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竹田尚史 質量の泉と重力の霧

美濃加茂市民ミュージアム(岐阜県美濃加茂市) 2019年9月21日〜10月27日

美濃加茂市民ミュージアムは、「芸術と自然」をテーマに現代美術のレジデンスプログラムを継続している。今回の竹田尚史さん(1976年生まれ)は、立体や写真、映像、インスタレーションと表現方法を多彩に変化させながら、自然界の質量や重力、時間と、それに自分自身を含む人間を関わらせながら相対化させる視点で世界の見方を変えるアーティストである。このミュージアムがある森で若手作家を中心に実験的な表現を繰り広げる「みのかもannual」に初期から参加しているメンバーの1人でもある。森から得たインスピレーションが今回の作品の構想の起点になっているものもある。小規模ながら、作家の一貫した問題意識が確認できる、よく練られた展観である。

竹田尚史

会場の壁面に、蛍光灯を使ってデジタルの数字を点灯させた作品「消えていくそれぞれの時間」は、竹田さんを含め、10人の誕生年月日時間を点灯させるのだが、それぞれの蛍光灯にはタイマーが付いていて、ランダムに変化するため、線形としてみたときの定点としての誕生時間が解体する。死とともに自分で経験することができない「生まれる」時間を非線形のものとして捉え直し、人間を固定的な実体としての体の概念から解き放っている。
こうした考えをユーモアとともに作品化した「私は山になって眠る」は、飼い犬と一緒に寝転がった自分をトレースし、その「自画像」をジオラマにしたインスタレーションである。ジオラマは、この作家がよく使う素材である秤の上に載っている。これは、自分の体を質量として別の物質に置換させる概念をイメージとして提示した作品と言えるだろう。
作家は、こうした考えを多くのバリエーションで展開させていて、今回も、作家自身の体重を、近くを流れる木曽川の水や、空気、台風の被害に遭った倒木の、自分と同質量の部分を燃やした灰などに置き換えていくことで、自分という存在を物質でみたときの変容、循環の視点から捉え直し、地球規模の時間と環境という尺度の導入によって、近代的な人間中心主義を相対化している。こうした作品は、ミュージアムの中だけでなく、周辺の森にも展示。私たちの体が分子の集合体であって、物質としては変化しても地球上の質量としては変わらないということをなお一層印象付けるのである。
この世界に存在するあらゆる物質が態様を変えながら、長い時間をかけて地球の中で循環していくという発想は、水の循環を時間限定でパフォーマティブな装置として見せた「いつかここに還ってくる」にも明確に現れている。

 映像作品「船を造る」は、一見、やや異色の作品である。地面に転がっているセミの死骸におびただしい数のアリが群れているのだが、実は映像は逆回転されている。昆虫の死骸をアリは解体し、食べるが、そのアリも死んで腐蝕、分解して土に還っていく。この作品が見せるのは、こうした生き物の摂理に注意を向けつつ、それをずらして逆回転させることで、アリがセミという宇宙船のようなメカニカルな体を持ったセミを組み立てているように見えないかというユーモアである。ここには、地球の生き物の循環が極めて象徴的に現れている。現実の森の何気ない光景に手を加え、虚構へとずらしながら、物質としての生き物の自然環境での変化を鮮やかに切り取る手法はこの作家の資質ならではである。

一方で、展示のガラスケースを空っぽのまま展示した作品「静かになっていく」は、空気そのものを展示した作品。台座や展示ケースそのものをモチーフにする作品はこれまでも、竹岡雄二や藤井光など、美術の制度や、記憶の不在を問題提起するなどの試みとしてあった。竹田の場合は、もう少し素朴に、空気そのものを素材とすることで、見えない物質の循環を意識させているが、そこに、展示を見るという枠組み、ミュージアムという制度への問いを含ませていることはいうまでもないだろう。この作品と関連させて見たいのが、「世界の端と端に置いた石」である。2台並べたガラスケースの端に2個の丸石を並ぶように置いているため、見る者はどうしても2個の石のつながりの関係性を考えるが、作者の意図は、むしろ、つながっていない異質な2つの世界の端と端が隣接しているという逆説として見られないかということである。

竹田尚史

 このほか、古い腕時計からベルトとガラス等を取り除いた文字盤と針、機械部分だけを散りばめた「忘れて消えて」は、世界中の誰かが使っていた腕時計の静止した時間をランダムにばらまいている。ここでは、線形の時間概念の解体、時間と空間の相対性、すなわち、非線形、非時間と地球的な物質の循環を意識させ、シンプルながら奥が深く、この作家の作品に通底するコンセプトを如実に表している。

竹田尚史
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