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大野未来 ぞくぞくと gallery N(名古屋)で3月25日-4月9日

gallery N(名古屋) 2023年3月25日〜4月9日

大野未来

 大野さんは1998年、愛知県生まれ。2021年、名古屋芸術大学美術学部洋画コース卒業。愛知県を拠点に制作している若手である。

 2022年夏、国際芸術祭「あいち2022」芸術大学連携プロジェクト「アートラボあいちと四芸大による連続個展」に参加した1人である。

 壁のシミや物の影などによって連想されるイメージから展開した異形ともいえる顔や、キマイラのような合成獣をモチーフにしている。

ぞくぞくと 2023年 ギャラリーN

大野未来

 作品は平面と立体で、モチーフは共通している。人物なのか動物なのか怪物あるいは妖怪なのか判然としないが、いずれも歪み、異質なものが合成されていて奇怪である。

 平面作品は、キャンバス地や紙にアクリル絵具で素早いストロークで描いている。筆触はランダムで勢いがよく、色彩も計算されたふうではないが、センスの良さを感じさせる。荒々しい線、カラフルな色彩が奇怪な雰囲気を強めている。

 乾きの早いアクリル絵具で描き、時間をかけない。だいたい20分から40分ほどで描くようである。ペインティングではなく、ドローイングである。そんなふうに、大野さんは膨大な数を制作している。

大野未来

 今回も、小さな作品は、おびただしい数を展示している。ギャラリーの裏手にある畳の空間では、天井を含め、作品で埋め尽くすように展示している。

 他方、立体は、石塑粘土を使った小さいサイズのものである。即興的で、筆勢が際立つ平面に対して、立体は、手で形をつくりながら整えている。

 立体はどちらかと言えばユーモラスな雰囲気で、激しさが目立つドローイングとは少し趣きが異なっている。 

 作家によると、いずれも、壁のシミや影など、実体のない不定形から想起されたイメージから自由に連鎖的につくられ、それに日々の内面の感情をのせるようにして展開させている。

 その意味では、シュルレアリスム的な要素があるとともに表現主義的でもある。しかも、大作というよりは、小さな作品を大量に生みだすスタイルである。以前、新聞紙に描いていたというのも、そのためだろう。

 個々の作品のイメージも面白いが、それらが全体として、作家の方向性を表しているように思える。

大野未来

 特にドローイングにおいては、とても生々しいどろっとした感じが作品から出ている。作家の今という時間が積み重なるようにそのまま定着されているようである。

 当然だが、これらのイメージは、外界にあるものを再現的に描いたものではない。壁のシミや影は、色のない不定形であって、イメージを生みだすきっかけにはなっていても、顔や人、獣、妖怪や合成獣のような存在は、大野さんが選び取ったものである。

 制作過程をみると、それは自分の内側を映したスクリーン、もっと言えば、生成変化する分身のような存在かもしれない。 

大野未来

 ささやかな日常の小さなシミ、影からやってきたアンフォルム。そこに色彩、筆触を重ねて合成し、日々のさまざまな出来事、うつろいゆく感情、記憶、連想や妄想などをも融合することで、異形の存在としての《私》になってくる。

 平面は視覚的に、立体はそれに触覚性が加わって作られている。例えば、立体には、子供の頃の玩具の感触も投影されているようである。

 ユニークなのは、大野さんが、作ったものから見られている気がすると語ったことだ。

 つまり、この日々の制作は、変化する自分の心象と向き合いながら、自分を探す旅のようなものではないか。自分の中をまさぐるように合成された、作家にとっても未知の《生き物=私》が、作家自身を投影するスクリーンのように現れている。そして、そうした《私》と対話をすることが制作になっている。

大野未来

 これらの顔、生き物は不気味な存在であるという意味でも、シュルレアリスム的である。大野さんの深奥に隠されているものが現れたと言えるのではないか。

 今は、繰り返し描き、手の感触の中から形をつくっていくことで、自分自身の不可視の領域にアプローチしている。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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