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柴田麻衣個展 ギャラリー芽楽(名古屋)で2025年11月15日-12月7日に開催 

Gallery 芽楽(名古屋) 2025年11月15日〜12月7日

柴田麻衣

 柴田麻衣さんは1979年、愛知県生まれ。名古屋芸術大学大学院美術研究科修了。2013年のVOCA展で奨励賞を受賞。2023年、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で始まった愛知県の若手アーティスト支援のための作品購入の一環で、愛知県美術館に作品が展示された。

 版の思考をベースに、レイヤーを重ねるモンタージュ的な空間構成によって明晰な主題に基づく絵画空間をつくっている。

 過去のテーマを拾うと、2019年の先住民族の文化喪失2020年のユダヤ人迫害2021年の宗教と不寛容2022年の危機的な地球環境2023年のロシアによるウクライナへの侵略2024年の資本主義と格差(映画「ノマドランド」)がある。

 今回は、第二次世界大戦で最前線に出征した女性兵士のトラウマがテーマになっている。

2025年 個展

 今回は、これまでと比べると、明示的な表現を控えている印象である。筆者が作家と会えず、直接に話を聞けていないから、そう思えるともいえるが。

 多くの作品は、《Cloud Thickness》(雲の厚さ)というタイトルが付され、またそれ以外には、《volcano blue scene》(火山の青い景色)というタイトルになっている作品がいくつかある。

 《Cloud Thickness#1》は、縦194センチ、横260.6センチという巨大な作品。今回の個展のメインとなる。画面に大きく火山(volcano)の火口が描かれている。

 上からの映像、つまり上空からの映像を参考に描いている。頂上の凹みであるカルデラも確認できる。青く見えるのはカルデラ湖であろうか。だが、同時にこのブルーはどこか現実感を欠いた色面のようにも見える。

 加えて、残雪、雲、有刺鉄線のようなキズが描かれ、もやもかかっている。それ以上に、画面の下部や空間に欧文の言葉が書き込まれ、手紙の消印のような画像も見える。つまり散り散りになった手紙、言葉、記録のイメージがある。どんな意味かは不明だ。

 地球を見下ろすような雄大な風景と視界の邪魔をする雲、その大きさと対比をなす小さな言葉の断片、痛々しい傷痕。見えるものと見えないもの、語られる言葉と語りえぬものの葛藤が反響しているようである。

 ここからは、筆者の推測だが、柴田さんは、2015年にノーベル文学賞を受賞したベラルーシのの作家・ジャーナリスト、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチの『戦争は女の顔をしていない』を参照しているのではないか(カンテミール・バラーゴフ監督によって『戦争と女の顔』として映画化もされた)。

 一見、巨大な火山のカルデラは、戦争で心の傷を負った女性兵士とは関係がない。だが、この対比、そして外から窺い知れない静寂こそが、見えない痛み、心の底に深く沈潜したトラウマ、回復することが決してない傷を逆説的に暗示している。

 他の作品でも、向こう側や全貌が把握しにくいように、風景に靄がかかっていたり、矩形の半透明のレイヤーが描かれていたりする。

 惑星的な規模で、人間が兵器を使って殺戮し合う戦争に比べれば、個人はあまりに無力である。作家は、沈黙している小さき者の物語をすくいとっている。

 権力によってかき消されてしまう小さな人を「不在者」でなく、「実在者」として見ようとすることが試されている。

 侵略、戦争という蛮行は世界で続き、人間の尊厳が傷つけられている。恐怖、差別、屈辱、喪失感、傷痕は癒えることがない。沈黙の奥の、言葉にできない、理解を超えた傷を理解しようとすることが問われている。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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