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ギャラリーキャプションのenvelope as a door 第7弾 植村宏木さん 第8弾 中村眞美子さん

GALLERY CAPTIONからのメールより

 GALLERY CAPTION(岐阜市)が、2020年5月下旬に始めた郵便を介したプロジェクト「envelope as a door」第7弾の植村宏木さんと、第8弾の中村眞美子さんの作品受け付けを始めた。

第7弾 植村宏木 景色を掬う

 ​植村さんは、日本一の雪質を誇る北海道名寄市で育った。「シルキースノー」と呼ばれる、絹のようにさらさらとした名寄の雪は、低音の日には結晶のかたちを保ったまま降り積もり、その上に立っても、足元が埋もれることがない・・・。

 名寄の厳しい冬を通じて得た特異な感覚が、植村さんの作家としてのベースになっている。

​ 植村さんは、冬のどこまでも澄み切った空気と広がる雪原での直感を確かめながら、今いる場を起点に制作する。

​ 今回の作品は、コロナ禍で移動がはばかられる中、改めて自分が住む場所の周りを歩くことで生まれた。

 そこで拾い集めた欠片は、その場所の景色とともに、私たちの中のどんな景色を掬ってくれるだろうか。

 7つの場所のそれぞれを通じて、私たちは豊かな内なる景色と出合うことだろう。

遠くの誰かへ向けて、自分が居た場所の景色を届けたいと思う。​
それぞれの場所を眺めていると、記憶や気配を探っているような心地になる。
秘められたものごとの距離や、積み重なった時間を目に前に浮かべ、
あちらこちらへと思いがめぐる。
足元の欠片を拾いあげ、経験を形に変えていく。
​見えない姿を写しとるような、景色を掬う行為として。

植村宏木

街はずれの山の 移りかわる姿と 変わらない音
残されたものに面影をみる
​いつかまた 過ぎ去るものを秘める

植村宏木  『景色を掬う -火高火上-』
ガラス、木、銅線
​10.2×4.5×h1.9(cm)

植村宏木

鞍掛山の麓にて 石を積み上げ棚をつくる
線を引くように水を編む
​反復を重ね 次の歳を迎える

植村宏木  『景色を掬う -鞍掛山-』
ガラス、籾殻、米、コルク
​φ2×13(cm)
2020年

各/ 23,000円(税込、送料込)

第8弾  中村眞美子 風の譜

 ​白い雪に一面おおわれた野原に、ふと姿を表した枯れ草。そのかたちそのものから、雪のなかにぽつぽつと見える様子から、音が感じられる。

​ 普段から、自然が織り成すリズムを意識している中村さんは、画面が連なることで音を響きわたらせることができればと、3つのイメージからなる版画作品を届けた。

​ 届いた作品を机に上で立てると、そこに豊かな空間が感じられる作品である。

寒い 朝の日
草木の 枯れた影
曲がり 折れ
踊り 囁く
かすかな音
​宇宙のリズム

中村眞美子

中村眞美子  『風の譜 Ⅱ』
ドライポイント、雁皮刷り
sheet size/ 19.0×43.7(cm)
​image size: each/ 9.0×9.0(cm)  
ED/ 9
2020年

中村眞美子

中村眞美子  『風の譜 Ⅱ』
ドライポイント、雁皮刷り
sheet size/ 19.0×43.7(cm)
image size: each/ 9.0×9.0(cm)  
ED/ 9
2020年

各/ 18,000円(税込、送料込)

envelope as a door

 envelope as a doorは、ギャラリーと作家、そして封筒を受け取る人とを結ぶメール・アートのプロジェクト。第1弾は藤本由紀夫さん、第2弾は寺田就子さん、第3弾は大岩オスカールさん、第4弾は木村彩子さん、第5弾は金田実生さん、第6弾は寺田就子さんだった。

 第9弾は、藤本由紀夫さん。

 新型コロナウイルスの影響で、世界中の人々の生活と健康が脅かされている中で企画された。今後、ポストコロナの新常態の中で、オンラインによるコミュニケーションや、インターネット配信など、新しい生活様式が急速に日常に浸透し、人間が新たな環境でどう生きるか、芸術と人間との関わりはどうなるのかが問われている。
 「envelope as a door」は、そんな現在を見据えたプロジェクトである。

90年代の初め、インターネットが話題になり出した頃、私は手紙というものは20世紀中になくなってしまうのではないだろうかと考えていたことを、つい最近思い出した。
 直筆で便箋に築かれた世界が折り畳まれ、封筒という二次元ワールドに封印され、世界を旅して、遠い異国の友人のもとに届く。その友人は、封を開けることにより、未知の世界に突然の旅に出る。
そうである。「封筒」とはあの「どこでもドア」と同じものなのである。という事実を、最近世界を騒がせたニュースを見ていて教えられた。

藤本由紀夫 「26 philosophical toys」 2005年

GALLERY CAPTIONのWEBサイトより

 「envelope as a door」は、からっぽの封筒をギャラリーの空間に見立て、作家の作品を封書で届ける。ギャラリーの入り口の扉を開けるように、封筒を開くと、そこに作品がある。人が作品と出合い、そこから、さらなる出合いへと導かれる‥‥

 GALLERY CAPTIONは、オンライン・ショッピングの仕組みと変わらないと、説明する。それでも、そこには、ギャラリーだからこそできること、作家とギャラリーの真摯なメッセージとともに、美術作品の可能性、人間を豊かにする小さな時間と空間の大切さが提示されているのではないだろうか。

 それは、コロナによって世界の見え方、人間の生活と生き方が変容する中で、人間の価値、人間と世界との関わり、過去と現在、未来をつなぐ可能性を問い直す試みでもある。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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