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庭劇団ペニノ「蛸入道 忘却ノ儀」公演中止 三重県文化会館

撮影:井上嘉和 提供:KYOTO EXPERIMENT事務局

2020年3月7、8日に津市の三重県文化会館で予定されていた庭劇団ペニノの公演「蛸入道 忘却ノ儀」は、新型コロナウイルスの影響で中止となった。

 ペニノ主宰のタニノクロウさんは、2016 年に「地獄谷温泉 無明ノ宿」で第60回岸田國士戯曲賞を受賞。元精神科医という異色の経歴をもち、その舞台は、人間の内面の深奥を掘り起こすような内容と、過剰なまでに作り込んだ舞台美術、磨き上げられた俳優の演技によって高い評価を得ている。「蛸入道 忘却ノ儀」は、2018年に初演。「KYOTO EXPERIMENT2019」で再演された。

ホールの中に、巨大な寺が建つ。紛れもない寺である。 そこにいるのは、八名の僧。念仏を唱え、奇妙な唄を唄い、不可思議な音楽を奏でる。 熱、光、煙、匂い、音、声、振動。 彼らはそこに集うすべての人を巻き込んで、うねるような極限状態を生み出していく。 意識も、記憶も、煩悩も、すべては焼却と忘却の彼方へ。 庭劇団ペニノが贈る、前代未聞の<一体・没入型>音楽劇。 途方もない規模の舞台空間のなかで、観客はいま、「神秘」の立会人となる。

リリースには、こう書かれていた。

庭劇団ペニノ
撮影:井上嘉和 
提供:KYOTO EXPERIMENT事務局

「鞘堂」という寺院風のお堂の空間を舞台に構築。観客は、「蛸」を祀った場で奇妙な体験に遭遇する。反復される経典、かき鳴らされる楽器、お堂の中に充溢する香りと、ねばりつくような熱気。身体と感覚の全てで宗教的な空間、自意識を超えようとする修行の儀式的パフォーマンスの世界に没入し、時間感覚や方向感覚を見失っていく。観客自身が儀式に参加することで、トランス状態へと誘われる。現代の管理、馴致された社会、制度で喪失してしまった感覚、おぞましい世界、善意と悪意が切り結ぶ場に浸るのである。

タニノクロウ

 タニノさんは富山県出身。2000年に昭和大演劇部メンバー有志でペニノを設立した。自宅マンションを改造したスペースでのラジカルな舞台が評価され、「フェスティバル/トーキョー」や「ふじのくに⇄せかい演劇祭」、「KYOTO EXPERIMENT」など国内外の芸術祭に招かれた。筆者は、「地獄谷温泉 無明ノ宿」「ダークマスター」「タニノとドワーフ達によるカントールに捧げるオマージュ」「MOON」『笑顔の砦』など、一部の舞台しか見ていないが、毎回、実験的な舞台と作品世界に驚かされている。

「忘却ノ儀」は、自意識を忘れる、こだわりを乗り越える儀式という意味のようだ。その点で、今回の作品は、「地獄谷温泉 無明ノ宿」で扱った仏教の無明のテーマともかかわる。人間の自意識、自我の問題、人間がもつ想像する力‥‥。参加型、体験型、五感を刺激する舞台をこれまでも展開してきたが、今回も熱気と純度の高みを目指した舞台が体感できそうである。
詳細は、三重県文化会館のWEBサイト

庭劇団ペニノ
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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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