masayoshi suzuki gallery(愛知県岡崎市) 2025年10月4〜26日
関智生
関智生さんは1965年、奈良県生まれ。名古屋芸術大学卒業。英国ノッティンガム・トレント大学Fine Art(愛知県新進芸術家海外留学等補助事業研修員)で修士取得。セントラル・セント・マーティンス・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインでAssociated Student修了。
帰国時は、絵の具がキャンバスに穿ったいくつもの穴を通して、裏面から表面に押し出された絵画作品を発表していた。その後、現在の作品に通じる《Real/Red》のシリーズへと向かう。masayoshi suzuki galleryでの2020年個展レビュー参照。

Real/Red 実存南画から眼振へ 一人称から三人称へ
Real/Red
関さんは1998-2003年の5年に及ぶ英国留学を終え、2004年ごろに帰国。日本の森林の繁茂する緑の生命力に魅了され、2009年ごろから本格的に、樹木や草むらを、緑の補色である赤色の単色で描くようになった(その後、東洋陶磁器を想起させる青色の単色絵画も描く)。
これらは、木々の葉、枝、草などを線、ドットとして「記号化」して描いていた。関さんは「触覚的な筆跡」としているが、私は、記号性と筆触性は、本質的には相反する要素もあると考えている。
これらは当初、現場で撮影した写真をプロジェクターで支持体(キャンバス)に投影し、トレースしながら、「光の風景」として再現する方法を採用した。だから形式的、デザイン的な要素もある。

この時期の作品はシステマティックで平板な印象も与える。それゆえ、関さんが言うところの、のちの「三人称絵画」に近いものである。
実存南画
関さんは、自分の眼の前にある対象を屋外で自然主義的かつ実存主義的に描く自身のスタイルを「実存」と呼んでいる。2017年ごろ、室内でプロジェクターを使ってトレースする描き方を離れ、印象派のように現場で描くスタイルに移行。《実存南画》と命名した。
自分の内的時間と風景の時間を一致させ、現地で描くことを重視することで自然主義的な描写、南画的な筆跡、点描の復活を図った。自分が、そのとき、そこで感じた風景を描くことから、「一人称絵画」と呼んでいる。

画面は単色の単色の線や点、滲みで構成され、抽象的にも見えるが、まさに筆触の集積が現場ならではのリアルな生々しさをたたえ、先の《Real/Red》と比べ、生命体や血液のようにさえ見える、森林のまがまがしい雰囲気が現れている。
それゆえ、この作品シリーズが評価を得ているのもわかる。
眼振
2021年ごろから新たに描くようになったのが、《眼振》シリーズである。この作品では、先の《Real/Red》と同様、再び、制作を室内に移し、プロジェクターで投影した風景をなぞるように描いた。
従来の《Real/Red》と異なるのは、タイトルにあるように眼が振動するように、水平方向に画面がスライドするズレ、揺らぎの感覚で描かれていることである。
実際には、プロジェクターを使い、「光の粒子」を記号化してトレースした後に、ブラシで画面の絵具をずらして(スキージーして)、画面をブレの状態にしている。

この作品シリーズに至ったのは、関さんが生まれ故郷の奈良県に帰ったことも大きい。奈良の歴史風土の多層的な時間を1枚の絵画に封印するため、この方法が採られたのである。
つまり、積層する時間の、さまざまな人たちの眼差しの重なりを、横ずれの絵画イメージに重ね合わせたのである。時代を超えたさまざまな視線が揺らぎのように重ね合わされたこのシリーズを関さんは「三人称絵画」と呼んでいる。
過去と現在が積層した風景への新たな実験的展開である。


