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今尾拓真 work with #10(清須市はるひ美術館 空調設備)2024年4月27日-6月2日

今尾拓真

 愛知・清須市はるひ美術館で2024年4月27日〜6月2日、「今尾拓真 work with #10(清須市はるひ美術館 空調設備)」が開かれている。

 今尾拓真さんは1992年、京都市出まれ。京都市立芸術大学美術学部彫刻専攻卒業。既存の空間やシステムに介入し、それらを一時的に変容させるサイトスペシフィックな作品や音響パフォーマンスで知られる。

 経歴を見ると、愛知県での発表は初めてと思われる。

 《work with》シリーズは、建物の空調機器を使って音を鳴らす今尾さんの代表作で、今回が10回目となる。

 はるひ美術館という建造物の空間を作品化してゆく手法だが、単に空間に働きかけるのみならず、空調設備を音響装置として捉え直していく発想がユニークである。

 筆者は4月28日に訪れたが、若い鑑賞者で賑わっていた。空間の変容や、そこから聞こえるさまざまな音などが、理屈抜きに楽しめた。

 同日に開催された今尾さんと、文谷有佳里さん(アーティスト)によるイベント「美術館の楽譜をつくる」は、6月1日(土)13:00から、再度開催される。

work with #10(清須市はるひ美術館 空調設備)

 美術館に入っても、いわゆる絵画や彫刻のような作品はない。あるのは、普段は意識されることのない空調施設である。

 建築家の若山滋さんに設計された、はるひ美術館は、大きく湾曲した長大な展示空間が特徴である。まずは、そのメインの展示室2に入って、空間の変容ぶりに驚くだろう。

 奥に向かって左側は、ダクトの開口部から真下に向かって管状のパーツが延び、先端にハーモニカが取り付けられている。他方、右側は、やや斜め上向きに管状の延長パーツが突出して並び、先端にリコーダーが付いているのだ。

 エントランスホールや、2階のオープン展示室にも、作品を展開させている。ハーモニカやリコーダーを使わず、薄い半透明の管状構造を取り付けて振動させる作品もあった。

 興味深いのは、インスタレーションを各所に展開しながらも、単に空調のダクトを延長させて楽器にしただけでも、空間を作品化しただけでもないことである。

 つまり、建物全体が1つの生態系、あるいは身体のように感じられるのである。空間に造形化され、あらわになったダクト等の設備は、体の器官(気管)のように感じられる。

 さらに、空調システムという空気の流れが顕在化することで、建物の外と内、両空間をつなぐ空気の流れは、自然環境や植物、動物における、エネルギーと自然界の物質の循環のアナロジーにもなる。

 鑑賞者自身も、その環境の中に入って、自分自身の身体をめぐらせていく感じである。建物構造や空間、そして、別の鑑賞者やスタッフ、パフォーマーなどと相互に関係しあいながら、作品を体験するのである。

 最後に、1階の展示室1をのぞくと、通常、絵画などが飾られるガラスの展示ケースは空っぽで、空間に什器や備品が集めて積まれていた。

 ここで鑑賞者は、空調という、美術館において主役ではないけれども重要な設備と同様、展示ケースなどの「裏方」を強く意識させられる。それは、つまり建物構造と空間、空調設備(音響)に向けられていた視線が、美術館という制度に転移させられる瞬間でもある。

 今回の展示では、展示スペースから、普段存在する「作品」や什器、備品、チラシなどをなくし、美術館の内部を裸体のまま見せた上で、空調システムを音響化した。

 このシリーズ《work with》で鍵となっているのは、「と」を意味するwithであろう。このwithの後が空欄であるように、「work=協働」の相手は実にニュートラルで多様である。

 筆者は、自分自身も、そうした協働の相手の一つになったように展示空間をめぐり、かつて経験したことがなかったように、生き物のような、この美術館を体験した。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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