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『天使/L’ANGE』 名古屋シネマテーク 2月27日から “伝説と呼ばれた映画”

『天使/L’ANGE』

 1980年代、フランス・カンヌ映画祭批評家週間で衝撃を与え、世界のアートシーンに登場した『天使/L’ANGE』(1982年)が、 2021年2月27日〜3月5日、 名古屋・今池の名古屋シネマテークで 上映される。デジタルリマスター版。

 80年代の公開時、フランスのマスコミ各紙はいっせいに最大級の賛辞を送り、ルイス・ブニュエル、サルバドール・ダリの『アンダルシアの犬』(1928年)の再来、あるいは全く新しいアヴァンギャルド映画と絶賛された。

 ダリ&ブニュエル、マン・レイ、ジャン・コクトー、マヤ・デレン、ケネス・アンガーといった旧来の「アヴァンギャルド映画」「実験映画」とは一線を画した哲学を感じさせ、1こま1こまが絵画のように美しい。

『天使/L'ANGE』

 日本では、1986年にミニシアターブームとカルト映画人気の潮流もあって、 映像とサウンドだけの斬新な表現が注目され、異例のロングラン劇場公開が実現した。

 筆者も、東京で大学生として学生演劇に打ち込んでいた当時、周囲で評判になっていて、見に行った記憶がある。

 洗練された映像は35年以上の月日がたった今も、輝きを放っている。恐ろしいまでの美意識に基づいた特殊合成、特殊効果のほとんどをパトリック・ボカノウスキー監督自身が行ったため、完成までには5年という歳月が費やされた。音楽は、妻のミシェール・ボカノウスキーが、この映画のために弦楽四重奏を制作。

 1982年/フランス/64分/DCP/カラー

 明確なストーリーは存在せず、闇と光、音による幻想的な映像と不可思議な登場人物たちが繰り広げるシークエンスで構成される実験的な映像。

 天井から吊るされた人形を繰り返しサーベルで突く仮面の男。牛乳の壺はテーブルから床に落ち、ミルクが飛び散る。
 膨大な書籍の中、せわしなく本を探しては運び続ける図書館員たちは、皆同じ風貌をしている。
 鼻歌を唄いながら風呂に入った男は、身だしなみを整えポーズを決める。透明な立方体の中の裸女と襲いかかる男たち・・・。

 観客は、悪夢のようなシュールな映像の迷宮に誘い込まれる。これらのイメージは、古典的な効果から、複雑なセット、特殊合成など気の遠くなるような細密な技術が駆使されている。

パトリック・ボカノウスキー

 1943年生まれ。絵画、写真、光学を学び、画家としても活動する。1972年に最初の短編映画『白粉をぬる女』がツーロン映画祭で金賞となり、『朝の食事』(1974年)はオーバーハウゼン実験映画祭などで受賞。
 長編映画第1作『天使/L’ANGE』はブニュエルとダリの『アンダルシアの犬』の再来と評価され世界的に注目を集める。
 主な作品に『海辺にて』(1991年)、『鴨のオレンジソース蒸し』(2002年)、『太陽の夢』(2015-16年)。
 パートナーのミシェール・ボカノウスキー(作曲家・音楽家)が本作で音楽を担当する。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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