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加藤恵利展 断片からの創造2025 ハートフィールドギャラリー(名古屋)で2025年10月2-12日に開催

ハートフィールドギャラリー(名古屋) 2025年10月2〜12日

加藤恵利

 加藤恵利さんは1967年、愛知県生まれ。Bゼミで美術を学んだ。1996年に当時、名古屋にあった新桜画廊で見た加藤さんの作品は建築部材を使った大規模なインスタレーションだった(2021年の個展レビューを参照)。

 現在は、薬や菓子の空き箱、段ボール、折り込みチラシ、フライヤーなどを分解し、その断片を再構成した平面、立体、半立体を制作している。

 廃棄物の再構築によって、断片の形、色彩を組み合わせることで、新たな形態や構造、構成が生まれることを追求している。作業をシンプルにすることで、もとの素材を引き継ぎつつ、新たな美しさを招来する作品である。

 なにげない断片に、かつての空き箱、チラシ、段ボールなどとは異なる「役」を発見することで作品を成立させ、そこに「いのち」が注がれる。2022年の個展レビュー2024年の個展レビューも参照。

断片からの創造2025

 今回、展示のメインとなったのは、新聞の折り込みチラシをちぎって支持体に貼り重ねていった抽象絵画のような、新たな展開の作品である。

 以前発表した、空き箱の表層の紙を剥がして支持体に貼った作品や、同じ色調の箱の断片で構成した作品が、整然とした美しさ、洗練さに行き着いていたのに比べ、混沌としていると言うのが率直な感想である。

 食料品や家電製品など、種々雑多なものが印刷されているチラシは、決して美しいとはいえないし、空き箱に比べて、紙の質も劣る。そうした素材自体の性質ゆえか、チラシの貼り方もコントロールされているわけではない。

 また、貼っては削り、剥がすという、作業を繰り返しているので、紙の断片が散り散りになって混ざりあっていることもある。だが、それゆえと言うべきか、オールオーヴァーネスがこの作品の特徴になっている。

 実際に加藤さんは、これまで以上に「絵画」を意識して、この作品を制作しているように思える。それは、この作品シリーズをギャラリーの同じ壁面に連続して並べていることからもわかるが、それ以上に「奥行き」が意識されているのである。

 加藤さんによると、つやだしメディウムを使って、チラシの断片を重ねているが、それだけだと、全体がコーティングされて奥行きがなくなるため、つや消しメディウムも使いながら、飛行錯誤を重ねているとのことだ。

 ある意味では、チラシに印刷された雑多なイメージが分解され、絵具のような役割を果たしながら、相互に混ざり合って、画面がつくられていくという意味で、これまでの「解体」「構成」による作品とは明らかに違う方向への挑戦となっている。

 つまり、これまでの作品は、空き箱や段ボール、折り込みチラシを解体するにしても、そうした部分の元の色彩や形が新たな存在のあり方として更新され、別の部分とともに再統合されていたのだが、新しい作品では、それがない。

 以前の作品が、「部分」「形」「色彩」の選択、再構成に近いものだとすれば、新作は、無作為、無差別によって、よりオープンな方へと向かっている。新たな挑戦の今後に注目したい。

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