名古屋のカルチャーWEBマガジン「アウターモーストナゴヤ」では、レビュー、リポート、トピックスなどを掲載します

川角岳大 川底の葡萄 ギャラリーN

gallery N(名古屋) 2020年1月18日〜2月2日

 川角さんは1992年、愛知県生まれ。愛知県立芸大卒業後、2017年に東京藝術大大学院美術研究科を修了し、現在は、埼玉県を拠点に制作している。gallery Nでは2017年にも個展を開催。同じ年に「VOCA展2017 現代美術の展望─新しい平面の作家たち」にも出品した。
 筆者は川角さんの個展を初めて見る。なかなか説明しがたい作品である。大作の絵画には、深い緑の地に対してニュアンスに富んだ黄色がかった緑の色面を置き、中に揺らぐ樹影のようなものが描かれる。この黄緑は、律動するような動きを感じさせ、生気を放散する気配で、生き物のようにも見える。空間にぽっかり開いた別の空間への入り口のようでもある。いずれにしても深い森のような謎めいた世界である。

川角岳大

 別の作品は、犬や植物、葡萄が描かれているが、これも不思議な作品である。ある作品では、地面に突っ伏した犬を上から見た構図で描いている。前脚を投げ出すように前に出し、後脚は踏ん張り、両耳は鋭角的に前に突き出ている。犬と言いながら、かなりデフォルメされ、半面、体毛は繊細な筆触で丁寧に描かれている。右には植物の葉が茂り、下には、この犬を見下ろす作家本人のものと思われるスニーカーが見て取れる。このスニーカーの足も空間的には、かなり斜めに差し出したような角度で、空間がねじれている。

川角岳大

 犬を描いた別の作品も、面白い。1つは、薄塗りした地の上にスピード感ある荒いタッチで後ろ姿を描くが、首と頭部の角度から目と鼻の位置が手前にずれている感じで、別の1点は、大きな顔、非常に寄った目が特徴的。人間のような眼差しで、こちらを凝視する。左側から介入している人間の頭のような物体がある。この犬には、作者自身の存在が憑依している、作者自身の目が仮託されているようにも思う。川角さんにとって特別な存在であるこの犬という存在を通じて、世界を見る。それは、ヒトが自然や外界を客体として見るという既存の見方、見え方を疑って見るということである。人間が見ている世界を相対的に捉え直しているというのが川角さんの作品を通して感じることだ。

 観葉植物を描いた作品も対象がデフォルメされ、かすれた薄く荒い筆触が際立つが、別の植物を描いた作品は比較的厚く絵の具を重ね、対象の形態をしっかり捉えている。あるいは、繊細な変化に富んだ空間を時間をかけて描いた中に葡萄の輪郭を即興的に描いた作品もある。
 また、発泡スチロールを溶かし固めた黒色のオブジェ、母方の故郷の熊野で祖父が剥製を作るときに使っていたという材木なども展示。他にも、折り畳み椅子に布による装飾を施し、鑑賞用に置くなど、絵画だけでなく、絵画と展示空間を意識した見せ方をしているのが分かる。画廊オーナーによると、この作家は、絵画を環境の中でどう見せるかに関心をもっているようである。これまでも、絵画の設置空間を建築的にしつらえていたという。今回は空間の仮説性は控え目で、むしろ絵画のモチーフやオブジェから熊野の森の雰囲気が伝わってくる。

 デフォルメや空間のねじれ、歪な遠近感、そしてスピード感や律動感を生むストロークや、かすれ、筆触、あるいは、浮遊感と重厚さ‥‥。何かの傾向に収斂することなく、そうした感覚が共存する。自身の生活に身近な対象ながら、画面に定着されたイメージは異質である。抽象ではないので、対象を見てしまうけれども、その見ようとするものをすり抜けていく謎かけのよう。多分、犬の眼差しを含めた想像力、記憶力から生まれる世界の不可解さを、絵画の中だけでなく、周囲にも向け、イメージと、作者自身の世界観、生活体験そのものが一体になって見る人を包むようなインスタレーションにしつらえるのだろう。

川角岳大
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