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映画「アートのお値段」 9月7日から名古屋シネマテーク

なぜ現代美術が億単位の価格で売れるのか—。「マイ・アーキテクト ルイス・カーンを探して」でアカデミー賞候補になったナサニエル・カーン監督が、高騰するアートとお金の関係に迫ったドキュメンタリー映画「アートのお値段」が2019年9月7~27日、名古屋シネマテークで公開される。
なぜ、現代アートはそんなに高いのか? アートの価値って何なんだ?と、現代アートの中心地、米ニューヨークで、アート界の大物たちに切り込んでいく映画は、単に作品の良し悪しだけで成り立ってはいないアートをラジカルに腑分けする。それは現実であるし、ある意味で通俗的でさえある。アーティストのジェフ・クーンズ、ゲルハルト・リヒター、キュレーターのポール・シンメル、ギャラリストのジェフリー・ダイチをはじめ、オークション関係者やコレクターなど名だたる人物たちがアートとマーケット、お金との関係について歯に衣着せぬ発言を連発。アートは投資対象であるのか。そもそもアートの価値は何だろうか。突き詰めると、アートとは何なのか。そんな問いさえ内在させつつ、スリリングに映像が展開する。数多くの作品や作家が登場するのでアート好きには、米国アート界を知る上で勉強にもなる。

 存命アーティストとして、史上最高額の100億円で作品が落札されたジェフ・クーンズが登場。「自分の関心から作品を作る」と言いながら、チェルシーの工場のようなアトリエで100人以上のアシスタントに作品を作らせ、世界中の有名コレクターに数千万ドルで作品が売買されている。一方、「アートとマネーに何の関係もない」と話すのは、1960年代にオプアートのドットペインティングで頭角を現したものの、作風を変えたことで批判を浴び、「死んだと思われている」と自分で言う老画家ラリー・プーンズだ。
 映画では、この両者が対比的に描かれ、金満と質素、ブランド戦略と純粋さがそれぞれの属性として印象付けられる。プーンズは1970年代には、ロバート・ラウシェンバーグやジャスパー・ジョーンズ、アンディ・ウォーホルらと一緒にオークションで作品が売買されたこともあった。美術評論家のバーバラ・ローズによると、その後、長い間、ギリギリの生活をしていたが、人気が再熱した。しかし、それも、株と同じで割安感があるからというのだから、「結局、金か」と思わざるをえない。富裕層をはじめ、市場の需給によるゲームの中で、価格が決まるのだ。あるギャラリストは言う。「アートとお金は結合性双生児だ」「アートは目的を見失ってしまった」と。「現代アートのなれの果ては、高級ブランドよ」と美術評論家。

 1970年代と比べ、100倍のコレクターがいて、1000倍のアーティストが作品を作っていると言われる状況。現実は、移り気なマネーゲームになっている。アーティストからも「マーケットは切り離された世界。芸術作品の創造とは別物」との声が上がる一方、「市場が作品の価値を決めている」とはばからないギャラリストもいる。本人は登場しないものの、ブランディング型、扇情主義のアーティストとして、クーンズ以外に、ダミアン・ハースト(映画に、あのホルマリン漬けの動物たちも登場)、マウリツィオ・カテラン(あの黄金の便器も登場)、村上隆の絵画なども登場。対極的に、ゲルハルト・リヒターは厳格に、「(競売によって)個人のコレクションになるより、美術館で見てもらうほうかいい」「(富裕層の資産になって)個人の家の価値を上げるなんて、ごめんだ」「フェアじゃない」「金は汚い」と明言。心情的には、こちらの方にものすごく共感できる。ただ、金でギトギトしたジェフ・クーンズの作品を不動産会社のロビーに飾る人たちのために売りまくるオークション会社にとって、「美術館は墓場」なのだ。

 この映画が優れているのは、単に金満アートと、純粋で情熱的な創造者を対比させるだけでなく、美術史に絡めつつ、現代アートを投資対象にした歴史を紐解いているところだ。バスキアやポロックの苦悩、アートに高額な値段がつくようになったオークションの過去、銀行との関わり、近代の巨匠たちのオークションへの出品が減り、美術品市場が縮小する中で無限に供給できる現代アートを押し出す戦略があったこと、分散投資の対象としてのアート、2次マーケット、3次マーケットの方が儲かるゆえの転売屋の存在。また、富裕層がすべて悪な訳でもない。オークションで、超富裕層に買われた作品は、誰でも鑑賞できる公共的な場に戻ってこないのが普通とはいえ、買い集めた作品を美術館に寄付する人もいる。そして、アーティストの純粋な創造への意欲や、アートの本当の価値を見たいという鑑賞者もちゃんと存在している。有名なギャラリストで2019年に閉廊を発表したメアリー・ブーンが、ラリー・プーンズの絵がずっと好きだったと回想する場面には、ほろっとさせられる。

 さて、プレス資料に載っていたカーン監督の言葉を紹介しよう。
 この映画を見た人に学んでほしいことの1つは、目を見開き、思うがままにアートを見ること。2つ目は、市場がなんと言おうと、アートの価値と価格は本質的な関係がほとんどないということ。これには勇気付けられる。数年間にわたって、米国のアート界をさまよったカメラが映した結論がこれなのだ。カーン監督は、芸術には金を超える何かが存在し、それは商業から解き放たれ、最良の時には何かを啓示してくれると確信しているという。私も力強く、この意見に同意したい。

 

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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