長谷川哲 ちくさ正文館書店本店 2023年5月4-25日

  • 2023年5月13日
  • 2023年5月14日
  • 美術

ちくさ正文館書店本店(名古屋) 2023年5月4~25日

長谷川哲

 長谷川哲さんは1946年、愛知県稲沢市生まれ。1970年に慶応大学法学部を卒業。1979年から創作をしている。

 1988年、名古屋市芸術奨励賞受賞。現代日本美術展などでの受賞歴も多く、2000年には、第3回エジプト国際版画トリエンナーレでグランプリを獲得している。

 2002年には、稲沢市荻須記念美術館で「INAZAWA・現在・未来展(5) 長谷川哲・三輪美津子」が開催された。2019年にギャラリーA・C・S(名古屋)で開かれた個展のレビューも参照

長谷川哲

 長谷川哲さんの作品は、風景などを撮ったモノクロ写真のイメージを素材に、荒々しいストロークのような痕跡によって加工した作品などが知られる。イメージ、あるいは意味の世界と、おびただしい線の関係が、長谷川さんの作品では注目されるところである。

 つまり、ストロークの線の向こうには、かき消された世界=イメージがあった。そうして消えたイメージと、侵食され、分断され、孤絶化されつつも残るイメージの断片が、強く、現代の混迷、孤独を浮かび上がらせる。

言葉から、あるいは言葉に向けて

 今回、長谷川さんは、F3のキャンバスにドローイングをした13点を画廊空間ではなく、書店の中に展示している。

長谷川哲

 最初、筆者は、作品が書店内の小部屋のような空間に壁掛けしてあるのかと、勝手に思い込み、作品を探したが、見つけることができなかった。

 書店の人に聞いて分かったのだが、作品は、本に交じって、書店の各所に1点ずつちりばめるように展示してある。

 作品のサイズが本や雑誌の大きさと、さほど変わらないこともあって、紛れ込んでいるのが面白い。

長谷川哲

 陳列棚に並んだ本の表紙の間に立て掛けてあるかと思えば、平置きされていたり、レジの付近に忍ばせてあったりと、探して歩くのが楽しいのである。

 筆者は、あらかじめ、長谷川さんの作品を見る目的で書店を訪れたが、知らずに来た人はまた違う印象をもつだろう。

 作品は、黒地に、這うような白の細線がぎっしり引かれたドローイングである。

 長谷川さんによると、この作品は、言葉の機能を離れていくような考え方で制作されている。一見、横書きの文字のようにも見えるが、無軌道な線は意味内容の世界を離脱し、線は線でしかない。 

長谷川哲

 どの言語にせよ、文字は、点や線の組み合わせで記号化され、意味内容を伝えるが、長谷川さんの作品は、それを攪乱するような線の連なりである。

 本は、情報伝達、表現のためのメディアであり、電子媒体がどれだけ進化しようとも、人類にとって欠かすことのできない手段であり続けている。

 この書店のさまざまな分野の専門書のタイトルを見るだけで、日々、どれだけ多くの、世界への解釈、記録、伝達、表現がなされているのかと思う。

 線がランダムに、繊細にかかれたオールオーバーな小品。この充実した書店は、意味と解釈の世界で生きる人間世界の象徴でもあろう。長谷川さんの作品は、そんな書店に不意に現れた、意味の空洞である。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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