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「せかいのおきく」黒木華、寛一郎、池松壮亮 4月28日公開 ミッドランドスクエアシネマ(名古屋)ほか

おきく、22歳。声を失ったけれど、恋をした。彼に伝えたい言葉がある。
だから今日、どこまでも歩いて会いに行く。

人と人のぬくもり いのちのつながり

 阪本順治監督が黒木華を主演に美しいモノクロ映像で描く青春時代劇「せかいのおきく」が2023年4月28日、全国公開される。

 社会の底辺で、けなげに生きる若者。人情の温かさ、青春の光、生のきらめき、そして、日常の、自然の美しさが余韻と共に心に響く。

 世界のすべてが循環している、つながっている、と。現代にこそ求められている人と人とのぬくもり、いのちの躍動への気づきを与えてくれる作品でもある。

 日本が世界の大きな渦に飲み込まれていった幕末。武家育ちでありながら、貧乏長屋で質素な生活を送るおきくと、古紙や糞尿を売り買いする最下層の仕事に就く中次と矢亮。

 辛い人生を懸命に生きる三人は、心を通わせながら、青春を駆け抜け、果てしなく広がる 《せかい》の輝きに触れる。

 日本映画界を長年牽引してきた阪本順治。初のオリジナル脚本による監督30作目を貫くのは、社会の底辺を生き抜く庶民に目を向けた独自の世界観である。

 主人公のおきくには、『小さいおうち』(2014)でベルリン映画祭銀熊賞 女優賞を受賞し、『小さいおうち』、『母と暮らせば』(2015)、『浅田家!』 (2020)で日本アカデミー賞助演女優賞に三度輝くなど、卓越した演技力で高い評価を得てきた黒木華。

 声を失い、中盤以降は台詞がないおきくの心の揺れを、手話がない時代の身振り、手振りを通じ、繊細に表現する。

 下肥買いの相方となる中次と矢亮には、祖父に三國連太郎、父に佐藤浩市を持ち、『菊とギロチン』(2018)でのデビュー後もみずみずしい魅力を放ってきた寛一郎と、『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017)、『宮本から君へ』(2019)などの主演作で圧倒的な存在感を残してきた池松壮亮。

 物語の背景には、糞尿を肥料として農業に用いるなど、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の最先端にあった江戸時代の日本の風景が重ねられている。

 自然の恵みをいただいて、体から出た糞尿を肥料として畑に返す。天地の間で生かされているすべての生き物の循環の営みの1つである。

 日本を代表する美術監督であり、本作で企画・プロデュースを務めた原田満生は言う。

 「この映画で観る人の環境意識が変わるとは思わないが、こんな時代があったことを多くの人たちに、特に若い世代の人たちに知ってもらいたい」

ストーリー

 江戸時代末期・江戸。ある寺のかわやの裏で、矢亮(池松壮亮)は、たまった糞尿を柄杓ですくい、肥桶に注いでいる。江戸で糞尿を買い、肥料として農村に持ちかえる下肥買いの矢亮は、相方が病に臥せっており、今日はひとりだ。

 その厠のひさしの下に、突然の雨を避けようと、大きな籠を抱えた男が駆け込んでくる。不要になった古紙を買い、問屋に売って暮らすその男は、紙屑買いの中次(寛一郎)。

 そしてその窮屈なひさしの下に、もうひとり走って入ってきたのが、寺子屋で子供たちに読み書きを教えているおきく(黒木華)だ。

 「ここをどいてくださいまし!」とおきくに追い立てられ、慌ててひさしの下から出ていく中次と矢亮。3人の若者たちはこうして雨の日の厠の前で出会った。

 中次は矢亮に誘われ、下肥買いの相方になり、ふたりで糞尿を買い歩いては、それを舟で矢亮の地元である葛西へ運ぶ。

 最下層の仕事に就く彼らは、ときに蔑みの目で見られるが、それでも明るさを忘れない。一方、武家育ちのおきくが暮らす長屋も、孫七(石橋蓮司)ら住人はみな貧しいが、その暮らしは人情味にあふれている。

 長屋を担当することになった中次は、ある日、おきくの父・源兵衛(佐藤浩市)と厠で鉢合わせになる。「なあ、 せかいって言葉、知ってるか。惚れた女ができたら言ってやんな、俺は せかいでいちばんお前が好きだって。これ以上の言い回しはねえんだよ」

 そう言い残すと、源兵衛は侍たちと共に路地の向こうへ消えていく。そのあとを追い、長屋を駆け出ていくおきく。

 中次はふたりの背中を眺めるしかない。やがて侍に斬りつけられたおきくは、父と、自分の声を失ってしまう 。

キャスト

黒木華《おきく》
 1990年、大阪府出身。『小さいおうち』(2014)でベルリン国際映画祭銀熊賞、『浅田家!』(2020)で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞。「ブラッシュアップライフ」(NTV)に出演中の他、2月には舞台「ケンジトシ」に出演予定。
 【主な出演作】『リップヴァンウィンクルの花嫁』(2016)、『日日是好日』(2018)、『ビブリア古書堂の事件手帖』(2018)、『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(2021)、『余命10年』(2022)、『イチケイのカラス』(2023)

寛一郎《中次》
 1996年、東京都出身。2017年、『心が叫びたがってるんだ。』で映画初主演。『菊とギロチン』(2018)ではキネマ旬報ベスト・テン新人男優賞などを受賞。2022年には、出演作『ホテルアイリス』『月の満ち欠け』が公開されたほか、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に出演。
 【主な出演作】『チワワちゃん』(2019)、『一度も撃ってません』(2020)、『劇場』(2020)、『泣く子はいねぇが』(2020)、『AWAKE』(2020)

池松壮亮《矢亮》
 1990年、福岡県出身。2003年、『ラスト サムライ』で映画デビュー。以降、映画を中心に多くの作品に出演し、多数の映画賞を受賞。近年は海外作品にも出演し、幅広く活躍している。
 【主な出演作】『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017)、『斬、』(2018)、『宮本から君へ』(2019)、『アジアの天使』(2021)、『ちょっと思い出しただけ』(2022)

佐藤浩市《源兵衛》
 1960年、東京都出身。1980年に俳優デビュー後、多数の映画、 TVドラマに出演し、『忠臣蔵外伝四谷怪談』(1994)、『64 -ロクヨンー前編』(2016)で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。
 【主な出演作】『Fukushima50』(2020)、『一度も撃ってません』(2020)、『サイレント・トーキョー』(2020)、『騙し絵の牙』(2021)、『キングダム2 遥かなる大地へ』(2022)、『ファミリア』(2023)

眞木蔵人《孝順》
 1972年、東京都出身。1988年、『ソウル・ミュージック ラバーズ・オンリー』で映画初主演後、阪本順治監督作や、『あの夏、いちばん静かな海』(1991)、『BROTHER』(2000)など北野武監督作など多数映画に出演。俳優としての活動の他、サーファー、音楽活動、映像制作でも多彩な才能を発揮している。
 【主な出演作】『愚か者 傷だらけの天使』(1998)、『ぼくんち』(2002)、『この世の外へ クラブ進駐軍』(2003)、『亡国のイージス』(2005)、『冬薔薇(ふゆそうび)』(2022)

石橋蓮司《孫七》
 1941年、東京都出身。1950年代から現在まで、映画・演劇・テレビなど幅広い分野で膨大な作品に出演してきた、日本を代表する俳優の1人。 2020年には19年ぶりに『一度も撃ってません』に主演し、話題を集めた。
 【主な出演作】『竜馬暗殺(1974)』、『四十七人の刺客』(1994)、『アウトレイジ』(2010)、『四十九日のレシピ』(2013)、『孤狼の血』(2018)

脚本・監督: 阪本順治

 1958年、大阪府出身。大学在学中より石井聰亙(現:岳龍)監督の現場にスタッフとして参加。1989年、赤井英和主演『どついたるねん』で監督デビューし、ブルーリボン賞作品賞など数々の映画賞を受賞。藤山直美主演『顔』(2000)では、日本アカデミー賞最優秀監督賞、キネマ旬報日本映画ベスト・テン1位など主要映画賞を総なめにした。

【その他の監督作】『KT』(2002)、『亡国のイージス』(2005)、『魂萌え!』(2007)、『闇の子供たち』(2008)、『座頭市 THE LAST』(2010)、『大鹿村 騒動記』(2011)、『北のカナリアたち』(2012)、『人類資金』(2013)、『団地』(2016)、『エルネスト』(2017)、『半世界』(2019)、『一度も撃ってません』(2020)、『弟とアンドロイドと僕』(2022)、『冬薔薇 (ふゆそうび)』(2022)

『せかいのおきく』(スタンダード/日本/2023年/90分)
黒木華 寛一郎 池松壮亮 眞木蔵人 佐藤浩市 石橋蓮司
脚本・監督:阪本順治
製作:近藤純代
企画・プロデューサー:原田満生 音楽:安川午朗 音楽プロデューサー:津島玄一
撮影:笠松則通
照明:杉本崇 録音:志満順一 美術:原田満生 美術プロデューサー:堀明元紀
装飾:極並浩史
小道具:井上充 編集:早野亮 VFX :西尾健太郎 衣装:大塚満
床山・メイク:山下みどり
結髪:松浦真理 マリン統括ディレクター:中村勝 助監督:小野寺昭洋
ラインプロデューサー:松田憲一良
バイオエコノミー監修:藤島義之 五十嵐圭日子
製作:
FANTASIA Inc. YOIHI PROJECT 制作プロダクション: ACCA
配給:東京テアトル/
U NEXT /リトルモア © 2023 FANTASIA

YOIHI PROJECT

 美術監督・原田満生が発起人となり、気鋭の日本映画製作チームと世界の自然科学研究者が連携して、様々な『良い日』に生きる人々の物語を「映画」で伝えるプロジェクト。

 本作は、劇場映画第1弾。人々があらゆる物を大切に使い、人間の排泄物さえも肥料とし、限られた資源を使い尽くし循環型社会を確立していた江戸時代を舞台に、 150年以上前のライフスタイルが教えてくれる未来のためのメッセージを、若者の青春を描いたエンタテインメントとして昇華させている。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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