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シャンタル・アケルマン映画祭2023 4月22日-5月5日 名古屋シネマテークで開催

デビュー作『街をぶっ飛ばせ』など5作品を加えた全10本

 「シャンタル・アケルマン映画祭2023」が2023年4月22日~5月5日、名古屋・今池の名古屋シネマテークで開催される。

 既成の映画ルーティンを破壊し、見る者を全く新しい地平へと誘う映画監督、シャンタル・アケルマン。2022年、イギリス映画協会が10年ごとに選出する「史上最高の映画(The Greatest Films of All Time)」で、代表作『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』が1位に輝いた。

  シャンタル・アケルマン映画祭は2022年に続き、開催。前回上映の5作品に加え、デビュー作の短編『街をぶっ飛ばせ』をはじめ、新たに5作品をラインナップした全10本(9プログラム)を特集する。

シャンタル・アケルマン

 1950年6月6日、ベルギーのブリュッセル生まれ。両親はともにユダヤ人で、母方の祖父母はポーランドの強制収容所で死去。母親は生き残った。

 女性でありユダヤ人でありバイセクシャルでもあったアケルマンは15歳の時にジャン=リュック・ゴダールの『気狂いピエロ』(65)を見たことをきっかけに映画の道を志し、18歳の時に自ら主演を務めた短編『街をぶっ飛ばせ』を初監督。

 その後、米ニューヨークにわたり、初めての長編『ホテル・モンタレー』(72)や『部屋』(72)などを手掛ける。

 ベルギーに戻って撮った『私、あなた、彼、彼女』は批評家の間で高い評価を得た。25歳のときに平凡な主婦の日常を描いた3時間を超える『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』を発表、世界中に衝撃を与える。

 その後もミュージカル・コメディ『ゴールデン・エイティーズ』や『囚われの女』、『オルメイヤーの阿房宮』などの文芸作、『東から』、『南』(99)、『向こう側から』(2002)といったドキュメンタリーなど、ジャンル、形式にこだわらず数々の意欲作を世に放つ。

 母親との対話を中心としたドキュメンタリー『No Home Movie』(2015)を編集中に母が他界。同作完成後の2015年10月、パリで逝去。

スケジュール

4月22日4月23日4月24日4月25日4月26日4月27日4月28日
10:00
家からの手紙&街をぶっ飛ばせ
10:00
アンナの出会い
10:00
ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス湖畔通り23番地
10:00
囚われの女
10:00
家からの手紙&街をぶっ飛ばせ
10:00
私、あなた、彼、彼女
10:00
オルメイヤーの阿房宮
11:50
一晩中
12:35
東から
13:40
一晩中
12:10
ゴールデン・エイティーズ
12:00
ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス湖畔通り23番地
11:45
家からの手紙&街をぶっ飛ばせ
12:35
東から
13:40
ゴールデン・エイティーズ
14:00
私、あなた、彼、彼女
13:45
一晩中
4月29日4月30日5月1日5月2日5月3日5月4日5月5日
時間未定
東から
時間未定
ゴールデン・エイティーズ
時間未定
囚われの女
時間未定
東から
時間未定
家からの手紙&街をぶっ飛ばせ
時間未定
一晩中
時間未定
ゴールデン・エイティーズ

上映作品(公式サイトより)

①私、あなた、彼、彼女
 アケルマン自身が演じる名もなき若い女性がひとり、部屋で家具を動かし、手紙を書き、裸で砂糖をむさぼる。部屋を出た彼女はトラック運転手と行動を共にし、訪れた家で女性と愛を交わす……。殺風景な空間と単調な行為が彼女の閉塞感や孤独を際立たせ、激しく身体を重ね合うことで悦びがドラマティックに表現される。観客は彼女の道程を緊張感を持って見つめることによって、その“時間”を彼女と共有する。74年 86分
②ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス湖畔通り23番地 
 ジャンヌは思春期の息子と共にブリュッセルのアパートで暮らしている。湯を沸かし、ジャガイモの皮を剥き、買い物に出かけ、“平凡な”暮らしを続けているジャンヌだったが……。アパートの部屋に定点観測のごとく設置されたカメラによって映し出される反復する日常。その執拗なまでの描写は我々に時間の経過を体感させ、反日常の訪れを予感させる恐ろしい空間を作り出す。ジャンヌを演じるのは『去年マリエンバートで』(61)、『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』(72)のデルフィーヌ・セイリグ。75年 200分
③街をぶっ飛ばせ 
 当時18歳だったアケルマンが、ブリュッセル映画学校の卒業制作として初めて監督、主演を務めた記念すべきデビュー作。花束を手にアパートの階段を駆け上がったひとりの女。鼻歌を口ずさみながらパスタをつくって食べ、調理器具をばらまき、洗剤をまき散らし、マヨネーズを浴びる。狭いキッチンで縦横無尽に暴れ回った彼女の支離滅裂な行動は、驚くべき事態で幕を閉じる。その後の反逆的な作品群の原点とも言える破壊的なエネルギーに満ちた、あまりに瑞々しい短編。68年 12分
家からの手紙 
 路地、大通りを走る車、駅のホームで電車を待つ人々、地下道…… 1970年代ニューヨークの荒涼とした街並みに、母が綴った手紙を読むアケルマン自身の声がかぶさる。固定ショットやトラベリングで映し出される公共のロケーションと、時折、車の音に掻き消されながらも朗読される、愛情溢れる言葉の融合。都会の寂しさと、遠く離れた家族の距離がエレガントな情感を持って横たわる、映画という〈手紙〉。76年 85分
④アンナの出会い 
 最新作のプロモーションのためにヨーロッパの都市を転々とする女流映画監督を描く、アケルマンの鋭い人間観察力が光る一本。教師、母親、母親の友人らとの接触を挟みながら、常に孤独に彷徨い歩く主人公アンナの姿と、日常に溶け込みはしない断片的な空間と時間とを通して、アイデンティティや幸福の本質が絶妙な構成で描き出されている。『パリ・テキサス』(84)のオーロール・クレマン、『キャバレー』(72)のヘルムート・グリーム、『フェリーニのアマルコルド』(73)のマガリ・ノエルとアケルマン作品にしては豪華なキャストが揃う。78年 127分
⑤一晩中 
 ブリュッセルの暑い夜、眠りにつくことのできない人々。ある者は恋人の腕のなかに飛び込み、ある者は街に繰り出し、夫婦は語らい、そしてある者はバーでダンスを踊る……。官能的な熱を帯びた一晩の中で連結していく、数々の出会いや別れ。詩的な青色の夜を描き出す撮影監督の一人に、ジャック・リヴェット監督『北の橋』(81)、80年代のジャン=リュック・ゴダール監督作品、近年ではレオス・カラックス監督『アネット』(2021)を手掛けた名女性キャメラマン、カロリーヌ・シャンプティエ。82年 90分
⑥ゴールデン・エイティーズ 
 美容院やカフェが並ぶパリのカラフルなブティック街を舞台に、そこで働く従業員たち、客たちが恋模様を歌い上げるミュージカル。パステルカラーの衣装に身を包んだ登場人物たちが歌い踊るロマンティックな浮遊感と、愛に対するアケルマンの容赦ない視線が巧みにバランスされている。シナリオにはフランソワ・トリュフォー監督作品に欠かせないジャン・グリュオー、アンドレ・テシネ監督『ブロンテ姉妹』(79)やジャック・リヴェット監督『美しき諍い女』(91)を手掛けたパスカル・ボニゼールと名脚本家が参加した。86年 96分
⑦東から 
 ポーランドやウクライナ、東ドイツといった、ソ連崩壊後の旧共産主義国の都市とそこで暮らす人々の姿をとらえたドキュメンタリー。ナレーションや場所の名前をも排して、アケルマンは時折、市井の人々の家庭の様子を散りばめながら、果てしない距離や文化情勢、生活様式を記録した。洞窟のような駅のホーム、カメラを見つめる人々の表情、寒空……。透徹した眼差しがその場所で確かに流れる時間と観客を近づけ、好奇心を駆り立て、映像そのものが静かに語りはじめる。93年 115分
⑧囚われの女 
 祖母とメイド、そして恋人のアリアーヌとともに豪邸に住んでいるシモンは、アリアーヌが美しい女性アンドレと関係を持っていると信じ込み、次第に強迫観念に駆られていく。マルセル・プルーストの「失われたときを求めて」の第五篇、「囚われの女」の大胆で自由な映像化。嫉妬に苛まれ、愛の苦悩に拘束される虜囚の境地をアケルマンは洗練された表現で描写する。ジャン=リュック・ゴダールの『軽蔑』(63)やアルフレッド・ヒッチコックの『めまい』(58)をも想起させるこの傑作は公開年の「カイエ・デュ・シネマ」ベストテンで2位に選ばれた。2000年 117分
⑨オルメイヤーの阿房宮 
 東南アジア奥地の河畔にある小屋で暮らす白人の男オルメイヤー。彼は現地の女性との間に生まれた娘を溺愛し外国人学校に入れるが、娘は父親に反発するように放浪を重ねていく……。『地獄の黙示録』(79)のもとになった「闇の奥」で知られるイギリスの作家ジョゼフ・コンラッドの処女小説を脚色。時代も場所も明かされず抽象化された設定の中で、狂気と破滅の物語が繰り広げられる。原作の持つ実存主義と家父長制という重苦しいテーマを孕みながらも、アジアの街並みを自在に歩き回る娘を横移動で捉えたカメラが素晴らしく、幻想的なまでに美しい。2011年 127分

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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