名古屋のカルチャーWEBマガジン「アウターモーストナゴヤ」では、レビュー、リポート、トピックスなどを掲載します

アート・アワード・イン・ザ・キューブ(ART AWARD IN THE CUBE)2020 清流の国ぎふ芸術祭

  • 2020年6月11日
  • 2020年6月12日
  • 美術

「清流の国ぎふ芸術祭 ART AWARD IN THE CUBE2020」が2020年6月2日から7月5日まで、岐阜市の岐阜県美術館、岐阜県図書館を会場に開かれている(当初予定は4月18日〜6月14日、新型コロナウイルスの影響で延期)。「記憶のゆくえ」をテーマに、幅、奥行き4・8メートル、高さ3・6メートルのキューブ空間を使って作品を発表する公募展。応募プラン710点から厳選した18点が展示された。審査員は、遠藤利克さん、高嶺格さん、村瀬恭子さんら7人。記憶を巡る18点の作品は多様で、全体にクオリティーが高い。

小島久弥、江藤莅夏

屋外の作品から紹介する。
小島久弥さんと江藤莅夏さんによるユニット「W.N.project」による《Light NOWーイマココ》は、愛知県豊田市での「あいちトリエンナーレ地域展開事業『Windshield Timeーわたしのフロントガラスから』現代美術in豊田」(2019年)でも見せたピンホールカメラによる作品である。キューブ内部を1つの暗室とし、壁や天井に開けた針穴を通過した光によって、キューブ内に倒立した像を投影させる。今回は、壁に1カ所、天井に1カ所の穴が開けられた。最も単純なカメラで、初期のカメラ・オブスキュラと同じ原理の暗室である。
取材に訪れた際、小島さんは、天候をとても気にし、参照されるべき作家として、ジェームズ・タレルの名前を挙げた。今回の作品で映し出される像が、美術館前の樹々だけでなく、広い空も含まれていることが重要である。
倒立しているので、上のほうに揺らぐ樹影が見え、そこから下は空。ゆっくりと流れる雲の動きをはじめ、キューブの暗室で展開するイメージのドラマは、見るという主体的な意識がなければ見逃すほどのもの。暗闇の中のかすかな光とイメージ、時間のうつりかわりは、虚実のぎりぎりの境界を美しく暗示し、「臨界点」という小島さんのテーマとも通じる。

小島久弥、江藤莅夏

暗室内の床面と壁面の下方(つまり空のイメージが映る部分)には、星空のように蓄光塗料のドットが散りばめられている。雲が流れ、樹影がそよぐ中、時間とともに小さな太陽が動いていく。天井の穴から差し込むその直射日光が蓄光塗料の星々の上を通ることで、太陽の軌跡のグラデーションが表れる。この作品では、鑑賞者の巨大なピンホールカメラ内にたたずむ時間、一日の時間のうつろい、そして、遥か彼方から届けられる光の時間が交差し、私たちの「いま、ここ」の意識を循環する時間、宇宙の遠大な時間へと接続する。その体験は、過去の時間とともに、未来からやってくる時間をも想起させる。

保良雄

1984年滋賀県生まれでフランスを拠点とする保良雄さんの作品《beclouded, becalmed, belighted 》もとても良い。RGB、CMYKなど、色彩がコード化されたデータとして扱われる現代において、草木から抽出した日本茜の赤い色を、自然との固有の結びつき、現前する色彩そのものとして捉えている。
作家によると、古来、赤なら日本茜、青なら藍というように、色彩には自然とのつながりがあり、それぞれの色を草木から抽出する行為には自然に対する祈りが込められていた。日本茜は、弥生時代 の衣服からも色素が見つかっていて、その後、万葉集の中でも詠まれたという。

保良雄

天井に張られた布の一部が日本茜で染まり、そこから糸をつたって、床面に置かれた溶岩石まで赤い茜の液体が落下していく。それは途中で滴り、床面の大理石を染めつつ、溶岩石の中にも入り込む。
ここでは、自然の色そのものがその時々の気温や陽光、湿度などや、糸、大理石、溶岩などの物そのものによって表情を変化させていく。それは、単なる色データなどではなく、日本茜がさまざまな物質や環境によって、折々の知覚へと誘うものである。実は、茜の液体の自然な落下はプログラミングで制御されている。キューブ内への入り口が、茶室の躙口(にじりぐち)のように小さく作られているのもユニーク。色彩そのものと自然、テクノロジーの織りなす光景に遭遇させ、虚心に向かい合わせることで色がもつ記憶の古層、自然の恵みへの崇敬を呼び覚ますような空間である。

高橋臨太郎
占部史人

 屋外には、失われた手足があるかのように感じる幻の知覚「幻肢」をテーマにした高橋臨太郎さん(1991年、東京都生まれ)、トロブリアンド諸島(パプア・ニューギニア)の空とカタツムリを題材にした神話をヒントに、カタツムリの螺旋形を捨てられた古い紙や古着の布で制作した占部史人さん(1984年、愛知県生まれ)の作品もある。

大西康明

 岐阜県美術館内の展示では、大西康明さん(1979年、大阪府生まれ)の作品《時間の溝》がとても美しい。空間の中央に多様な日用品が配置され、白い繊細な物質に覆われている。ありふれた物によって構成された世界が全く異なる光景に姿を変えている。一つ一つの物が何なのかと目を凝らしてみることがその物に関する個人的な記憶を呼び覚ます。
 物とそこから垂直に垂らした接着剤の筋に尿素の結晶を発生させることで、ほこりや灰が降り積もった、あるいは白い苔が覆い尽くした白昼夢のような光景を出現させた。日常的に使われる物でありながら、人間の生活から離れ、無限の時間が堆積したような非日常の美しい空間がここにある。

大貫仁美

 大貫仁美さん(1987年、千葉県生まれ)の《秘められた、その「傷」の在処》も、とても美しく、同時にコケティッシュな作品である。キューブ内の壁におびただしい数の服、下着が展示してあり、素材は薄く成形されたガラスある。非常に繊細、フラジャイルで、それを着用していた人間の身体や記憶の見てはいけない部分を見てしまったような気持ちにさせる。
 作家のステートメントによると、「傷」を装飾し「美」に転じさせる金継ぎの考え方から着想しているという。とすると、この作品を見たときの、ドキッとするような不思議な感覚は、下着や服を着ていた人間の記憶の中の傷、存在の脆さ、はかなさと、それらを抱えながらも、折り合いを付けながら生きている美しさ、かけがえのなさから喚起されているのもしれない。
 一つ一つの白い衣服の生々しい存在感、清澄な素材感が色っぽく、純粋であるとともにセクシャルな印象も与える。

北川純

 1965年、愛知県生まれの北川純さんの《質量保存の法則》は、とてもユニークで、興味を引く作品である。化学反応の「質量保存の法則」からの発想で、風船状のビニール袋を巨大ビーカーに見立て、その中で繰り広げられる「雑木林」から「高層ビル街」へ、「高層ビル街」から「雑木林」」への変化を視覚化し、子供も楽しめる作品に仕上げた。

ユニ ホン シャープ

 1981年、東京都生まれのユニ ホン シャープさんは、母国語が日本語の在日コリアンで、今はフランス国籍をもつ。作品は、それぞれのナショナリズムに回収されることなく、生きる中で変化してズレを内包させながらも身体と記憶にとどまる複数性のアイデンティティーが色濃く反映したマルチスクリーンの映像インスタレーションである。
 キューブの正面には、日本語のアクセントが残る母親のフランス語を子供が矯正する親子の映像が映され、それが終わると、今度は、両サイドの向かい合う2面の映像が始まる。ダンサーたちが朝鮮舞踊の断片的動作を伝言ゲームのように伝え合う様子が映されている。

御宿至

 御宿至さんは、1949年、静岡県生まれ。イタリアを拠点に制作している。脳内に貯蔵される記憶へと結びつく身の回りのおびただしい物を、世界の物流現場で使われるパレット(荷台)に集め、その記憶の貯蔵庫を視覚化した。

宙宙《cloud》

 宙宙《cloud》は、キューブ内部の暗闇の中に距離感のつかめない光の点群が浮き上がる。日常から離れ、つながり、とっかかりのない宇宙空間のような中で記憶の奥底から不意に何かが召喚される感覚が起こる作品である。

山本麻璃絵、姫野亜也

 1988年東京都生まれの山本麻璃絵さん、1990年大分県生まれの姫野亜也さんによるユニットは、1人の作家が石斧の石の頭の部分を石彫で制作。もう1人が石斧の柄の部分を木彫で制作し、大小さまざまな数十個を空間を配した。普段、石の彫刻、木の彫刻を作っている作家が、美術以前の原初的な道具を作ることで素材と「つくる」行為への根源的な問いかけをした作品である。

竹中美幸

 1976年岐阜県生まれの竹中美幸さんの作品は、過去にすごした場所や⽇常、旅先で採集した⾳を音符にし、その譜面を焼き付けた映像用フィルムと光によるインスタレーション。

笠原巧

 笠原巧さんは1993年、岐阜県生まれ。神話に登場する「ガンギエイ」の揺らぐような動きに基づき、複数台の測定機械が、キューブ内で長さを測るという人間的行為を繰り返す。古代の神話的思考と、現代のコンピューターを生み出した科学的思考とが結びついた作品である。

エイドリアン オー サレス

 エイドリアン オー サレスさんは、1979年、フィリピン生まれで、神奈川県を拠点に制作。キューブの壁面などに人間の遺伝子情報をモチーフにした映像を投影するなど、人間の遺伝子情報と記憶、人工知能の世界観が共存し、未来を志向する作品になっている。

森本孝

1946年、岡山県生まれの森本孝さんの作品は、AIが支配する時代の人間と宇宙、記憶に関わる物語的なインスタレーション。

川角岳大

 川角岳大さんは、1992年、愛知県生まれの若手。作家自身が犬の目に乗り込んでいるような感覚とともに、ただ「見る」ということを全面的に認めるまっさらな捉え方で空間を構築した。

橋本哲史

 1954年、京都府生まれの橋本哲史さんのキューブでは、外面が平安後期から続く一千一体黄土色仏の世界観を再現。内面はその「ゆくえ」となる一千一体仏像群を制作し、現代版を表現した。

平田昌輝

 1981年、富山県生まれの平田昌輝さんは、日本列島形成に伴ってできた三波川変成岩類という地質帯の変成岩である緑色片岩を彫り、裸体男性の半身像を制作。砥石で研ぎあげ、石の形成過程でできた文様をあらわにしている。

最新情報をチェックしよう!