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柄澤健介 ライツギャラリー(名古屋)で6月17,18,24,25日,7月1,2日

Lights Gallery(名古屋) 2022年6月17,18,24,25日,7月1,2日

柄澤健介

 柄澤健介さんは1987年、愛知県豊田市生まれ。金沢美術工芸大、同大学院で彫刻を学んだ。クスノキを彫り、パラフィンワックス(蝋)を凹みに埋めるなど、2つの素材を巧みに組み合わせた作品を展開する。

 東京や名古屋を中心に個展を重ねる。2021年には、名古屋市のAIN SOPH DISPATCHで、個展「分水嶺」を開いた

 チェーンソーや鑿(のみ)でクスノキを加工し、蝋を流し込む。ダイナミックに刻まれた木と蝋の白色層の重なりによって、新たな風景を現出させる。

柄澤健介

 山を中心とした自然の景観、地勢のイメージがモチーフ。実際に趣味で山登り、スキーをしている。そうした実感的なパースペクティブが作品の構造に関わっている。

 AIN SOPH DISPATCHのようなホワイトキューブの画廊と異なる、古い民家をリノベーションしたこの空間で作品を見ると、また違う見え方をして、それも興味深い。

 会場には、最近、このギャラリーでの展覧会に参加した倉地比沙支さんや植村宏木さんなどの作品が展示され、前の展示の余韻がかすかに響くように工夫されている。 

 今回は、Studio Work LAB(名古屋市北区野方1919-27 tel 052-915-2152)でも同時開催である。

Kensuke Karasawa|視点の深度

柄澤健介

 メインの作品は床置きの大作「視点の深度」である。

 長大な丸太を2つに割り、フラットにした後、内側をえぐり、蝋を補填している。割った丸太は左右対称に配置されているが、白いワックス部分は、石川県の能登半島、北海道西部、鹿児島県など、これまでに柄澤さんが登った山のあるエリアの形になっている。

 一方、側面から見ると、逆さまになった山が荒々しく加工されているのが分かる。

 柄澤さんの作品の面白さは、こうした山や谷、水、光が織りなす光景に、独自の視点、ひねりが加えられていることである。

柄澤健介

 天地が反転しているともいえるし、上から見たとき、湖の水面のように見える静謐なワックスの部分が、実は、険しい高峰の裏側の空間になっていることにも気づく。

 想像力によって、身体をはるかに凌駕する地勢の空間スケールを造形できるのは、柄澤さんが実際に山に入る体験を繰り返しているからだろう。

 抽象化された自然のランドスケープは、柄澤さんの内なる尺度、空間把握によるものであって、それはダイナミックであると同時に、極めて繊細である。

 それは、空間の反転や対称、ポジネガなど、自然と空間へのさまざまな想像力を私たちに喚起させる。

 柄澤さんは、木材を彫っていくときに、表面と内部が継起的に変化していく感覚があると言っている。

柄澤健介

 つまり、木を彫っていく中で、チェーンソーの刃先が達した場所が新たな表面に変わり、その奥に見えない内部が生まれる。さらに彫ると、表面だった場所が空間となって、内部が表面として現れてくる。

 彫ることによって、木という素材が空間に取って代わり、触れることのできなかった内側へと光が入る。表面の向こうの内部には、新たな空間と表面が待っている。

 こうした木という素材の表面と内部、物質と空間の関係が解体されながら更新され、深さのある眼差しを意識した造形がつくられる。

 それは、また、柄澤さんが体験した空間スケールやイマジネーションとも響き合っている。

柄澤健介

  会場にあった別の展示、例えば、白い蝋がそそりたつように造形化された美しい作品や、有機的な空洞構造が連なったレリーフ状の作品も興味深い。

柄澤健介

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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