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佐々木類 Residues from the Surrounding

Lights Gallery(名古屋) 2019年9月26日〜10月14日

佐々木類は1984年高知県生まれ。現在は、金沢市を拠点に国内外で展覧会を開き、ガラスを素材にしたインスタレーションを発表している。Lights Galleryでは、8月にも個展を開いた。
ギャラリー1階の空間に入って驚くのは、真っ暗であること。次第に目が暗闇に慣れてくると、緑がかった淡い光がしずくのようなかたちになって上から下がっているのが分かる。その数は20個から30個ほどだろうか。暗闇で雨のように落ちてくるほのかな光の雫はなんとも美しい光景である。光っているのは、蓄光ガラスで、紫外線を吸収して暗闇で発光する。佐々木さんは、太陽が降り注ぐ高知や首都圏で若い時期を過ごしてから渡米。帰国後、北陸に移って7年ほど暮らす中で、山のように変わりやすい天候を体験する。北陸の人たちにとって、黒い雲が立ち込め、体や精神がひどく影響を受ける冬場は、陽光が恋しい。佐々木さんも、そうした経験から、微妙な空合いの変化、太陽光のうつろいに関心を向け、光の繊細な変化を受けとめる蓄光ガラスを素材に取り入れた。
蓄光ガラスで私たちが見る光は、ガラスが過去に蓄えた太陽光なので、残り香のように時間差がある。当然だが、太陽光が強いと多くの光を蓄え、曇りや雨だと光は弱くなる。佐々木さんによると、蓄光ガラス自体は工芸素材として珍しくないが、佐々木さんは、光にとりわけ敏感な工業用の蓄光ガラスを使っている。天候のわずかな変化の影響を受け、光は繊細で発光している時間が長い。素材としてはセラミックに近く、北欧では、道路のアスファルトに混ぜ、夜に道路が光るようにして街灯を減らすなど環境面でも役立てられている。
もっとも、佐々木さんが関心を向けるのは、発光より、むしろ蓄光。つまり、過去のかすかな光が蓄えられること、変わりゆく空合いを記録することである。雫のような形態は吹きガラスで作り、蓄光ガラスを混ぜ込んで制作している。ギャラリーでは、客のいないときに扉を開けて蓄光し、人が訪れた時に扉を閉めて発光させる。

佐々木類

 この蓄光ガラスの粒を含んだ紙のように薄いガラスを大量に床に敷き詰めたのが2階のインスタレーションである。近くで見ると分かるのだが、ガラスは極薄で、蓄光ガラスの白い斑点が含まれている。ちょっとした風や、振動でも動きそうなほどぺらぺらのガラスである。窓からは、柔らかな光が、この層になって堆積したガラスの上を這うように差し込み、繊細な風景を作っている。かすかな光や風の変化でもガラスの層の透過と反射によって色相、陰影が揺らぎ、表情を変えていく。パチッ、パチッ。耳を澄ますと、静寂の中に、そんな音が聞こえる。佐々木さんによると、温度変化によるガラスと蓄光ガラスの膨張・収縮率の違いで、ガラスに負荷がかかって割れる音である。

佐々木類

 佐々木さんは、人間と環境をテーマに、アートを体験として捉え、インスタレーションを表現の核に据えている。耳を澄まし、目を凝らし、身体のセンサーの感度を最高にして、このインスタレーションの中にいると、光や風、物質の変化と揺らぎに感覚が研ぎ澄まされてくる。それは、空の色や雲の形と流れ、風の感触、空気の質感、光のうつろいを感じる静寂の時間とよく似ている。

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