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多治見市陶磁器意匠研究所 卒業制作展 2022 ギャラリーヴォイス(岐阜県多治見市)で2月18日-3月6日

ギャラリーヴォイス(岐阜県多治見市) 2022年2月18日〜 3月6日

ISHOKEN GRADUATEEXHIBITION 2022

 岐阜県の多治見市陶磁器意匠研究所の第63期デザインコース・技術コース 7人、第19期セラミックスラボ6人による卒業制作展である。

 作品は多種多様である。それは単に個性の違いということもあるが、意匠研に来るまでの経歴がバラエティーに富んでいることにもよる。

 一人一人から制作プロセスや、コンセプトを聴くことができた。今後の展開が楽しみな作家が多くいた。

 若い作家ばかりだが、完成度の高い作品も多い。まだ試行錯誤中であるからこそ制作に対するひたむきな思いや問題意識、その人ならではの無垢の輝きが作品に現れていて興味深かった。

第63期デザインコース

加藤正樹

加藤正樹

 加藤正樹さんは1997年、兵庫県生まれ。2020年、秋田公立美術大学卒業。

 泥漿のプールに石膏の凸型を沈め、表面に付着した土の皮膜を乾燥させた後、土の収縮によってできた亀裂を泥漿で接着した器型オブジェを焼成している。

 シンプルな形態の器に亀裂が無作為に入ったミニマルな作品である。

鷹取奏

鷹取奏

 鷹取奏さんは1995年、大阪府生まれ。2018年、武蔵野美術大学卒業。

 口の側から、土のひもを巻いていくように形を作り、土の重さでゆがみ、倒れていく変形をそのまま生かしている。土は、精製していない原土を使用した。

 均整美を求めるのではなく、あえて扱いにくい土を使って、土素材と素朴な制作プロセスから形に現れる表情をすくいとっている。

田辺悠太

田辺悠太

 田辺悠太さんは1997年、京都府生まれ。2019年、静岡文化芸術大学卒業。

 自由制作(写真上)では、きめ細かい陶土を使い、用途性と質感を重視して形を決めた。金属的でさびついたような質感は、土とは思えないほどである。自分で調合した釉薬を吹き付け、マンガンの含有量などをコントロールした。

 一方、課題制作では、立ち姿が美しいシルエットになる形を求めて制作したとのことである。

宮地晋吾

宮地晋吾

 宮地晋吾さんは1993年、岐阜県生まれ。2015年、豊田工業高等専門学校卒業。

 キューブ状と球状のオブジェである。キューブ状オブジェの表面は、3層構造になっていて、表面の土の層が割れてその下の釉薬の層を流れ落ちるような動きをつくっている。一方、球状のオブジェは、筒状にした土を内側から押し広げるように力を加えることで造形化し、表面にひび割れをつくった。

 いずれも、地層の動きのアナロジーとして、土素材の表情を出している。

椋梨日向子

椋梨日向子

 椋梨日向子さんは1996年、岐阜県生まれ。2018年、金沢美術工芸大学卒業。

 手びねりで成形し、表面に土のはんこや木べら、貝殻で反復模様をつけている。白土を塗りこんで削り、ベンガラも使うなどして加飾している。

 壺のようでありながら、トルソ風でもある形態は、人が手を広げたイメージである。作家は意識していないというが、プリミティブな印象を受ける。

第63期技術コース

宇佐美賢祐

宇佐美賢祐

 宇佐美賢祐さんは1995年、埼玉県生まれ。2020年、京都大学総合人間学部卒業。

 ダイナミックさと繊細さを併せ持った青白磁の器である。作家本人としては、磁器の平滑な質感に惹かれているというよりは、造形への意識のほうが強いようだ。

 ろくろ成形を基本に、土を削るなど技法を選択しながら、薄く凛とした存在感と強さを際立たせる形を追求している。

佐藤美月

佐藤美月

 佐藤美月さんは1994年、東京都生まれ。2018年、多摩美術大学卒業。

 ひもづくりで形を立ち上げ、こてなどの道具は一切使っていない。自分の手だけで造形した結果、凸凹の表面、ゆがみがそのまま作品の特徴になっている。いびつな形状を道具で消すのではなく、むしろ、そのまま受け入れた作品である。

 大学では、グラフィックデザインを学んだ。以前、取り組んでいた墨のドローイングと同様、植物のラインをイメージして呉須で軽やかに線を引いた。

第19期セラミックスラボ

天野靖史

天野靖史

 天野靖史さんは1998年、広島県生まれ。2021年、京都市立芸術大学卒業。

 人の形を追究している意匠研では珍しいタイプの作家である。和紙の繊維がブレンドされた陶彫向きの赤土を使用。コーヒー豆のかすを使った炭化焼成を試みた。

 舟越桂を想起させる作品。土素材で人としての動物、動物としての人の胸像を探求している。

鹿島彩

鹿島彩

 鹿島彩さんは1987年、神奈川県生まれ。2010年、東京家政学院大学卒業。2021年、多治見市陶磁器意匠研究所第18期セラミックスラボ修了。

 しなやかな形態とひび割れた表面が特徴である。表面は、後からモザイクをはめ込んだようにも、逆に自然に亀裂が入ったようようにも見えるが、実は躯体をひもづくりで立ち上げた後、ひび割れた土のシートを貼っている。

 大地の変動、収縮がイメージの源泉。形態の曲面を生かしながら、ひび割れのテスクチャーを手作業でコントロールしている。

故金あかり

故金あかり

 故金あかりさんは1995年、岐阜県生まれ。2019年、武蔵野美術大学卒業。2021年、多治見市陶磁器意匠研究所第62期デザインコース修了。

 屋外のバルコニーに壺型のオブジェをごろごろと展開した大胆なインスタレーションである。亀裂や割れ、ゆがみ、たわみなど、焼成するプロセスで自然に崩れた要素をそのまま自然現象として取り込んでいる。

 釉薬を使わず、顔料を化粧土に混ぜて着色しているため、よりいっそうオブジェっぽく見える。

五嶋穂波

五嶋穂波

 五嶋穂波さんは1996年、岐阜県生まれ。2019年、国際基督教大学卒業。2021年、多治見市陶磁器意匠研究所第62期デザインコース修了。

 石膏型を使ったタタラ成形によるパーツを組み合わせた、花のようなイメージの作品である。ほんのりと温かみを感じる優しい色彩が心地よい。

 柔らかな色合いに、シンメトリーでない形の自然の趣とマットな質感が加わり、軽やかな仕上がりになっている。

平野舞佳

平野舞佳

 平野舞佳さんは1995年、京都府生まれ。2019年、京都市立芸術大学卒業。2021年、京都市立芸術大学大学院美術研究科工芸専攻修士課程修了。

 磁土を焼いた粒状物で作った脆い器型を用意し、その周囲に釉薬をつなぎにしてペースト状の磁土を塗り重ねていく。その後、型を掻き出し、崩れないように焼成している。

 繊細でフラジャイルな作品である。大学に在籍した頃は、手びねりで動物の形を作っていた。その後、素材と技法によって形が生成される現在の制作に方向転換した。

宮下卓己

宮下卓己

 宮下卓己さんは1998年、東京都生まれ。2021年、武蔵野美術大学卒業。

 ひもづくりで、2つの筒状の形の上に胴体をつけ、人形のようにしたユニークな作品。子どもの頃のぬいぐるみ、ゲームのキャラクターなどの記憶が影響している。

 とはいえ、モチーフや形ありきというよりは、自然体で土を積み上げていくという素朴な制作の喜びやユーモアが伝わってくる作品である。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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