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仮設の映画館 新作ネット配信

 新型コロナウイルスの感染拡大で映画館が休館を余儀なくされるなど、存亡の危機にさらされる中、インターネットで新作を配信する「仮設の映画館」が始まった。新型コロナウイルスの脅威で停滞した「映画の経済」を回復させる試みだ。
 筆者も、新聞記者時代にインタビューしたことがある想田和弘監督が新作『精神0』の公開を控え、配給会社東風のスタッフと相談。新作映画を楽しみにしている観客、劇場、配給、製作者など皆にとってよいことができないかと考え、スタートさせた企画である。ポータルサイトは東風が運営。他の配給会社も加わって作品を提供する。

 現在は島田隆一監督『春を告げる町』を配信。2020年5月2日から、『精神0』など5作品の配信を始める。劇場公開と並行して立ち上げた「仮設の映画館」では、観客は、作品ごとに各地の公開劇場のうち、どの映画館で鑑賞したことにするのかを選択した上で、インターネット上で鑑賞する。鑑賞料金は実際の映画館の興行収入と同様、それぞれの劇場と配給会社、製作者に分配される。料金は、劇場の当日料金に準じる。

 作品ごとに配信期間や鑑賞期限、方法は異なる。詳細は「仮設の映画館」の各作品のページを参照すると分かる。
 集まった鑑賞料金は、分配プラットフォームの使用料等を差し引いた後、一般的な興行収入と同様、各劇場と配給とで5:5に分配。さらに配給会社と製作者とで分配する。上映を予定していた劇場が事情によって休映、休館した場合も「仮設の映画館」では続映し、収益の分配の対象となる。

賛同・参加劇場

【関東】〔東京〕シアター・イメージフォーラム、ユーロスペース 、ポレポレ東中野、岩波ホール、ケイズシネマ、ユジク阿佐ヶ谷〔神奈川〕横浜 シネマ・ジャック&ベティ、横浜シネマリン、あつぎのえいがかんkiki、〔埼玉〕川越スカラ座、〔群馬〕シネマテークたかさき 【北海道・東北】〔北海道〕シアターキノ、〔青森〕フォーラム八戸、〔岩手〕フォーラム盛岡、〔山形〕フォーラム山形、〔宮城〕フォーラム仙台、〔福島〕フォーラム福島、まちポレいわき 【中部】〔新潟〕シネ・ウインド、高田世界館、〔石川〕シネモンド、〔富山〕ほとり座、〔静岡〕浜松 シネマイーラ、〔長野〕長野ロキシー、松本CINEMAセレクト、上田映劇、〔愛知〕名古屋シネマテーク、名演小劇場 【近畿】〔大阪〕第七藝術劇場、シネ・ヌーヴォ〔京都〕京都シネマ、出町座〔兵庫〕元町映画館、豊岡劇場 【中国・四国】〔岡山〕シネマ・クレール、〔広島〕横川シネマ、シネマ尾道、福山駅前シネマモード〔愛媛〕シネマルナティック 【九州・沖縄】〔福岡〕KBCシネマ1・2、〔佐賀〕シアター・シエマ〔大分〕シネマ5、〔熊本〕Denkikan、〔宮崎〕宮崎キネマ館、〔鹿児島〕ガーデンズシネマ、〔沖縄〕桜坂劇場、シアタードーナツ ほか
(2020.4.22現在/作品により上映劇場が異なります)

『精神0』想田和弘監督のメッセージ

映画がコロナ禍を生き延びるために『精神0』を“仮設の映画館”で公開します。座して死を待つよりは

                  想田和弘

 新型コロナウイルス禍が深刻化するなか、映画を劇場で観て下さる方の数が激減し、全国の映画館が存続の危機に立たされています。
 特に拙作が上映されるような、単館系ミニシアターの窮状には、のっぴきならないものがあります。「封切ったばかりの新作なのにお客さんが1日で0だった」「このままでは劇場の家賃や人件費も払えないので廃業するしかない」といった悲鳴が聞こえてきます。
 だからといって、「皆さん、ぜひ映画館へ足を運んで応援を!」と積極的にお勧めできないのが、今回の危機の辛いところです。もちろん、厳しい換気基準をクリアした映画館で映画を鑑賞する行為は、消毒の徹底やマスクの着用、人数制限などを徹底すれば比較的感染リスクは低いと言われています。それでも、映画館とご自宅の移動中のリスクなども考え合わせると、推奨しにくいのが現実です。
 5月2日から僕の新作『精神0』も全国順次公開予定なのですが、正直、家族や友達にさえ「映画館に来てね!」とは言いづらい自分がいます。それが本当に辛い。特に高齢の親には言い淀んでしまいます。
 したがって映画の製作者としての立場だけを考えるなら、公開を1年くらい、思い切って延期してもらいたいというのが本音です。ウイルスを移し移されることを気にかけることなく、安心して映画を鑑賞いただくには、それが最良ではないか。『精神0』の配給をしてくれる東風の皆さんにそう提案し、連日頭を突き合わせて議論してきました。
 しかし公開を延期する方法には、大きな問題があります。
 もしすべての映画製作者が作品の延期を決めてしまったら、映画館は当面、いったいどうなってしまうのか。急場をしのぐために旧作を慌ててかき集めて上映を細々と続けるか、休館するしかなくなるでしょう。コロナ禍が長引けば、ほとんどのミニシアターは廃業せざるをえなくなるのではないか。つまり1年後に『精神0』の公開を延期したとしても、そのときには上映できる映画館が全滅した「焼け野原」になっている可能性すらあるのです。
 もちろん、日本政府や自治体が休館中の映画館の家賃や人件費の補償をしてくれるなら別です。しかし残念ながら、行政が本来取るべきそのような動きは、今のところ見受けられません。相変わらずの無策には本当に腹立たしい限りですが、正直、行政に対して文句を言っている暇やエネルギーすらない緊急事態です。私たち映画人や映画愛好者は知恵を振り絞り、なりふり構わず助け合って、なんとかみ・ん・なで生き残るすべを模索するしかありません。
 そこで浮上したのが、5月2日から『精神0』を“仮設の映画館”で上映するというアイデアです。つまりデジタル配信です。
 といっても、これは劇場公開の後に行われる通常の配信とは仕組みが異なります。
 観客の皆さんには、最寄りの映画館の特設ページに行っていただきます(東京圏の方は渋谷シアター・イメージフォーラムのページへ、岡山の方は岡山シネマクレールのページへ)。
 そして映画館で映画を観ていただく代わりに、オンラインでご鑑賞いただきます。料金は劇場で観ていただく一般的な当日料金の1800円です。お支払いいただいた1800円は、通常の劇場公開の場合と同様の割合で、映画館と配給会社、製作者に分配されます。3人のご家族でご覧いただく場合には、3回ご購入していただければ本当に助かります。
 もしこれがうまく機能すれば、映画館だけでなく、配給会社や製作者にも、通常の劇場公開を行った場合と同程度の収入が見込めます。そして『精神0』以外の作品でも同様のことが行えれば、たとえリアルな映画館が一時休館せざるをえなくなっても、収入の道が確保できます。したがってコロナ禍が過ぎた後、劇場・配給・製作の三者が生き残っている可能性が高まります。
 もちろん、このような方策に舵を切ることに、映画作家としてためらいもありました。それは配給会社や映画館も同じ気持ちです。僕らは常に映画館で観てもらうためにこそ、映画を作ったり届けたりしてきましたから。本来ならば、満員の映画館でワイワイガヤガヤ、『精神0』を観ていただきたいのです。
 しかし現在は非常時です。人が集まることや、公共交通機関で移動すること自体が感染拡大リスクを高めると言われている今、そして観客の皆さんが実際に劇場に来にくくなっている今、緊急避難としての代替方法も考えなければなりません。ここはインターネットを最大限に活用し、しのぐしかないのだと覚悟しています。少なくとも座して死を待つつもりはありません。『精神0』に関するインタビューや対談も、すべて対面ではなくビデオ通話に切り替えました。
 観客の皆さんのなかには、インターネットに接続されていない方もおられることでしょう。あるいは、オンライン配信の手続きを自力で行えない高齢者の方もおられることでしょう(うちの親などには無理なような気がします)。そんななか、地域や映画館によっては、感染拡大状況を確認しながら、「仮設の映画館」と並行して劇場を営業する映画館もあるでしょう。それは各劇場の状況判断におまかせする所存です。
 いずれにせよ、これは劇場、配給、製作、そして観客という「映画のエコシステム」を守るための苦肉の策です。ぜひとも趣旨をご理解いただき、積極的にご参加・拡散いただけると幸いです。
 『精神0』は、ベルリン国際映画祭でエキュメニカル審査員賞を受賞しました。審査員からは「人間が持つ力と愛する者へのケアの価値を描いた感動的な映画」と評していただきました。この時期だからこそ観ていただきたい作品です。
 コロナ禍が収束したあかつきには、本物の劇場で『精神0』を改めて公開することを目指しています。そのときはぜひ、“仮設の映画館”でご覧いただいた皆さんも、お近くの劇場に足をお運びいただきたい。そしてオンラインで観るのとは全く別の経験をして、改めて「映画館っていいもんだなあ」と、実感していただきたい。感染リスクを気にすることなく、トークイベントなども思い切りふんだんに実施したいと考えています。やはり人間には「集う」ことが必要なのだと、集うことが自由にできなくなった今、切実に感じています。
 コロナ禍が終わり、皆さんと実際に安心してお会いできる日が来ることを、楽しみにしております。みんなで一緒に乗り切っていきましょう!

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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