記事内に商品プロモーションを含む場合があります

あいちトリエンナーレ 芸術監督がオープン・レターに回答

 「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展・その後」が中止になり、一部の参加アーティストから、2019年8月12日付「ARTnews」(web) のオープン・レターで声明が出されたのを受け、トリエンナーレ事務局は2019年8月23日夜、津田大介芸術監督がオープン・レターへの回答を各アーティストに送付したと発表した。
 展示の一時停止・変更を求める声明を出していた海外9作家のうち、8組の展示中止や、展示内容の変更が、既に8月20日から実施されている。対応協議中だったウーゴ・ロンディノーネさんは、展示を継続。作品を改変することで、表現の自由を守る意思を示した作家もいる。津田芸術監督は回答で、「検証委員会の中間報告を待って、再開に向けた様々な可能性を検討する」「部分的に連帯できる共同体としてプロトコルを表明できないかと模索を始めた。今後も国内外の美術専門家や関係機関との議論を重ねていく」としている。
 回答の全文は以下の通り。 

8 月 12 日付書簡「表現の自由を守る」に署名されたアーティストの皆様

8 月 12 日付で記された書簡「表現の自由を守る」を受け取りました。同じ展覧会に参加しているアーティストによる作品が展示されなくなったことに対し、皆様が強い憤りや落胆を感じられたことについて、あらためてお詫び申し上げます。そして、展示が叶わなくなった仲間の立場に立って連帯の意思を表明し、すべてのアーティストの活動の核にある「表現の自由」を擁護する皆様の考えに、深い共感を示します。そして皆様がわたしたちの動きを鈍いように感じ、不服に思っていることも理解しています。

「世界の文化芸術の発展への貢献」を目的の一つに掲げる国際芸術祭の主催者として、私たちもまた、その実現にあたって基盤となる「表現の自由」を最大限に尊重することをここに表明します。私たちの国際現代美術展の中の展覧会「表現の不自由展・その後」は、自分と異なる意見や他者の思想に対する不寛容さが広がり、自己規制が蔓延した現代の日本社会において、企画を発案して実現すること自体が非常に挑戦的な企画でした。この試みは、日本国内の公的な美術館や芸術祭でも類をみないものです。私たちはまさに「表現の自由」を尊重するからこそ、いくつもの大変な課題を乗り越えながらこの展覧会を実現し、8 月 1 日の開幕を迎えたのでした。開幕当初から、私たちのもとには、想定を超える脅迫や、苛烈な電話攻撃、非人道的なテロの予告が続きました。今回の決定は、あくまでも、危険の差し迫っていた来場者や職員の人命を優先した判断であり、最大限に「表現の自由」を認める立場は一貫しているのです。

皆様の書簡に記されているように、表現の自由に対するいくつかの攻撃があったことについて、私たちも深く憂慮しており、それらに対して私たちは毅然と立ち向かいます。

(1)(2)河村名古屋市長の発言は、日本国憲法第 21 条に違反する疑いが極めて濃厚であり、アーティストの皆様と同じく、異を唱えます。また、複数の公人による発言は、表現の自由や知る権利を毀損し、文化芸術事業を国家レベルで委縮させる恐れがあり、看過し難いものです。表現の自由を尊重した私たちの取り組みは、公に向けて広く議論の場を提供するための試みとして、公益性の点から鑑みて適切な公金の使途であると考えています。もちろん、彼らの発言は今回の判断にまったく影響しておりません。

(3)他方、職員や他の組織への電話での攻撃については、未だ法的・刑事的な予防措置を見出せておらず、私たちが最も苦慮している課題です。このことが、アーティストの皆様に展示室の再開の如何について明快な回答を差し上げることができないでいる最大の理由です。攻撃の中には、電話対応をする者の家族を特定し、危害を加えるなどという卑劣かつ具体的な脅迫も含まれます。

(4)テロを予告するファックスに対しては、決して屈することはなく、警察の捜査に私たちも積極的に協力することで、すでに犯人が逮捕されました。他の脅迫者の特定と逮捕にも全力を挙げてもらうよう、警察の捜査に引き続き協力していきます。

「表現の不自由展・その後」の再開については、8月 16 日に第三者による「あいちトリエンナーレのあり方検証委員会」が立ち上がり、準備と実施、中止にいたるまでのプロセスが検証されることになりました。その中間報告を待って、再開に向けた様々な可能性を検討していきたいと考えています。

そして、私たちはばらばらの存在としてステートメントでその立場を表明するだけでなく、 部分的に連帯できる共同体としてプロトコルを表明できないかと模索を始めています。そ のために私たちは、今後もアーティストの皆様や観客の声を聴き、国内外の美術専門家や関 係機関との議論を重ねていく所存です。またヘイトや歴史修正主義の台頭に対しても、明白 にそれを拒否する姿勢です。

表現の自由はアーティストの皆様と同じく、私たちにとっても重要です。
 

あいちトリエンナーレ 2019 芸術監督津田大介

最新情報をチェックしよう!
>文化とメディア—書くこと、伝えることについて

文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

CTR IMG