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ロココ様式から写実、印象派、エコール・ド・パリまでフランス美術を堪能しよう! ヤマザキマザック美術館(名古屋)

黒田直美(ライター)

地下鉄の駅から直結の好立地

 一枚の絵を見て心が揺さぶられるのは、旅先で美しい景色を見て感動するのと似ています。 海外へ旅することが難しくなった今、遠い異国に思いを馳せながら、美術館を訪ねてみませんか。

 そんな楽しみ方を堪能せさてくれるのが、地下鉄東山線で名古屋駅から約 7 分、新栄駅に直結しているヤマザキマザック美術館です。

 工作機械メーカーのヤマザキマザックの前会長であり、初代館長であった山崎照幸氏が、海外を訪れた際に蒐集したフランスの美術作品を公開しています。

18 世紀から 20 世紀にわたるフランス美術を一堂に

 ルイ 15 世の華やかな宮廷文化により派生したロココ様式と呼ばれるヴァトー、ブーシェ、フラゴナールの巨匠をはじめ、新古典主義のアングル、ロマン主義のドラクロワ、さらにモネやルノワール、シスレーといった印象派、シャガールやモディリアーニ、ユトリロといったエコール・ド・パリを代表する画家まで、フランスで活躍した作家たちの作品を所蔵しています。

 さまざまな芸術が花開き、18 世紀から 20 世紀にかけて世界に影響を与えたフランス美術の流れを順を追って鑑賞できます。

 また、19 世紀末に広がったアール・ヌーヴォ―の代表的な作家、ガレをはじめとしたガラス工芸や家具などの有機的で柔らかな曲線美が特徴的な美術工芸品も楽しめます。

 とはいえ、開催中の「春の所蔵品展」(2022年3月3日〜4月17日)では、絵画や家具、ガラスなど、175 点もの作品が展示されているので、「何をポイントに見たらいいのか分からない」「フランス美術って難しい」と感じる人もいるかもしれません。

 そこで今回は、初心者でも楽しめるフランス美術の楽しみ方をヤマザキマザック美術館の広報担当、西川由佳里さんにうかがいました。

ヤマザキマザック美術館広報の西川由佳里さん

まるで宮廷にいるような優雅な雰囲気の中で味わう絵画

 エレベーターで 5 階に上がると、真っ赤な壁の華やかな内装に圧倒されます。優雅で贅沢な展示フロアもヤマザキマザック美術館の特徴といえます。

 「公共の美術館ですと、企画ごとにいろいろな美術品を展示するので、背景は白や黒とい ったモノトーンになります。ここは逆で、所蔵作品に合わせた部屋作りをしており、その雰囲気ごと楽しんもらえます。展示室のしつらえ、壁紙、床材なども海外から取り寄せ、シャンデリアも当時のモデルを再現して作ってもらったものなんです」と西川さん。

 美術品に向き合うには、画家の生涯や時代背景、歴史を知らなければと思いがちですが、 まずは絵画が描かれた時代のムードと共に作品を楽しむことが大切。

 ヤマザキマザック美術館では、絵との距離も近く、絵画作品がガラスやアクリル板で覆われていないため、当時と同じような状況で鑑賞することができます。

 そこには、初代館長のこだわり、画家と同じ目線で絵画を楽しんでもらいたいとの思いがあるのだとか。

 教科書や美術書で見た画家の作品を至近距離で見られるのは贅沢の極みといえます。

 西川さんは「ガラスやアクリル板がないことで、照明の反射などで絵が見づらいということもなく、実際の色、筆跡、筆の運びなどをリアルに感じていただくことができます」と話します。

 絵の前に立ち、じっくり眺めていると、時間を忘れ、まるでベルサイユ宮殿にいるような錯覚に陥ります。

 300 年近い時を超えて、ルイ王朝時代にタイムスリップ。そんな特別な旅の感覚を味わうことができます。

宮殿内をイメージしたような赤の間

筆致の細やかさ、色使い、洗練された絵画の見どころを知る

 ここでいくつかの絵画作品を紹介します。

ニコラ・ド・ラルジリエール(1656-1746)「ジャッソ夫人とふたりの子供」1707 年頃 油彩、キャンヴァス、138.2×105cm

 ニコラ・ド・ラルジリエールの「ジャッソ夫人とふたりの子供」は、髪の毛がとてもリアルに細かく描かれていることに、思わず目を奪われました。

 ブルジョワ階級の女性が子どもたちと戯れて、無造作に見える髪型は当時、流行したヘアスタイル。そういうことを敏感に取り入れる様子は、どこか現代の私たちと重なる部分もあり、微笑ましく感じられます。

 ラルジリエールは、肖像画の名手と称えられた王立絵画彫刻アカデミーの重鎮。

 光沢のあるビロードやサテンの輝き、質感、繊細なレース、艶やかな髪の色、そして優雅な手の動きなどを美しく描いています。

 絵画は『美しい』と眺めるだけでなく、どこかに自分たちとの暮らしの接点が見えてくると、より興味がわきます。

 ロココ様式の特徴として、筆致を残さず、背景も抑えて描かれることが良しとされていたため、人物の美しさがより際立っている作品です。

フランソワ・ブーシェ(1703-70) 「アウロラとケファロス」1745 年頃 油彩、キャンヴァス 237.5×259cm

 フランソワ・ブーシェによって描かれた本作品は、その大きさと色使いに圧倒されます。

 ブーシェは歴史画家として、優美な女神を描いた神話画、宗教画、明るく楽しげな牧歌画などを多数制作。ローマ神話の世界を表現した「アウロラとケファロス」は、妖艶な美しさや快楽的な表情が見事な筆致で描かれています。

ジャン=バティスト・パテル(1695-1736) 「野営」 制作年不詳
油彩、キャンヴァス 46.3×54.5

 パテルが得意としたジャンルである軍隊の行軍を描いた作品は、戦争の悲哀とつかの間の享楽を一枚の絵に落とし込んでいます。

 酒を飲み交わし、女性を口説くもの、朗らかに笑うものなど、人々の豊かな表情が、今にも動き出しそうなほど細やかに描かれています。

 常設として、これらの絵画を見られるというのは本当に贅沢です。

芸術の都・パリを彩った作家たちの作品

 隣の部屋に移ると、一転して壁は柔らかな薄い黄色に。モネ、シスレーなど錚々たる画家の作品が一堂に並びます。

 「印象派の時代になると、画家自身の心象を表しているようなタッチが見られるようになります。産業革命の影響が画材にも表れます。絵の具がチューブになり、持ち運べるようになりました。室内で対象物と向き合って描くことから脱却し、キャンヴァスを持って戸外で描くようになりました」

 西川さんはそう話し、「美術の技法が分からないお子さんでも、光の表現や空の描き方から、『明るいな』『きれいだな』『楽しいな』と感じとっていただけるのでは、と思います」と付け加えました。

 この時代、描かれる対象も一般大衆へと変わり、時代の空気 感や人々の暮らしが如実に伝わってきます。

パリの洗練された雰囲気を味わえる黄色の間

 ここで 1 枚の絵を見てください。荒々しい波が激しいうねりを見せています。

ギュスターヴ・クールベ(1819-77) 「波、夕暮れにうねる海」 1869 年 油彩、キャンヴァス 74.5×90.9cm

 ギュスターヴ・クールベの「波、夕暮れにうねる海」は、どこかで見たような気がしませ んか。

 そう、葛飾北斎の浮世絵『富嶽三十六景』全 46 図中の 一 つ、「神奈川沖浪裏」に似た構図となっています。

 西洋の画家たちに北斎や広重の浮世絵が大きな影響を与えたといわれています。

 4 階に展示されているガラス工芸にも北斎漫画に影響を受けた作品が展示されています。そんな日本との繋がりを探して見るのも楽しみの一つとなります。

初心者必見!  アートを気軽に楽しむコツ

 ここで西川さんに初心者が楽しむポイントをもう一つ教えていただきました。

 「私も教えてもらって実践していることなのですが、『展示されている作品から、自分の家に一つもらえるならどれを選ぶ ? 』と考えながら、絵画を見ていくんです。『自分の部屋ならこれかな』『リビングならこれかな』『トイレにならこれかな(笑)』というように。そうすると、作品を見る視点がより身近になるんです」

 知識だけで絵を見ていると、ついつい頭で考えてしまいます。どの絵を飾りたいかといった視点で見ると、自分の好みや「この絵のここが好き」といった感覚で見ることができそうです。

 絵を見る前に解説を一生懸命読むのではなく、まずは見て、感じて、楽しむことが本来の絵画の楽しみといえるのかもしれません。

 ヤマザキマザック美術館では、作品に詳細なキャプションをつけていない代わりに、音声ガイドを無料で貸し出しています。

 まずは、作品を見て、興味を持ったものをじっくり音声で聴いてみる。音声ガイドでは、時代背景や画家とモデルの関係なども詳しく解説されていて、絵画の中の人間模様をドラマチックに楽しむこともできます。

クラシカルなムードの中、アール・ヌーヴォーの世界に浸る

 4 階へと移動すると、部屋はまたガラリと雰囲気が変わります。照明を落としてあり、落ち着いた雰囲気の中でアール・ヌーヴォーのガラス工芸や家具が楽しめます。

 「アール・ヌーヴォーの時代は、産業革命の反動で、植物や生き物をモチーフとした作品が多く制作されました。 デザインも柔らかく、自然のありのままの美しさを反映しています」

 西川さんによると、ここでは、1 点、1 点 の作品を楽しむというより、リビングや寝室といった設定を作り、部屋全体として空間を楽しめる展示になっています。

 「当時の人たちの生活に思いを馳せな がら、しつらえの中でアール・ヌーヴォーの雰囲気を楽しんでもらえたらと思っています」 と西川さんは語ってくれました。

 遥か遠い時代に作られた美術品もその時代の暮らしを彩っていたもの。どんなふうに使われて、人々はどんな生活を過ごしていたのか。そんなことを考えながら見るのも楽しみの一つです。

エミール・ガレ (1846-1904) 「海馬文花器」1903 年頃
h.29.2cm w.10.2cm

 植物や昆虫など自然界の美しさをデザインしたアール・ヌーヴォーのガラス工芸を代表する作家、エミール・ガレ。

 展示室ではガレの作品を一堂に集め、その変遷を楽しむことが できます。ガレは晩年、死生観を表すような深いテーマを表現した作品も数多く残しています。

上級者は、私設美術館と公共の美術館のコレクションの違いを楽しむ

 主に初心者向けの楽しみ方をお伺いしてきましたが、上級者向けの楽しみ方にはどんなものがあるのでしょうか。

 「私設美術館と公共の美術館では、コレクションの経緯が違います。当館の蒐集品は、初代館長の山崎が海外出張の際に、空き時間に美術館やギャラリーを回って、気に入った作品を 1 点 1 点買い集めたものです。そのため、山崎の好みがすごく表れていて、蒐集家の人となりが見えてきます」

 ここが個人美術館の公共の美術館との違い、面白さというわけです。西川さんは続けます。

 「同じ作家の作品でも名古屋市美術館の所蔵品と当館の所蔵品とは趣きが異なります。あらためてコレクション形成のバックグラウンドの違いを感じます。名古屋市美術館の方とも話したのですが、当館の常設作品と名古屋市美術館の常設作品の両方を見ると、よりフランス美術の流れが分かるのではないでしょうか。そういう観点で美術館をはしごするのも面白いと思います」

 名古屋の都心には、公共の美術館と私設美術館が集中していて、1 日にいくつかの美術館を回ることも可能です。

 年齢制限を設けていないヤマザキマザック美術館では、赤ちゃんやお子さんと一緒でも気軽に美術を楽しむことができます。

 小さいうちから、本物の美術や異国の文化に触れることは、感性の泉を湧きたたせることにもつながります。遠出ができない今だからこそ、近場の美術館を楽しんでみてはいかがしょうか。

ヤマザキマザック美術館

住所:名古屋市東区葵 1-19-30
開館時間:平日 10 時~17 時 30 分、土日祝 10 時~17 時(最終入館は閉館 30 分前まで)
入館料:常設展 一般 1,000円 小中高 500円 小学生未満 無料
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は開館し、翌日休館、5 月 3 日、8 月 16 日は開館)、 展示替期間(4月18日から21日、8月29日から9月1日、10月24日から27日)、年末年始(12月29日から2023年1月4日まで)
駐車場:アートプラザ内東側の有料駐車場を利用
※30分200円
※駐車料金 30 分無料サービス有り(入館時に駐車券を美術館受付で提示する)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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