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小澤香織展 EMERGENCE なうふ現代(岐阜)で2024年5月18日-6月9日に開催

なうふ現代(岐阜市) 2024年5月18日〜6月9日

小澤香織展

 小澤香織さんは1981年、静岡県浜松市生まれ。2004年、名古屋芸術大学卒業。最近では、2023年と2019年にL gallery2020年に岐阜市のなうふ現代で個展を開いた。

 知多半島の愛知県常滑市で制作。現在の拠点は、海が近く、歩けば15分ほどで砂浜である。もともと、身近な生活環境、自分に起きた出来事、関係性から制作する作家であり、今は海からインスピレーションを受けることもある。

 人間の力で素材をコントロールするというよりは、環境から受け取ったもの、偶然の出合いによる素材の来歴との共同性からイマジネーションを広げる。いわば他力性による創造である。

 身近な拾得物、ある関係によって導かれるように、思いがけず入手した素材が、宇宙や世界を感じさせる作品に変容する。

 人から譲り受けたもの、不要な物、経済性を失った物、拾った物、廃棄物、自然物が素材になることが多い。前回は、海の漂流物や、プラスチックのリサイクル工場で入手したものも素材に選ばれた。

 それらを構成し、作品が生まれる。今回もそうした姿勢は一貫している。無理に形を作らない。出合いと偶然性によって、作品が生まれ出てくる。

EMERGENCE

 前回のL galleryの個展でも、海岸のロープや網、プラスチックごみなどを固めた作品があったが、今回も、青いリングが蝟集したような作品が展示されている。海苔養殖の支柱に付けて、フジツボの付着を防止するためのリングである。

 混沌の中から、形らしきものが生まれ出たような姿である。今回の作品の全てに言えることだが、小澤さんの元にやってきた素材が集まり、変化し、徴を帯びたかのような形である。

 個展のタイトルであるEMERGENCEは、出現や羽化を意味する。面白いのは、実際に小澤さんがキチョウの青虫を育て、蛹から羽化させ、そのイメージを制作に生かしていることだ。

 小澤さんによると、青虫は、蛹になることで、その中がいったん、ドロドロのクリーム状態になって、そこから羽化して成虫が誕生する。つまり、形なきものから形が生まれる。

 羽化までの過程は、細胞分裂を繰り返しながら増殖するイメージであり、それが今回の個展のテーマでもある。成虫になるまでの過程で、カオスから器官や血管、体の一部が生まれてくる。

 今回の作品の多くは、そんなイメージの形である。つまり、ドロドロしたものから生まれたばかりの形である。

 素材が相変わらず、ユニークだ。いくつかの作品で、昔の鉛筆キャップを素材とした作品がある。10年ほど前に閉店した常滑市内の文房具店の在庫を縁あって引き取ったときのものである。

 鉛筆キャップは、細胞のイメージに近いものだろう。梱包から出されて、膨大な数の鉛筆キャップが増殖した姿は、血管のようにも器官のようにも見える。

 爆発するようなイメージにも見える。あるいは、秩序と無秩序、混沌と形のせめぎ合いのような動勢を感じる。もっと言えば、会場に展示された作品が、宇宙空間に浮かぶ多種多様な天体のようにも思える。

 さまざまな色相のクレヨンを溶かして熱いうちに紙の上にドリッピングした平面作品が3点展示されている。

 冷却され、固化したクレヨンは剥がし取られている。手前に置かれた塊は、それらのクレヨンを粘土状に固めたものだ。ここにも混沌と形態、闇と光、無彩と色彩のせめぎ合いがある。

 ガラス絵と同じ要領で、ガラス板に裏側から彩色した平面作品がある。風景などをモチーフとする具象のガラス絵なら、上にくる形、色彩の絵具から先にガラスに載せていくが、小澤さんの作品では、まさに宇宙のように混沌とした世界である。

 ガラスの向こうのわずかな空隙に、小澤さんは鏡を入れている。混沌とした薄い絵具の層を透過して、作品の外の空間に広がる光と世界を微かに映す。

 いつも、小澤さんの作品はそれ自体で完結せず、遠くの小さな声を聞こうとする。それは、自分を超えた、宇宙そのもののようである。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

 

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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