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鈴木康泰展 ウエストベスギャラリーコヅカ

ウエストベスギャラリーコヅカ(名古屋) 2020年7月7〜18日

 鈴木さんは1973年、愛知県生まれ。いわゆる芸大、美大は卒業せず、30年近く、自分が描きたい、絵が好きだという思いで描いてきた。もちろん、美術を鑑賞し、自分で勉強もしたらしい。それでも、画面に小賢しいもの、合目的なものはなく、あるのは、いじらしいほどの「素朴さ」である。

 何よりもモチーフが独自で、異色の作風である。空想上の存在である龍や鳳凰、あるいはミツバチ、チョウなどを、柔らかくカラフルな色彩で描く。奇抜でかわいいイメージ。ありのままのストレートな表現は、専門家の目にはとまらないかもしれない。絵画とイラスト、漫画、デザイン等の境界について、少し考えさせるところもある。筆者は、鈴木さんの経歴も聞き、人生をかけている実直さ、自分の思うままに描いていることに共感した。

 今回は、従来から取り組む油彩画と、最近始めたという鉛筆画が展示された。

 鈴木さんは、若い頃は絵を描くことを巡って葛藤があったようだ。
 東京の大学に通う中、将来の方向で悩み、20歳ごろ、子供の頃から好きだった絵に本格的に取り組み、油絵に打ち込んだ。ある老画家の元で1年ちょっと指導を受けた。自分の将来や生き方を探る米ニューヨークへの旅で、ユースホステルで似顔絵を描くと5ドルもらえた経験が、絵で生きていけるのではないかという淡い期待を抱かせた。22、23歳の頃、パリに遊学。デッサン・アトリエにも入った。帰国後、絵は趣味にとどめようと就職するものの、描く時間がないことに耐えきれず、現在までアルバイトをしながら描いてきた。

鈴木康泰

 パノラミックなメインの作品「雲の上のロマンス」には、半身を雲海に沈めた龍と鳳凰が絡み合うように抱き合っている。穏やかな緑、優しく放射されるような白など、自然や光を意識させる画面は柔らかい。雲海は、おびただしい小さな渦巻きで埋め尽くされている。

 龍と鳳凰という唯一無二の空想上の存在が、口づけをして目を閉じ、親密な様子をうかがわせる。よく見ると、画面中央から広がる鳳凰の羽のような白い連なりの一つ一つはハート形になっている。連鎖する渦巻き、絡まり回転するような龍と鳳凰の体、輻射されるような白い連なりなど、全体的に装飾的でありながら、静かに回るような動感がある。

 もう1つの油絵「あぁ幸福なるハーレム、雲上にて」も同様の画題で、鳳凰に寄り添われた龍が満足そうな表情を浮かべている。やはり埋め尽くす渦巻き雲とともに龍や鳳凰の体が細密に描かれ、鳳凰の羽の一部はハート形である。

鈴木康泰
鈴木康泰
鈴木康泰
鈴木康泰

龍や鳳凰というモチーフには、日本美術の影響があるという。 細い線で描かれた渦巻き状の雲、龍のうろこ、鳳凰の羽毛などは、とても触覚的に繊細に描かれている。1つの作品に膨大な時間がかけられていることが想像される。

 龍も鳳凰もともに、伝説上の霊獣で、 東アジア各地でさまざまな美術品のモチーフになってきた。細部は、連続する渦巻き文様、うろこ、羽毛で埋められ、優しく穏やかでありながら、生命力と温かさがあふれている。そうしたつながりと動きによって、画面全体が、うごめく生命の流れ、循環のようにつながっている。とても穏やかで、優しい。

 龍も鳳凰も、瑞祥、吉祥 のシンボル、超自然的な力として親しまれ、さまざまな造形美術のモチーフ、装飾として伝わってきた。 それを自分なりの感性で描いているのかもしれない。

 他にミツバチ、チョウなど昆虫を描いた小品も、優しい色彩で生命力を感じさせる。

鈴木康泰
鈴木康泰
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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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