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赤石隆明 Time flies FLOW(名古屋)で2023年2月25日-3月26日

PHOTO GALLERY FLOW NAGOYA(名古屋) 2023年2月25日〜3月26日

赤石隆明

 赤石隆明さんは静岡県生まれ。東京造形大学大学院修士課程修了。東京を拠点に活動している。キヤノン写真新世紀2010で佳作に選ばれた(佐内正史選)。2013年に初の写真集『UNBROKEN ROOM』を出版している。

 また、あいちトリエンナーレ2016では、岡崎シビコ会場で開催された小企画「トランスディメンションーイメージの未来形」に参加した。後藤繁雄さんがディレクターを務め、ほかにルーカス・ブラロック、勝又公仁彦、小山泰介+名和晃平、横田大輔が出品した。

 写真の新たな展開として企画されたこの展示で、赤石さんは、布地カバーに写真を転写した7体のクッションを空間に配したインスタレーションを展示した。

 写真というメディアに対して、挑戦的な問い掛けをしている作家である。

赤石隆明

 既存の写真の枠組みから大きく踏み出しながら、空間的、時間的に感覚を揺さぶるような仕掛けをつくりだす。それぞれの作品は1点で完結することなく、過去の制作を引用しながら変換を繰り返して、それらを連続させてチャート化している。

Time flies

 SNSやスマホの技術的発展によって、写真イメージが世界中に遍在化する時代の到来によって、従来の写真媒体の価値が著しく変貌する中で、ポスト・インターネット時代の写真が意識された作品である。 

 実際に今回の赤石さんの個展では、フレームに入った写真のみならず、映像や、布地カバーに写真が転写されたクッションも含めたインスタレーションとして構成され、全体が「Time flies」という1つの作品になっている。

 割れたセメントが張り付いたクッションの物質的な存在感は、通常の写真展では見られないものである。

赤石隆明

 この物体は、2016年あいちトリエンナーレの岡崎シビコ会場で展示された7体のクッションの1つである。クッションは土の中にいったん埋められ、掘り出した後、別のギャラリーで展示されるなど、継続して作品に使われてきたものだ。

 一方、フレームに入った写真の被写体は、泥まみれのクッションや、作家がそれを洗っている場面、あるいは、波に侵食された海岸の岩場、周囲の風景を映した氷など。いずれも不穏な雰囲気に満ちている。

 さらに興味を引くのが、映像である。2016年に岡崎シビコで展示した7体のクッションのうちの2つを、静岡県の山中に7年間もの期間放置して、固定のセンサーカメラで撮影した4万カットの写真(静止画)を連続表示し、53分にまとめたものである。

赤石隆明

 つまり、昼夜を問わず、カメラが何らかの動きを感知して撮影した膨大な写真を連続して映している。森の中の2体のクッションを、季節や昼夜の変化、大気の気配とともに映し、時折、野生のシカやサルが近づく様子も捉えている。

 山中に置かれた異物としての2つクッションと、樹々の揺らぎ、光や影、空気のうつろい、動物などが絡み合う7年間の時間の流れに見入ってしまう不可思議な映像である。

 赤石さんの作品は、写真を使っているが、それは紙にプリントしたものだけでなく、クッションなどの物質、あるいは非物質のおびただしい連続データとして現れる。

 同時に、それらは、以前の作品を取り込みながら展開し、自然環境などある種の偶然性によって《変換》されていく。今回の作品では、クッションが山中に置かれて、自然にゆだねられることで、変化していく。

赤石隆明

 そして、それこそが、写真のアナロジーにもなっている。

 写真は、三次元の現実世界がカメラという光学装置によってイメージに変換されたものだが、赤石さんの作品もまさに、クッションが土の中に埋められたり、山中に放置されたりすることで、自然のさまざまな影響を受けて変換される。

 それは、カメラにフィルムをセットして写真が撮られる(世界がイメージに変換される)ように、地球にクッションをセットして、クッションが変換されるのを記録しているようでもある。 

 そう考えると、フレームに入った写真の、波によって侵食された岩場のイメージも、自然による変換ということでつながってくる。

 つまり、「Time flies」では、写真を布地カバーに転写したクッションを自然にゆだねて変換するという過程や、波の侵食による海岸の変換などが、作家自身のコントロールを超えたところで世界がイメージへと変換される写真のアナロジーになっているのだ。

赤石隆明

 ここで、2019年のあいちトリエンナーレで展示された写真家、ワリード・ベシュティの作品を想起することもできるだろう。

 ワリード・ベシュティは、ガラスの箱が世界的な運送会社FedEx社のサービスによって輸送され、破損した状況や、旧東ベルリンの廃虚となったイラク大使館を2006年に撮影した写真フィルムを、保護しないまま空港の手荷物検査へ通すことでX線に感光させた写真を展示していた。

 ひび割れたガラスの箱も、X線に感光した廃虚の写真も、世界を移動する過程で、宅配便や空港の保安検査場のX線というシステムにさらされることで、変換したのである。

 赤石さんの作品も、作家自身のコントロールを離れ、自然環境にさらされ、変換されている。生成され、壊れ、また生成され、持続している。写真というメディアの新たな展開といえるだろう。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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