出合った感動に接近できるかといえば、必ずしもそうではない。

 版を挟み、引き算の発想をしながら、何を感じ、何を選び、何を表現するのか。川田さんは、そこを常に意識している。

川田英二

 版というプロセスを経ることで、しかも、できるだけ簡素な方法をとることで、美しい植物の影をつかまえ、逆説的に、その実体、自然の生命力に近づいているのである。

 そもそも、野山や道端での川田さんと植物との出合い自体が偶然である。

 版的手法という「間合い」のプロセスを通過するからこそ、日光写真と同様、すべてをコントロールせず、しかも、手を加えすぎず、直接、自然物によって現れる《イメージ=影》だからこそ、浮かび上がるものがある。

川田英二

 必要なものを切り詰めることで、光と影の中に、美しい姿形と、匂い立つような植物の生気が現れる。

 植物との《出合い》の時間、影のうつろい、揺らぎ、植物がまさにそこにあるような感覚が呼び覚まされる。

 影は、絵画を生み出した源流でもある。

 川田さんは、簡素な版の手法によって影をつかまえ、静かに観照し、植物の実体を浮かび上がらせる。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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