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ミニシアター・エイド基金が始動 #SaveTheCinemaも賛同者募集

 ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金から

 新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛要請で、全国のミニシアターが閉館の危機に直面する中、映画監督の深田晃司さん、濱口竜介さんが発起人となって立ち上げたプロジェクト「ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」が始動した。映画文化の多様性を守るため、「未来チケット」コース、「思いっきり応援」コースなどを設け、支援を呼びかけている。

 詳細はクラウドファンディング・プラットフォームのMotionGallery の「未来へつなごう!!多様な映画文化を育んできた全国のミニシアターをみんなで応援 ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」
4月13日の開始時点で、全国の66団体78劇場が参加している。

 ミニシアター・エイド基金は、映画文化を守ろうとする他の運動とも協力。ミニシアターへの緊急支援を政府への提言という形で実施する「 #SaveTheCinema『ミニシアターを救え!』プロジェクト」とも連携している。映画監督の諏訪敦彦さん、是枝裕和さんなどがインターネットで賛同者を募り、政府に対して緊急支援などを訴える。

 新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う自粛要請によって、全国のミニシアターの窮状が伝えられている。2020年2月から収益減少が始まり、3月末には観客ゼロの回が出る劇場や、休館に踏み切る劇場が続出。外出自粛要請が出ても、政府の補償は十分なものではなく、シネコンと比べ経営が脆弱であるがゆえに入金の減少は閉館に直結する。長い時間をかけて地域に文化を育んできたミニシアターは、一度失われるとその回復は容易ではない。
 名古屋のシネマスコーレの状況は、「ミニシアター、今どうなってますか?」シネマスコーレ・坪井さんの話

 こうした中、深田晃司監督、濱口竜介監督、MOTION GALLERY代表の大高健志さんを含むプロデューサー有志が集まり、ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金を設立。この数カ月を乗り切らないと、取り返しのつかないことになるとの思いで、緊急支援に乗り出した。
 4月4日から全国のミニシアターにヒアリングを行い、参加を呼びかけた。SNSで基金の立ち上げを宣言し、深田監督と濱口監督のステートメントを公開した。

 ミニシアター・エイド基金は、クラウドファンディングで資金を集め、ミニシアターを未来へと存続させるべく、経営のひっ迫している小規模映画館を支援することを最大の目的としている。
 コロナ禍収束後に再開したミニシアターの経営を、出資へのリターン負担が圧迫することは本末転倒だとして、劇場の特典対応負担を最小限にしている。それでも、「寄付」でなく、クラウドファンディングの形での支援としたのは、一人一人が自分の状況に合わせた「ちょっとした支援」をできるようにするためだという。

 支払う金額の段階に応じて、チケットやパス、作品ストリーミングなどのリターンを設定。その人に合わせた「支援」の選択肢がある。今回、ミニシアター・エイド基金に参加し、ファンドされた支援金の分配対象となるのは、ミニシアターと呼ぶべき映画館を所有・管理している団体のうち、コロナ禍に伴い、外出自粛の状況があと3カ月続いたときに、閉館の危機に直面する運営団体。クラウドファンディングで集まった金額から、クレジットカード会社への決済手数料5%、リターンを用意するための運営事務局の手数料(85万円)を引いた金額を、参加するミニシアター運営団体に寄付の形で分配する。

 クラウドファンディング中に参加団体が増えることも見越し、1運営団体あたり平均150万円の分配を目指す。目標金額は1億円に設定。達成されると、Motion Gallery史上最高額になる。

深田晃司監督、濱口竜介監督からのメッセージ

深田晃司監督
 日本を訪れた世界の映画人が等しく感嘆と賞賛の声を挙げるのが、ミニシアター文化の存在です。なぜこれほどまでに国家の支援の少ない国で、シネコンとは違う、非常にローカルでユニークな映画館が日本中に存在できているのか、と。撮影所システムの崩壊後に広がったミニシアターの存在によって、私たちは娯楽大作だけではなく、様々な国、様々な時代の映画を鑑賞することが叶いました。
 そこでの鑑賞体験がどれだけ映画を愛する人たちの人生を豊かにし、映画ファンを育てたか。また私たち映画監督や映画人にとっては作品を映画ファンに届けるための貴重な「場」をミニシアターが創出してくれたか、感謝してもしきれません。そのミニシアターが、今まさに危機的状況にあります。それはつまり、映画の多様性の危機であると言えます。
 そもそもなぜ、映画の多様性が守られるべきなのでしょうか。その方が面白いから。それも大事ですが、さらにひとつ理由をあげるとすれば、それは民主主義を守ることにつながるからです。民主主義の本質は多数決ではなく、いかに多様な視点を掬い取り社会設計に取り込んでいくかですが、そのためにはまず、多様な価値観が社会に可視化されてなくてはなりません。耳に届かない声、目に見えない感情を可視化するのに、文化芸術の果たす役割はとても大きいと言えます。ある作家がカメラで世界を切り取り人間を捉え、そこにはいない誰かへと届けることのできる映画もまた、世界に多様性をもたらす強力な表現のひとつです。
 日本においてミニシアターはその多彩なプログラムによって、世界の多様性に貢献し続けてきました。外国の映画人からミニシアター文化を無邪気に賞賛されると、我が事のように誇らしくなる反面、素直には喜べない複雑な思いもまた抱かされます。なぜなら、特に地方の多くのミニシアターが、経済的にギリギリの状況で、そこに携わる人々の人生を犠牲にするような覚悟によって成り立っていることを知っているからです。
 今回のコロナウィルスのような有事に、まっさきに存続の危機に立たされるのは、大手の資本のバックアップもなく、ときに家内工業のような規模で営まれる多くのミニシアターです。平時においても、日本は諸外国と比べ映画館にはほとんど文化予算が降りることはありません。本来なら、こういったときこそ国が支援に乗り出すべきだと思いますし、私たちは文化芸術の公的価値に見合った支援を今後も要求し続けなくてはなりませんが、今はそれを待っている時間もありません。
 ぜひ、映画の多様な文化を絶やさないためにも、ミニシアターの支援にご協力ください。
 最後に。なぜ配信隆盛のこの時代に映画館なのか。簡潔に言えば、私たち映画製作者は、映画を作るときにスクリーンに上映されることを前提に、映画館で最高のポテンシャルが発揮されるように映像も音も設計するからです。配信やテレビで鑑賞するのも構いません。ただ、それはいわば画集のようなものです。画集はとても見易いですが、だからと言って美術館が不要になるわけではありません。    発起人:深田晃司(映画監督・独立映画鍋共同代表)

濱口竜介監督
 深田さんが上に書いてくださっていることに、全く同意します。
 なので、私(濱口)が書くのは蛇足ですが、個人的な思いのみ、書きつけます。
 私はミニシアターの存在によって、映画ファンに、そして映画監督にしてもらった、という思いがあります。その「恩返し」のために今回の基金の発起人として名を連ねました。その誇るべき文化をなくすことは決定的損失です。今、動かなくてはなりません。同じ思いを持つ、映画ファンの皆さんの参加と協力をお待ちしています。
 深田さんの書かれた通り、ミニシアターの多くは市民団体や、ときに一個人など「有志」とも言うべき人たちによって支えられています。劇場の規模が小さいということは、収益の規模もまた小さいということであって、利益を期待するのみで、運営することはできません。映画というメディアがこの世界において持つ価値を信じる人たちがいなくては、決して成立しない場です。ただ、志のみでは現在の状況を持ちこたえることはできないでしょう。
 私が監督として参加した『うたうひと』というドキュメンタリー映画の制作中に、出演者である小野和子さんという方から、少なからぬ額のカンパを手渡されたことがあります。恥ずかしいことに、制作資金の不足を見通されてのことでした。小野さんはそのとき「お金なんかに負けちゃダメよ」と言いながら、そのお金を渡してくれました。このことが深く心に残っています。お金に負けずに志を持ち続けるには、最低限のお金がやはり必要なのです(ただそれは、何より志のために必要なのです)。
 とは言え現在、大多数の人が日々、不安の中にいると思います。あくまで自分の生活を最優先に、物・心両面で支障がない範囲での支援をお願いしたいと思っています。相対的に「余裕のある人」が少しだけ、現時点でそれの「ない人」にシェアするだけでよいのです。「余裕」そのものを社会全体が保持するよう、個々に分配する、その方策の一つとして、この基金があるものとしてご理解ください。
 他の業種も等しく危機に瀕していることは重々理解をしています。同様の試みが、必要とされる、あらゆるジャンルで「有志」によって始まることを願っています(意外とここから、新たな経済の形が始まるかもしれません)。
 目標金額は、私自身、一生で一度も見たことのないような金額です。本当に、お一人お一人の力が必要です。ご理解と、ご協力を賜われたら幸いです。何卒、よろしくお願いいたします。    発起人:濱口竜介(映画監督)

ハフィントンポストに掲載された深田晃司監督 、濱口竜介監督 、大高健志さん(Motion Gallery)のインタビュー記事

「ミニシアター・エイド基金」参加劇場一覧

クラウドファンディングの支援を受ける映画館(全国78劇場・都道府県内は五十音順)

■北海道
シアターキノ(札幌市)/ シネマアイリス(函館市)/ シネマ・トーラス(苫小牧市)/ 有楽シアター(札幌市)/

■岩手県 
アートフォーラム(盛岡市)/ 一関シネプラザ(一関市)/ フォーラム盛岡(盛岡市)

■宮城県
仙台フォーラム(仙台市)/ チネ・ラヴィータ(仙台市)

■山形県
フォーラム山形(山形市)

■福島県
フォーラム福島(福島市)

■茨城県
瓜連あまや座(那珂市)

■群馬県
前橋シネマハウス(前橋市)

■埼玉県
川越スカラ座(川越市)/ 深谷シネマ(深谷市)

■千葉県
千葉劇場(千葉市)

■東京都
アップリンク吉祥寺(武蔵野市)/ アップリンク渋谷(渋谷区)/ 飯田橋ギンレイホール(新宿区)/ シアター・イメージフォーラム(渋谷区)/ シネマヴェーラ渋谷(渋谷区)/ シネマ・チュプキ・タバタ(北区)/ シネマハウス大塚(豊島区)/ シネロマン池袋 (豊島区)/ 下北沢トリウッド(世田谷区)/ 下高井戸シネマ(世田谷区)/ 高円寺シアターバッカス(杉並区)/ ポレポレ東中野(中野区)/ ラピュタ阿佐ヶ谷(杉並区)/ ユジク阿佐ヶ谷(杉並区)

■神奈川県
あつぎのえいがかんkiki(厚木市)/ シネマ・アミーゴ(逗子市)/ シネマ・ジャック&ベティ(横浜市)/ シネマノヴェチェント(横浜市)/ 横浜シネマリン(横浜市)

■新潟県
ガシマシネマ(佐渡市)/ 新潟・市民映画館シネ・ウインド(新潟市)

■石川県
シネモンド(金沢市)

■福井県
メトロ劇場(福井市)

■長野県
上田映劇(上田市)/ 長野相生座・ロキシー(長野市)/ 長野千石劇場(長野市)

■静岡県
静岡シネ・ギャラリー(静岡市)/ シネマイーラ(浜松市)

■愛知県
刈谷日劇(刈谷市)/ シアターカフェ(名古屋市)/ シネマスコーレ(名古屋市)/ 名古屋シネマテーク(名古屋市)/名演小劇場(名古屋市)

■京都府
アップリンク京都(京都市)/ 京都シネマ(京都市)/ 京都みなみ会館(京都市)/ 出町座(京都市)/ 舞鶴八千代館(舞鶴市)/ 福知山シネマ(福知山市)

■大阪府
シアターセブン(大阪市)/ シネ・ヌーヴォ(大阪市)/ 第七藝術劇場(大阪市)/ プラネットプラスワン(大阪市)

■兵庫県
神戸映画資料館(神戸市)/ 宝塚シネ・ピピア(宝塚市)/ 豊岡劇場(豊岡市)/ パルシネマしんこうえん(神戸市)/ 元町映画館(神戸市)

■岡山県
シネマ・クレール(岡山市)

■広島県
シネマ尾道(尾道市)/ 福山駅前シネマモード(福山市)

■山口県
市民シアター萩ツインシネマ(萩市)

■佐賀県
シアター演屋(唐津市)/ シアターシエマ(佐賀市)

■熊本県
本渡第一映劇(熊本市)

■大分県
シネマ5(大分市)/ シネマ5bis(大分市)/ 日田シネマテーク・リベルテ(日田市)

■鹿児島県
ガーデンズシネマ(鹿児島市)

■沖縄県
ブックス十番館シネマパニック(奄美市)/ よしもと南の島パニパニシネマ(宮古島市)

「ミニシアター・エイド基金」賛同人一覧

賛同人(五十音順)

天野友二朗(映画監督)/ 安楽涼(映画監督)/ 五十嵐耕平(映画監督)/ 池添俊(映画監督)/ 磯部鉄平(映画監督)/ 今泉力哉(映画監督)/ イリエナナコ(映画監督)/ 入江悠(映画監督)/ 岩切一空(映画監督)/ 岩淵弘樹(映画監督)/ 上田慎一郎(映画監督)/ 枝優花(映画監督)/ 柄本佑(俳優・映画監督)/ 太田信吾(映画監督)/ 大野大輔(映画監督)/ 小田香(映画監督)/ 片渕須直(映画監督)/ 片山享(映画監督)/ 加藤直輝(映画監督)/ 金澤勇貴(映画監督)/ 河瀬直美(映画監督)/ 川中陸(映画監督)/ 川原杏奈(映画監督)/ 完山京洪(映画監督)/ 菊地健雄(映画監督)/ 木場明義(映画監督)/ 草野なつか(映画監督)/ 倉田健次(映画監督)/ クリス・サリバン(映画監督)/ 黒沢清(映画監督)/ 是枝裕和(映画監督)/ 斎藤工(俳優・映画監督)/ 坂田貴大(映画監督)/ 澤佳一郎(映画監督)/ 澤田サンダー(映画監督)/ 品田誠(映画監督)/ 柴田啓佑(映画監督)/ 小路紘史(映画監督)/ 白石和彌(映画監督)/ 杉田 協士(映画監督)/ 諏訪敦彦(映画監督)/ 瀬々敬久(映画監督)/ 瀬田なつき(映画監督)/ 想田和弘(映画監督)/ 園田新(映画監督)/ 染谷将太(俳優・映画監督)/ 田中雄之(映画監督)/ 塚本晋也(映画監督)/ 月川翔(映画監督)/ 土屋豊(映画監督)/ 坪川拓史(映画監督)/ 手塚悟(映画監督)/ 土居伸彰(NEWDEER代表)/ 遠山昇司(映画監督)/ 戸田彬弘(映画監督)/ 富田克也(映画監督)/ 中神円(映画監督)/ 中村和彦(映画監督)/ 中山剛平(映画監督)/ 中村高寛(映画監督)/ 中村拓朗(映画監督)/ 中川駿(映画監督)/ 二ノ宮隆太郎(映画監督)/ 野原位(映画監督)/秦俊子(映画監督)/ 東野敦(映画監督)/ 菱沼康介(映画監督)/ 平井諒(映画監督)/ 藤村明世(映画監督)/ 舩橋淳(映画監督)/ 古澤健(映画監督)/ 松尾豪(映画監督)/ 松永大司(映画監督)/ 松本花奈(映画監督)/ 松本純弥(映画監督)/ 真利子哲也(映画監督)/ 三宅唱(映画監督)/ 宮嶋風花(映画監督)/ 山田佳奈(映画監督)/ 山戸結希(映画監督)/ 山中瑶子(映画監督)/ 行定勲(映画監督)/ 横浜聡子(映画監督)/ 吉開 菜央(映画監督)/ 渡辺真起子(俳優)

「ミニシアター・エイド基金」賛同団体一覧

賛同・応援くださる団体。本基金からの支援金分配はない。賛同団体(五十音順)

アテネ・フランセ文化センター / K’s cinema / KBCシネマ / 神戸アートビレッジセンター / シネクイント/ホワイトシネクイント / 高田世界館 / Denkikan / 特定非営利活動法人 宮崎文化本舗 宮崎キネマ館 / 延岡シネマ / 別府ブルーバード / ゆいシネマを守る会 / ユーロスペース / 横川シネマ

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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