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独裁者たちのとき アレクサンドル・ソクーロフ監督 名古屋シネマテークで5月13日公開

ヒトラー、スターリン、チャーチル、ムッソリーニ ─ いま、20世紀の亡霊たちが世界を覆い尽くす

 ロシアの鬼才、アレクサンドル・ソクーロフ監督の最新作「独裁者たちのとき」が2023年5月13日、名古屋シネマテークで公開される。

 深い霞に覆われた色のない廃墟の中で、男たちがうごめいている。第二次世界大戦の参戦国のリーダー、ヒトラー、スターリン、チャーチル、ムソリーニが1つの映像に召喚された。

 あの世で出会った4人は、お互いの悪行を嘲笑、揶揄し、己の陶酔に浸っている。〈地獄〉のようなこの場所で〈天国〉へと続く扉が開くのを待っているのかーー。

 ダンテの「神曲」を彷彿とさせる冥界を舞台に、神の審判を受けるため、20世紀の独裁者たちが天国の門を目指し彷徨う姿が、時には滑稽に、時には暴力的に、そしてシュールに我々の生きる現代を映し、そして、未来を予言する。

 鬼才、ソクーロフが、圧倒的な映像、震撼する音響とともに描いた、まったく新しい史劇、“おとぎ話”(Fairytale)である。

 親しげに語り合い、笑い合い、罵り合う独裁者たちの姿は、彼らの存命中に撮影された実際の映像アーカイヴの素材のみを切り取って合成。会話の中身は、実際の発言や手記の引用を基にして組み合わせている。 

 ロシアによるウクライナ侵攻の年に完成した本作は、プレミアを予定していたカンヌ国際映画祭で、お披露目数時間前に上映が中止となった。

ストーリー(公式サイト)より

 煉獄の廃墟の一室。匂い立つような花に包まれた棺の中、遺体のヨシフ・スターリンが「ブーツがきつい」と目を覚ます。同室には痛みを訴えるキリストが横たわる。「早く父なる神のもとへ行け」というスターリンに、キリストは「皆と同じように列に並んで審判を待つ」と答える。

 それを皮肉の笑みをこぼしながら上から見下ろすのはアドルフ・ヒトラー。軍服のスターリンを脇からウィンストン・チャーチルが覗いている。「お前はすでに臭い」「お前も臭い」。

 3人は互いに悪態をつきながら、天国の門に向かう旅に出た。道中でベニート・ムッソリーニが合流。4人は、自らの功績を称えたり互いを罵ったり嘲笑しながら、彷徨うように歩を進める。

 お喋りが止むことはないが、果たして互いの言葉は聴こえているのだろうか? 既に生身の人間ではないからなのか、時に分身が現れ、正装のチャーチル、外套姿のチャーチル、軍服のチャーチルが一堂に会しては、分身同士、互いに「兄弟」と呼び合ったりもする。

 こうして、天国の門を目指し、煉獄を彷徨う4人の旅が始まったのだが…。

監督・脚本:アレクサンドル・ソクーロフ出演:アドルフ・ヒトラー、ヨシフ・スターリン、ウィンストン・チャーチル、ベニート・ムッソリーニ※全て本人(アーカイヴ映像)
2022年|ベルギー・ロシア|ジョージア語・イタリア語・フランス語・ドイツ語・ロシア語・英語|78分
原題:Skazka|英題:Fairytale
日本版字幕:松岡葉子|宣伝デザイン:日用|ウェブデザイン:竹内健太郎|資料作成協力:松岡葉子/梶山祐治
宣伝・お問合せ:スリーピン 原田 |各地域配給:ミカタ・エンタテインメント 大森|提供・配給:パンドラ

アレクサンドル・ソクーロフ監督(公式サイトより)

 1951年、シベリアのイルクーツクに生まれる。軍人だった父親の勤務地の移動に伴い、トルクメニスタンやポーランドなど各地を転々とする少年時代を送る。

 1974年ゴーリキー大学で歴史学の学位取得後、モスクワの全ソ国立映画大学の監督コースに進み、期限前に全過程を終了したが、卒業制作として発表した『孤独な声』(1978年)は上映禁止処分を受けた。

 1980年より、レニングラード・ドキュメタリー・スタジオとレンフィルムで、監督として創作活動を開始したが、ソ連時代に彼の全監督作は上映禁止処分を受けている。

 ペレストロイカ後は『孤独な声』(1987年公開)が同年のロカルノ国際映画祭銀豹賞受賞など、旺盛に監督作を発表。映像と音、音楽、役者が一体となり、一幅の絵画を描くように構成される作風は映画界のみならず、芸術や文学を始め広い分野に影響を与え、今や世界をリードする監督のひとりとなった。

 1994年には、それまでのソクーロフの全作品を詳細に検証した「ソクーロフ」(邦訳は1996年パンドラ刊)が、サンクト・ペテルブルクで発行。1995年、ヨーロッパ映画アカデミーより「ヨーロッパで最良の映画監督の一人」に選ばれ、1998年には、バチカンより顎彰され、2011年日本政府より旭日小綬章を授与されている。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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